穂村弘×枡野浩一対談【3】「なぜ西荻窪を花荻窪と書いたかというと」

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僕が人を殺したり、気が狂ったかなと思ったら、枡野さんを頼るかも(穂村)

穂村 でも、この『愛のことはもう仕方ない』は小説と銘打たれてるけど、別にいいわけ? その言い分からして。

枡野 いや! “これから書く文章は小説だということにしたいと私は強く思いました”ってことによって、より小説性がなくなるように書いてるんですよ。

穂村 うん……

枡野 で! もうずーーっと書いてるってことばっかりに言及することで、もう一歩も枡野書店から出ない(ように書いてる)……(文中に)1回だけうっかり、銭湯に行くシーンがあるんだけど、あそこはお手つきなんですね!

穂村 うん……

枡野 あとはもう枡野書店で、ずーっと、うだうだ考えてたり、穂村さんと対話したりしてるわけですよ、過去の中で。

穂村 うん……

枡野 だけど、僕の中ではどの出来事も全部、実話にしようと気をつけたんですね。

穂村 あ~~。少しわかるよ。直接はわからないけど。少しわかるっていうのは、今回のこの枡野さんの本の中にも出てくるけど、“自分は友達の書いた作品でもよくないと思ったらよくないというタチだ”と。

枡野 はい。

穂村 さらっと書いてあるけど、これは凄く大変なことで……。まわり中、物つくる人なわけですよね? だいたい物書きが多いわけで。

枡野 はい。

穂村 友達が演劇やる人だとして、演劇が終わって、その演出家の人が来ると。そのとき、観た直後で、「よくなかった」って僕は言えないのね。言えない、どうしても。「よかった」と言うか、もしくは無言なんだけど。その点、枡野さんは凄いなって。このタイミングで言うんだって。

枡野 僕もそこまで無神経じゃなくて。昔、(昔から音楽も演劇作品も大好きな)KERAさん(ケラリーノ・サンドロビッチ)の映画を観たときに偶然KERAさんがいらっしゃって、そのときはその映画が僕にはよくわからなかった。初見ではよくわからないこと多いんです、どんな映画も。それで手を握って、「おめでとうございます! おめでとうございます!」って言うのが精一杯でした。

穂村 嘘じゃないもんね。

枡野 そう! だから「完成おめでとうございます!」ってことだけ伝えて。その後、感想は聞かれませんでした。
ただ、演劇なんかもなるべく逃げ帰るようにしてて。いいときも悪いときも逃げ帰るんですよ。楽屋挨拶もせずに。それで、自分の中に嘘がないような感想を書くようにしてるんですね。

穂村 や、だから、なにが言いたいかというとね。そこで「演劇よかった」と言えるためには、「斉藤斎藤」とか「花荻窪」とかにもね……。 ただの1回でもルールが可変になったら、その態度は貫けないんじゃないかな?

枡野 まぁそうですね。やっぱり、よくなかったものをいいとは言えませんね。ただ面と向かって「つまんなかったですよ」と言ったことは、昔はありましたけど、今はないですね。昔はあったんですよ。
僕が会社員時代に演劇やってる人がいて、3回観て、あまりにつまらなかったので、「二度と観ないよ」と言ったことがあります。

穂村 3回観たんだよね、その前提としてね。

枡野 はい。

穂村 なんか僕、別に普段、枡野さんと会って、ご飯食べたいとか思わないんだけど。自分が人を殺したり、気が狂ったかなと思ったら、枡野さんを頼るかも。

会場 (笑)

枡野 じゃあ僕に連絡がきたら、気が狂ったということですね。

穂村 うーん、どっちかというと、自分が人を殺したときのほうを想像するんだけど。つまり、今の対人関係って、今の自分とつり合うわけじゃん。今の僕にとってお互いにいい関係の人がまわりにいるわけ。

枡野 はい。

穂村 人を殺したあとって、凄く違うわけじゃん?

枡野 はい。もう違う人になっちゃいますよね。

穂村 そうそうそうそう。そのとき、今どんなに良好な関係だからといって、人を殺したあとの僕にとって、世界が変わったあとの僕にとって、友達かどうかわからなくて。そのとき誰に頼るだろうかと思ったら、まず枡野さんに相談してね……

枡野 はい。

穂村 あの、斉藤斎藤を1000回も責めた枡野さんなら、本当のことを言ってくれるだろうみたいな……

枡野 そうですね。もし殺した相手が斉藤斎藤だったら……僕は穂村さんを決して嫌いにはならないと思います。

穂村 ちょっと話がズレてる。

会場 (笑)

枡野 まぁそれは冗談ですけど。

穂村 最初、冗談だとわかんなかった。

会場 (爆笑)

枡野 あの、たとえ相手が斉藤斎藤じゃなくても、話を聞いて、穂村さんが殺しちゃう状況だったなと思ったのなら、法律的には穂村さんは裁かれるでしょうけど、心の中では穂村さんを嫌いにならないでしょうね、僕はね。

穂村 僕だったら絶対に接触したくないような人と、枡野さんは凄く接触してる場面を見ることがあって。そのとき、「うわぁ……」って引くわけ。今の僕は人も殺してないし、気も狂ってないから。「どうかしてるな、枡野さん……」って。

枡野 なんでそんな変な人と……って。

穂村 でも自分がそうなったとき、人殺して気が狂ってみたいになったとき……、逆に言うと、最後に枡野浩一がいるんだと……

枡野 ああ……

穂村 雪舟えまさんっていう、小説を書く歌人の人が、<この星では気が狂ったら、誰にも話を聞いてもらえない>というツイートをしていて、僕、それをとてもいい言葉だと思ったのね。この星では気が狂ったら、誰にも話を聞いてもらえない……。それってやっぱり限界だと思うのね。気が狂った人はもう埒外になってしまうという、その星から。でも枡野さんは異星人だから……。よく思うわけ、枡野さんにはふるさとがなくてかわいそうだなって。

枡野 ああ……。それはこの対談(枡野浩一もゲスト参加した対談集『穂村弘の、こんなところで。』)でおっしゃってくれてましたね。

穂村 枡野さんは本当にふるさとがない人って感じがして……。だったら今僕はそういうところにいないから。隣の駅に枡野浩一が今日もいるのか……とたまに思うくらいですけど。自分にふるさとがなくなったら、もう頼る人がいないから……よろしくお願いします。

枡野 そんなにも追い詰められないと……僕とは会わないのですね?

穂村 ふふふ。

会場 (爆笑)

<続く:第四回

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◆穂村弘
歌人。1962年生まれ。
1990年に第一歌集『シンジケート』で歌人デビュー。2008年に『短歌の友人』で第19回伊藤整文学賞を、『楽しい一日』で第44回短歌研究賞を受賞。2017年に『鳥肌が』で第33回講談社エッセイ賞を受賞。著書に『ラインマーカーズ―The Best of Homura Hiroshi』『世界音痴』『現実入門』『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)』などがある。2018年に17年ぶりの新歌集『水中翼船炎上中』を刊行。

 

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(構成:藤井良樹)

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