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穂村弘×枡野浩一対談【6】「本当のことと取捨選択」

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撮影/天田輔

【1】「言葉の透明度について」
【2】「表現は現実に従属すべきか否か」
【3】「なぜ西荻窪を花荻窪と書いたかというと」
【4】「僕は迷惑だとはっきり言ってほしい」
【5】「普通の人はもっと、恥ずかしい欲望を持ってしまっているんだよ」

 穂村弘×枡野浩一対談の最終回であり、枡野浩一連続対談シリーズ「心から愛を信じていたなんて」の最終回でもある、第6回です。

 なぜ穂村弘は枡野浩一の実人生にコミットしたくないのか? なぜふたりがこの対談のあとにもう一度会うとしたら、どちらかが刑務所に入ってるときかもしれない、と思うのか。

 「素敵にふるまうにはどうしたらいいんでしょう」と枡野さんは穂村さんに問いかけ、「素敵になったら、枡野さんは幻滅されるよ」と穂村さんは答えました。

 現代を代表する歌人ふたりが、言葉と現実について、幸福と不幸せについて、つまりは、歌とは歌人とは自分たちとはなにかについて語り明かした対談。「もうこんなこと(対談)はないかもしれない」とまで言うおふたりは、最後に両想いになれるのでしょうか。

枡野浩一の実人生のことにはコミットしたくない、僕は(穂村)

穂村 (枡野さんは最新作の本に)なぜ、男性の恋人のことを、もっと書かなかったのか。

枡野 それは、今後書きますよ(枡野注/この対談時に交際していた男性の恋人とは対談後、お別れしてしまいました。今も元恋人として自分のことを支えてくれていますが)。ただ、僕、事実をちゃんと書きたいと思ったから、(いままでに特別な関係になった)女性と男性の両方に連絡をとってみたら、男性は意外と「書いていいよ」って人が多くて、女性はもう連絡がつかなくなった人が多かったので。少ない人数ですけど。
そしたら、男性のお相手のことばっか書くことになって、すっごくアンバランスな本になるなって思って、書くのをやめたってことはあります。

穂村 何を言っても……ちゃんと答えが返ってくる……。ああ言えばこう言う……

枡野 それで言えば、この対談シリーズの構成担当者さんが「ぜひ、穂村さんに聞いてみてくれ」って言ったことがあって。

それは、「枡野さんはいろんな人と対談して、驚くほど厳しいことを言われても、全然くじけてないように見えるのはどういうことなんだろう?」と。
僕本人は、凄くへこんでる気持ちがあるんですけど。でも(映画評論家の)町山智浩さんとかは……(「枡野くんはへこむけど壊れない!」と言った)。(作家の)小谷野敦さんなんかは、僕のことを「ストーカーだ」とまで言うんですね。

穂村 そういう……厳しい意見を……。う~ん…………なんか、もう、読んでても、僕は……わかるんだよ!!(笑)今日はお客さんもいる公開対談だから、お客さんのために敢えて言ってるところもあって。僕個人としては、もう、本を読んでるだけで、頭の中でね、「ここでこう問えば、(枡野浩一は)こう言うんだろうな」ってわかる。さっきの質問だって、知ってるんだよ!
「じゃあ松尾スズキの名前はどうなの?」って、斉藤斎藤の流れで聞いたけど、でも聞くまでもなくわかってんだよ! でもそこを飛ばすとわかりにくくなると思って……

枡野 みんなのために敢えて質問を……知らないていで……

穂村 だって、斉藤斎藤のこと言ってる時点で、枡野さんは自分の頭の中で松尾スズキのことを何百回も考えてるに違いなくて。この本の中でもよく書いてる、「そんなこと考えてるに決まってるじゃないですか」って。

枡野 ああ、そうですね。

穂村 なんか、こうねえ……、まぁ、長所なんだけど、なんかこうねえ……確かにウザい。

会場 (爆笑)

穂村 そこはまぁ……、長所と短所は切り分けられないかもしれないけど……なんかねえ、そうなの! 僕、(枡野の本の)こういう帯文も、こんなこと言っても……って思っちゃうの。

枡野 「枡野さん」に対して?

穂村 そう。<人があなたを理解してくれないのなんて当然ではないですか!>――。このまともな、愛のある忠告とかも、刺さるのは読者にだけ。まあ、帯だからそれでいいんだけど。

枡野 はい。

穂村 なんか、もっと……

枡野 もっと?

穂村 人生相談みたいなのなんて一切しないでやればいいのに――って……思うんだよねえ。

枡野 あ~、なるほどねぇ

穂村 …………でもわかんない。僕は凄く枡野さんの本を読んじゃって、ずっと枡野さんをウォッチしちゃってるからかもしれないけど。

枡野 この本は、連載中からずっと読んでくださってたんですか?

穂村 枡野さんの動向はいつもうかがってるから。

会場 (笑)

穂村 なんか、誰かとトラブると、「それっ!」って!

会場 (爆笑)

枡野 そうでしたか……

穂村 そういう人、多いと思うよ。

枡野 そうですか、そんな「逆人気」が強かったとは。

穂村 だから、枡野さんがこてんぱんになるもよし、いつものように撃退して、荒涼としたムードになるのもよし……。ただ、こてんぱんってのは見たことないねえ。一回、この人は枡野浩一にしゃべり勝ったなっていうのは見た記憶あるけど。

枡野 なんて人でした?

穂村 野田さんって人だったかなぁ。

枡野 誰だろう……何についての話題でした?

穂村 短歌についてだったと思うけど。枡野さんて、論点を広げながらずらして、これがよりリアルだっていうメタレベルの解釈で、自分を優位にもっていくのね。そこを指摘してたような。

枡野 あ! それは野田修平さんという歌人(枡野注/野田修平の短歌<「わたしならこうする」と言う状況はあなたにきっと一生来ない>は『愛のことはもう仕方ない』にも引用されている)が、「枡野さんはいつも、話の筋とは違う本質の、その人の欠点を突く」って言ってたやつですね……(枡野注/原文の引用をしておきます<議論や対話の論点と関係あるなしに関わらない、全人的な弱点・痛いところを突く、という感じ>)

穂村 そうそうそうそう! それで枡野さんに勝つには、問題を本当に限定しなければダメで、斉藤斎藤もそういう論だから、(枡野と論争になったときに)枡野さんが別の手続きで一カ所でも違ってたら、そこを攻めた。「このとき私がこう言ったというなら、それを証明するデータを枡野は出せ」と。

枡野 手続き論みたいな。

穂村 そうそうそう。で、そこで、(枡野さん側が)何も言わないと、(斉藤斎藤側は)話を進めないので、勝敗つかず。
斉藤さんは枡野さんのことを、僕みたいには好きじゃないと思うから、別にいつまでもいちゃいちゃとバトルしていたいなんて思っていないから。もうさっさと切り上げたいと思っているだけのことで。
僕は何回も斉藤斎藤に、「なんで枡野浩一をもっと好きにならないのか?」って聞いたんだけど……

枡野 なんて恐ろしいことを聞いてるんですか!

穂村 僕だったら好きになると思うから。でも斉藤斎藤はもっとミッションの人みたいで。僕みたいに、“自分の前に立ちはだかってくれて、愛のあるダメ出しをしてくれるなんて、しびれるほどうれしい”――みたいな感受性が全然ない人だから。だから、凄く、冷たいの。

枡野 なるほど。野田さんのその指摘は、僕は受け止めました。ただ彼は(斉藤斎藤の文章掲載の)『穂村弘ワンダーランド』を読まずに反論してたから、あのとき。これをあのとき読んでくれていたら……。彼はあのとき、「枡野さんの主張に全くうなずけない」(大意)と言っていたので。
僕の主張は単に、斉藤斎藤さんが普段主張してる「斉藤斎藤は本名だ」ということと、このエッセイは矛盾があるんじゃないか、ということを言いたかっただけなのに。読んでないで言ってたから……。「いや、読んでよ!」って言ったのが最後です。
ただ僕は、そこで自分の癖だなと思うのは、結論は違ってるけど途中経過の指摘はあってると思ってるから、どんなに手続き論的に間違ってても、その主張を一言で鷲摑みにした指摘はあってる。だから、受け止めなくてはと思ってます。

穂村 うん……。なんか、それがイライラするんだよね。「受け止めた」って枡野さんはよく言うんだけど、本の中でも。でも受け止めたのが何なのかよくわからないところがあって。

枡野 それは、やっぱり、僕がみんなの意見を聞いてないと思われてるからですか?

穂村 いや、聞いてるんだけど、それをすぐに生身に反映させるのは誰であってもそもそも無理というか。

枡野 はい。

穂村 とにかく、実人生のことには言葉でコミットしたくない、僕は。

枡野 それはどういうことですか? 枡野の?

穂村 そう。実際、してないけど。

枡野 穂村さんが殺人を犯すまでは。

穂村 僕が殺人を犯したら、僕の実人生にコミットしてほしい(笑)。

枡野 じゃあ、殺人を犯されるまではコミットされないんですね。

穂村 まぁ、差し入れには行ってもいいかな。

枡野 僕が逆に犯罪者になったときに?

穂村 うん。

枡野 わかりました。もし自分が犯罪者になったときは、それを希望に生きていきますよ。

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枡野浩一

歌人。1968年東京生まれ。小説『ショートソング』(集英社文庫)ほか著書多数。短歌代表作が高校の国語教科書(明治書院)に掲載中。阿佐ヶ谷「枡野書店」店主。最新情報はツイッター【@toiimasunomo 】で。

@toiimasunomo

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