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穂村弘×枡野浩一対談【4】「僕は迷惑だとはっきり言ってほしい」

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撮影/天田輔

【1】「言葉の透明度について」
【2】「表現は現実に従属すべきか否か」
【3】「なぜ西荻窪を花荻窪と書いたかというと」

 芥川賞作家であり大江健三郎賞作家であり、穂村弘さんと枡野浩一さんの共通の友人である長嶋有さん。長嶋有さんの“愛”をふたりで奪いあっていると、嬉々として話します。

 そしてそこから、言語は現実や地上の重力から自由になれるのか、歌人は自らが詠む歌を生きざまとして背負えるのか、という問題へと対話は回帰していきます――。

ふたりは当時、あまり仲が良くないと思われてたんですよ(枡野)

穂村 長嶋有となにしゃべってんの?

枡野 長嶋さんとは、たまに会うと、「あ~、枡野さんと会うと、こういう世知辛い話になると思ってたよ!」って言われるんですよ。つい僕が出版界の不景気の話とかしちゃうから。たぶん、枡野と会うとそういう話になるなって警戒心が働いて、そういうの聞きたくないときには僕と会わないのかもしれないですね。
ただこの本にも書いたように、離婚後一番苦しくて、口を開けば離婚の話しかしなかった時代に、月に1回ランチにつきあってくれたことがあって。ほんっとに感謝してるんですよ。僕、自分に今、同じような離婚をした人が友達にいて、その人の話を聞いてると、「これかぁ……これを毎月かあ!」って思うんですよ。
自分もそうしてもらったことがあるから、自分もしますけど、話を聞きますけど、まぁしんどいし……。だから長嶋さんは、ほんと、凄く信頼してますね、そこでは。人として。

穂村 彼も非常に苦しい離婚体験がたぶんあって、それももちろんあると思うんだけど、まぁ根本的にそういうところがあるよね、あの人にはね

枡野 そうですね。

穂村 4人くらいでしゃべってて、つまんないことを言う人がいるときがあるじゃん。そういうとき、面白い発言に相槌を打つのはいいんだけど、すご~くつまんないことに相槌を打つのは自分が削られるじゃん。でもそれをやるのよ、彼は。そういうときに“この人はすごいな”って思うんだけど。
一回、枡野さんと長嶋有と僕で、連載やろうとしたことがあった……

枡野 ありました。『結婚失格』に載せた文章で、僕の家のロデオボーイに乗りに来たんですよね、穂村さんが。

穂村 それは説明がいるんじゃないの?

枡野 はい。あの、その本(『結婚失格』)は講談社文庫になった本で、今は入手困難なんだけど……。僕が(ダイエット運動器具の)ロデオボーイに乗ってたころで、穂村さんがそれに乗りたいといって、長嶋有さんが仲介役として入って……。ふたり(枡野と穂村)は当時、あまり仲が良くないと思われていたんですよ。それで長嶋有さんが立ち会ってくださったんですよね。

穂村 設定としては、長嶋有の愛を僕らが奪いあう……みたいな。

枡野 そうそうそう! 二人で奪いあう……

穂村 設定っていうか、やや今もそういう感じなんだけど。 「有くんは本当は、枡野さんと僕のどっちが好きなんだろうな……」って。

枡野 そんなことを今も(笑)。

穂村 「有くんとのつきあいは僕のほうが古いはずなんだけど、でも今は枡野さんのほうを好きなのかなぁ……」みたいな。まぁいいんだけどね。でも6:4くらいで枡野さんだったらいいけど、8:2だったらやだな、とか。

枡野 う~ん、でも長嶋さんはそういう感じで世界を見ていない感じがしますね。

穂村 どういう感じ?

枡野 なんだろうな、長嶋さんって例えば、“犬には別に名前がなくてもいい”みたいなことをおっしゃるじゃないですか?

穂村 うん。

枡野 だから、優しい人なんですけど、不思議なんですよね。例えば、これは明かしていいか迷うんだけど、僕、今度、クラウドファウンディングで短歌Tシャツを作っていて。そのTシャツをお世話になった方にはプレゼントしたかったから、献T……、本は献本っていうのがあるんですけど、それと同じ献Tって名付けて、着てほしい人に連絡してたんですね。
穂村さんへもそれで(献Tをもらってくださいと)連絡したら、歌人なのに短歌のTシャツなんか着たくないと思うんですけど、一応ちゃんと(「もらうよ」と)返事くださったんですよ。
ただ長嶋有さんは、「正直に言うけど、枡野さんの短歌は好きだけど、日本語のTシャツはちょっと着ない」(だから、いりません)っておっしゃってくれて。それが、すっごく嬉しかったんですよ。
(そういうことを思っていても)言わないで黙る人がほとんどだし、本当は着たくないけど口だけは「もらいます」とか、もらって猫にかぶせようとか思ってる人がほとんどだと思うから。 僕もそれをあらかじめ察知して、猫好きな人には「猫の毛布にいかがですか?」って連絡しているんです。

穂村 …………ふたりで仲よくしてればいいんだよ。

会場 (笑)

穂村 僕は典型的な、そういうことを言えない人だからね。

枡野 そうか。だから長嶋さんがそう言ったとき、僕がどう思ったかといえば、ほんとすっごくうれしくて。あぁよかった、長嶋さんが嘘をついてTシャツを(僕から)もらって、それで着ないよりは、“短歌は好きだけど、日本語のTシャツは着ないんだよ”って言われたほうが、ものすごくうれしい……。

穂村 僕は室内で着るよ。

枡野 室内でかぁ……。でも穂村さんとか、それこそ加藤千恵ちゃんとか、歌人が僕のTシャツを着てくれることなんか全く期待しないから。もう、一瞬ハンガーに掛けて写真を撮ったら、あとは猫にかぶせていいと思ってるから……穂村さんちは今、猫いるんでしたっけ?

穂村 賃貸だから猫飼えない。

枡野 あ、そうですか。まぁ、そういう気持ちで(短歌Tシャツの献Tを)やってるんです。

穂村 父に着せるよ。

枡野 ありがとうございます(笑)。でもほんとそういう感じ、長嶋さんは。僕にとって。

穂村 言えないじゃん……! 言いにくいよ……!

枡野 (献Tいらないとは)言いにくいけど……言い方じゃないですか!?

穂村 …………

枡野 だって僕、自分だって、他の歌人の短歌のTシャツもらっても着ないだろうなっていうくらいはわかるわけですよ。空気読めない僕でも。

穂村 うん。

枡野 だけど、一応お世話になっているから、連絡だけはしておこうかなっていう気持ちで連絡していて……。

穂村 うん。

枡野 …………でもみんな、返事できないのかな。一応僕、逃げ道として、「Tシャツ興味なかったらスルーしてくださいね」とは言ってるんですけどね。

穂村 …………長嶋有は集英社のお歳暮の蕃爽麗茶を断ったような人だから。

枡野 そうそう! 長嶋有さんはすごくまずいお茶をね、まずいから贈ってこないでくださいって言って、それを忘れて贈ってきた編集者に送り返したんですよね。それによって集英社のお歳暮が変わったんですよ。そのまずいお茶ははずされたんですよ。

穂村 蕃爽麗茶……

枡野 蕃爽麗茶っていうお茶……。長嶋さんはお歳暮を変えた男なんですよ。

穂村 お歳暮を送り返すって……しないよね?

枡野 う~ん。でも僕は、そのまずいお茶をまずいと思ってなかったところが、僕のポイントだなと思いました。

会場 (笑)

枡野 僕は(集英社から贈ってもらって)普通に飲んでいました。「カラダにいいお茶だなぁ」「あんまり美味しくはないけど、カラダにいいんだな」と思って飲んでたから、長嶋さんみたいに「まずい!」って送り返すのはちょっと驚きましたけど。

穂村 意外と幸せなのかもね、枡野さんて。

枡野 ああ……、僕、そんなに不幸せに見えました?

穂村 なんか、愚痴っぽい感じがするから、そういう風に見えがちだけど。なんか、いま蕃爽麗茶飲んでることとか聞いていて……。あ、そうだ、「竹馬自殺をしようとした」なんてことを(枡野さんは)書くから……

枡野 そうですね。竹馬自殺はねえ……。いまもあの竹馬は枡野書店に飾ってあります。象徴として。脚がとても高い、乗るとこが高いやつなんですけどね。

穂村 なんで竹馬にそんなにこだわるの?

枡野 それが、ほら、『こちらあみ子』ってあるじゃないですか? 穂村さんも解説書かれてた(小説)。『こちらあみ子』の主人公も竹馬乗るでしょ?

穂村 え、そんなシーンあったっけ?

枡野 出だしが、竹馬に乗ったシーンで、最後にも竹馬が出てくるんですけど

穂村 うん。

枡野 あと、僕の芸人活動(漫才コンビ「詩人歌人」)の元相方が竹馬が好きなんですよ。「詩人」なんですけど。だからちょっとなにか、ヤバい人が竹馬が好きなのかも

穂村 ヤバいんですか、詩人さんは?

枡野 まぁかなりヤバいです。今、『すっきりソング』ってコンビ名でやってる、ちょっと売れかけてる芸人なんですけど。(「詩人歌人」は)二人ともどうかしてるコンビだったんですね。(枡野注/すっきりソングは今年4月に「詩人」こと本田まさゆきが失踪、本田によってコンビの「消失」が宣言された。初の単独ライブが予定されていた今年6月15日、残された植田マコトによる特別企画ライブが千川びーちぶで開催された)
穂村さんとの前の(枡野・穂村)対談は、僕が「芸人活動始めます」ってときで、それが本(『穂村弘の、こんなところで。』)になるころには僕は芸人活動辞めてたから、とても悲しいんですけど。
でも僕はかなり本気でやっていて。僕の場合、そういうアクションをして、そこに価値を見出そうと思ってたから……。
そういう短歌も書いたんです、芸人活動をやっているという短歌。それは、芸人活動を本当にやっているから価値があって、芸人活動をやっていなかったら1ミリの価値もない短歌なんですよ。そこがたぶん、僕が書けるとこじゃないかと思ってしまってたんですね。

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枡野浩一

歌人。1968年東京生まれ。小説『ショートソング』(集英社文庫)ほか著書多数。短歌代表作が高校の国語教科書(明治書院)に掲載中。阿佐ヶ谷「枡野書店」店主。最新情報はツイッター【@toiimasunomo 】で。

@toiimasunomo

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