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妊娠・出産を「女性問題」に押し込めてはいけない理由

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Thinstock/Photo by djedzura

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 「不妊」と聞くと女性の問題と捉える人は多いだろう。だが、不妊の原因が男性側にあるケースは決して少なくないことを、私たちはもっと知る必要がありそうだ。

 7月28日に放送された『NHKスペシャル』(NHK系)では、「ニッポン“精子力”クライシス」と題し、日本人男性の精子の質を特集した。男性不妊を専門にしている辻村晃医師は、結婚前の男性722人の精子を検査したらしく、その結果、男性の5人に1人が精子の数や運動率などが基準値を下回る“不妊リスク”があったと報告。

 また、男性は30歳を過ぎると徐々に活発な精子の数が減少するようで、辻村医師は「男性の初婚年齢は31歳だったと思いますけど、結構高いです。(精子の質や量が)悪い条件になるまで結婚しないわけですから、自然妊娠の割合がどんどん減っていく」と話した。結婚を急ぐ理由として「子どもを生みたいから」と肉体的な適齢期をあげる女性は多いが、男性も子どもが欲しいなら同様の危機感を持つ必要があるのかもしれない。

 WHO(世界保健機構)による不妊の定義は、「避妊をしていないのに12ヶ月以上にわたって妊娠に至れない状態」。同機構の調査によれば、「女性のみ」に不妊の原因があるケースは41%で、「男性のみ」は24%。しかし「男女両方」(24%)に不妊原因があるケースと合わせれば、約50%は男性にも原因があると報告されている。妊娠を希望するのであれば、不妊も「女性問題」として扱うのではなく、男女どちらも同じように関心を持ち知識を得るべき問題だといえる。

 しかし、男性の不妊リスクはまだ認知度が低い。株式会社リクルートライフスタイルが、子どもが欲しいと考えている20代~40代の男女5664人を対象に実施した「不妊に関する意識調査」によれば、「不妊の原因の約半分は男性側にあることを知っている」と回答した男性は46.4%と半数以下。女性も56.7%と決して高い数字ではなかった。

医療知識があれば妊娠できるわけではない

 こうした身体的な問題への知識の補強は当然必要ではあるが、一方で、医療的なアプローチだけで妊娠をめぐる諸問題は解決しないことも、忘れてはならない。数年前から「卵子の老化」というフレーズがクローズアップされ、女性の肉体的に妊娠・出産の適齢期があることは広く知られるようになった。そして今、精子も老化を指摘され、男性たちも他人事ではいられないことがわかった。ただ、「卵子の老化」や不妊治療の実態を知っても、「じゃあ今すぐ妊娠・出産しよう」というわけにいかない事情もある。早く産みたいと思っていても、希望通りに実現できるかというと、そうではない。

 たとえば女性の場合、妊娠・出産・育児と仕事をいかにして両立するかという問題が未だに横たわっている職場は多いのだ。株式会社ビースタイルの調査機関「しゅふJOB総研」が主婦会員718人を対象に実施した調査結果によると、「自分を含め、周りにマタハラにあった人がいる」と回答した人は26.7%。4人に1人がマタハラの被害に遭っていることがわかった。さらに、妊活が原因で仕事を辞めた女性も少なくない。妊活者専用SNS「妊活ボイス」の調査によれば、「妊活中に働き方は変わりましたか?」という設問に18.2%が「仕事を辞めた」と回答。ハラスメント被害に遭ったり仕事を辞めたりと、子どもを授かるために様々な苦痛や変化を強いられている女性は多くいる。

 これは女性が直面している問題だが、女性だけで解決できる問題ではない。つまり、妊娠・出産や育児とそれらを取り巻く諸問題を「女性問題」の枠に押し込めているうちは、解決のメドすら立たないのである。そもそも妊娠は男女の交わりで発生する。女性ひとりで完結する自然現象ではなく、男女が共に考えなくてはいけないテーマだ。独身男性も、専業主婦の妻がいる男性も、すでに子育て期を過ぎた男女も、全員が関係して環境を改善する意識を持たなければならないだろう。

宮西瀬名

フリーライターです。ジェンダーや働き方、育児などの記事を主に執筆しています。
“共感”ではなく“納得”につながるような記事の執筆を目指し、精進の毎日です…。

twitter:@miyanishi_sena

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