穂村弘×枡野浩一対談【6】「本当のことと取捨選択」

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僕たちふたりが次に会うときは、どっちかが刑務所で……(枡野)

穂村 でも、今、楽しいんじゃん?

枡野 や、今僕、何も不幸せなことないし。クラウドファウンディングのTシャツ歌集の値段設定を間違えて、(配送料を込みの料金にしてしまったので)儲けが出ないことに気づいたくらいですよ、悩みは。

穂村 それって、よくシステムしらないけど、いっぱいお金貰えてたから、それで補てんできないの?

枡野 それが、Tシャツ1枚3000円にしちゃったんだけど、普通、Tシャツは3000円くらいしちゃうんですよ。でも配送料が結構しちゃうんで……

穂村 それは(配送料を別途貰うとかに)今から訂正できないの?

枡野 それが、(クラウドファウンディングの価格設定の)認識が、僕と他の人たちとの間でズレてたせいで。1枚3500円にしとけば全然問題なかったのに。買う人だって3500円で全然買ったのに。3000円にしたせいで、1枚だけ買ってくださった方が多ければ多いほど(配送料込みなので)赤字になってしまうという恐ろしい現状になってます……

穂村 う~ん……

枡野 ただまぁ、あんなに多くの方が(Tシャツ歌集のクラウドファウンディングを)支持してくださったことの喜びが大きいから、あんまし失敗感はないんだけど。ちょっとした判断のミスでこんなに酷いことに、とは思っています。あのとき、なぜ500円上乗せしとかなかったんだろうっていう、自分の見通しの甘さに愕然としています。

穂村 でも、みんなはそういうところを読んで、勇気づけられているわけだから。

枡野 そうですね。あと、支持してくださってる方も、みんな僕に似ていてミスの多い方たちでした。Tシャツのサイズ間違えたり。

穂村 そういうことが順調になったら、別人って感じになっちゃうから……

枡野 つまんないですか?

穂村 つまらな……。なんかさ、ほとんどの物書きは多かれ少なかれそうだけど、みんなが出来ることはできないのに、ただこの一個の乏しい能力をフル回転させて、他のことも全部なんとかしようみたいな。
一個だけの能力で全部まかなって頑張る虫、みたいな……。虫? 動物? 生き物? みたいな感じが枡野さんだから。それをリアルタイムで見ちゃうんだよ。芸人をやったときなんかが典型的だったけど。

枡野 はい。

穂村 凄い好きなんだよね、「詩人」のことがね。

枡野 う~ん。

穂村 この本読むと、凄い好きなんだなぁって。

枡野 詩人っていうのは、(僕の芸人活動時代の漫才コンビの)相方のことなんですけどね。それで、穂村さんとは合計6回くらい(対談などを含む全人生で)しゃべってるんですけど、そんなことを思ってらっしゃったとは。
昔、(インターネットの)掲示板があった頃に穂村さんが、「いつもいつも夜になると、枡野さんに投げつける言葉を考えている」って書かれてたんですけど、それはいまだにそうなんですか?

穂村 わりとそうだよ。

枡野 枡野がこう言ってたから、こう言わなくてはいけない、みたいな?

穂村 わりとそうだよ。

枡野 そうですか。でも僕、そんなに穂村さんを追いつめる発言はしませんよね?

穂村 枡野さんはそのスキルが高いから、素で普通に誰のことでも追いつめられますよ。追いつめられる側は準備がちょっといるかな。ね? ね、だって(笑)。

枡野 そうなのかぁ。

穂村 斉藤斎藤の気持ちは僕にはわからないけど。

枡野 でも、今日は敢えて語りましたけど、斉藤斎藤さんはちょっと今は僕の視界からは消えました。ブロックされちゃってるってのもありますけどねー。なんか、もうちょっと期待してたんですけどねえ。

穂村 ブロックか。

枡野 斉藤斎藤さんって、自分の意見が通じないとすぐブロックしますよね。

穂村 うん、早いらしい。(歌人の)フラワーしげるがダーーーン!ってブロックされてんのはかわいそうだった。

枡野 僕も見てました。

穂村 「え、ここで?」

枡野 「こんなに普通のことしか言ってないのに?」

穂村 凄いよね、凄い。

枡野 あ、もう、編集長が対談終わって、サイン会へ行けと。サイン会はたぶん穂村さんが忙しくて僕は暇なので、僕に質問がある方はそのときお話ししますね。
今、何か質問はありますか? みんなで共有したい質問があったら。せっかくの機会なので。もうこんなこと(穂村弘と枡野浩一の公開対談)はないかもしれませんよ。次に会うときは、どっちかが刑務所で……

会場 (笑)

枡野 でも僕は、この長い対談シリーズで自分なりに凄くいろいろ考えてしまって。穂村さんは認めませんけど、僕は受け止めてるんですね。だから、「自分はストーカーなのかな」って心から思ったし。でも急にそうしたら、そのあと恋人ができたせいもあるけど、なんかね、このシリーズのおかげで、自分の暮らしが変わりました。
この本って最後まで読むと、新しい部屋を借りたり、ちょっとだけ明るくなって終わるんですけど。この後の僕は、結構楽しい日々をすごしてるんです、実は。
だから、それが書くことに対していいかどうかは別として、なんか……。今から読むと、これ書いたときはこんなだったなって気持ちで。
でもみなさん、苦しいけど、読み終わるとすっきりする本なんですよ。だから今日、僕の本を読んでない方ばっかしでしょうけど、この本、発行部数が少なくてですね、新刊書店ではもうまったく買うことはできませんから、買うなら今日です。穂村さんの本はどこでも売ってるから。

穂村 その種のさ、ネガティブなことも削ったほうがいいんじゃないの? よくネガティブなことも書いたりするけどさ。

枡野 でも、ほんとのことだから――

穂村 また出たな、ほんとのこと!

会場 (爆笑)

穂村 本当のことのすべてを書くわけじゃないじゃん! 取捨選択がある前提があるんだから。

枡野 ただ僕、自慢と思って言ってないのに自慢と思われたり、そんなに卑下していないのに、「自虐的じゃないか」って言われたりすることがよくあって。(俳優で、対談相手をしてくださった)利重剛さんとかに。そのバランスはわからないですねー。ワザとじゃないこともあります。

穂村 そうかぁ。

枡野 もっと素敵にふるまうにはどうしたらいいんでしょうね。

穂村 素敵にふるまったら、今の枡野さんのファンの人が、幻滅して、去ってしまうよ。

枡野 そうですか。

穂村 僕だって、部屋がきれいだってだけで、「幻滅しました」って言われたもん。

枡野 あー、もっとベッドの上には菓子パンが落ちててほしかった……

穂村 そそそそそ。

枡野 どうなんだろう、そういう、読者の要望は温かく見れるんですか、穂村さんは?

穂村 見れない。

枡野 冷たく見るんですか?

穂村 言葉を透明化した現実への要望はね。

枡野 それは表明しないだけで?

穂村 直接は表明しないでしょ、そんなの。

枡野 僕は表明しました、この本で。

穂村 してるね、してるね。

枡野 僕の中では、穂村さんのほうが手厳しい人だと思っていました。

穂村 定義によらない? ひとりひとりを対等の人として見て、その人との関係性を信じて対峙するっていうのは……。そんな人、いないじゃん、枡野さんしか。

枡野 そうなんでしょうかねえ。

穂村 人殺しばっかり、いっぱい来たりしてね、枡野さんのもとに(笑)。

枡野 人殺しがなぜか僕に会いにくると。

穂村 なんか、お坊さんっぽいかもね。

枡野 そうですね。前もそういうこと言われました。小谷野敦さんか誰かに。

穂村 なんか、なんかさ、霊的なものを普通に信じるわけじゃないけど。

枡野 今日はでも、気が重かったでしょうね。ありがとうございました。

穂村 何? なにそれ!?(笑) 何が気が重かったでしょうねなの?

枡野 なんか、僕がお願いしたんですけど、こんな対談に出ても穂村さんには1ミリのメリットもなく、申し訳ない気持ちで……。でも出てほしくてしょうがない気持ちだったんで……。あっさり受けてくださったときには、なんて大きい人なんだと思いました。

穂村 メリット、あるよ。枡野さんとしゃべること自体に。

枡野 そうですか。あの、この対談が載るサイトは昔は『messy』ってサイトだったんですね。でもエッチすぎるからデニーズで見ようとするとブロックされてしまうんですよ。ただもう『wezzy』ってサイトに引っ越したので、穂村さんと僕との対談はデニーズで読めますので安心してください。

穂村 じゃあ、終わりね。

枡野 ありがとうございました!

穂村 ありがとうございました。

枡野 今日はこの穂村さんの講談社のエッセイ集、表紙のデザインは僕の知っている立花文穂さんですが……。初めてですか、立花さんにお願いしたのは?

穂村 初めてです。

枡野 穂村さんは、好きな人には全員にお願いしますね。

穂村 「装幀ヤリチン」って枡野さんに言われて……。

枡野 言いました。

穂村 枡野さんはね、操を守る派で。

枡野 僕は自分の範疇はこの人って決めてる人としかやらないんですけど、穂村さんは好きな人全員とやるから。

穂村 あ、繰り返しますか?(笑)

枡野 ふふふ。でも、そこが羨ましいです。あ、安西水丸さんとやったこともありましたもんね?

穂村 挿画をね。

枡野 あれも僕、衝撃的でした。「春樹と組んでる人とやるとは……」って。どうでした、やってみて?

穂村 結局お会いしなかったので。

枡野 そうですか。

穂村 お会いしてたらね、また違う印象があっただろうけど。

枡野 僕の絵本(『あれたべたい』『ネコの名前は』)の絵を描いてる目黒雅也さんは、安西水丸さんの一番弟子で、安西さんから100点満点をもらって大学を卒業したらしいので、安西ファンの方は僕の絵本もよろしくお願いします。今日は持ってきてないんですけどね!

穂村 どうして、いろんな人に装幀を頼んだりしないの?

枡野 う~ん、なんだろ、すでに有名になっている人じゃない人と組みたい願望があるのかもしれない。

穂村 それはわかる。

枡野 あと、僕が面倒くさすぎて、僕の意図を受け止めてくれる人が少ないから。時々、浮気もしてたんですね、寄藤文平さんとか。

穂村 あぁ、はいはい。

枡野 あと、池田進吾さんとか

穂村 はいはい。

枡野 でもいろいろやってみて、ずっと長くやってくれてる、この本のデザインもやってる篠田直樹さんって人が、僕がやりたいことをちゃんと受け止めてくれたあげく、ちょっと明後日のほうにカッコよくしてくれるから、信頼してるんですよ。

穂村 …………今日の対談は枡野さんの魅力、伝わったと思います。

枡野 ほんとですか?

穂村 みなさん、枡野さんがしゃべっていて、素敵に感じたと思います。

枡野 そうですか!

穂村 ここは変に見えそうだからカットしてください。でも本当に思いました。

枡野 僕は穂村さんを見るたびに、「自分ってクリエイターに対して、いつも片思いだな」って思います。自分が好きだな~って人が、向こうも自分のことを好きだったなんてことが、ほぼない。

穂村 僕は、枡野さんのそこが好きなの。

枡野 あははは。

穂村 塚本邦雄がそうだったの。

枡野 あ、そうなんですか!?

穂村 塚本邦雄はみんなに片思い。岡井隆へも寺山修司へも、塚本邦雄のほうがたくさん好きで、相手のほうがより少なく塚本を好き。でも僕はそういう塚本が好き。そういう切ない感じが……。塚本の『麒麟騎手』って本をぜひ読んでほしいんですけど、それは書簡集で、十七歳も若い寺山に対してのラブレター集です。寺山からの返事は載ってないんだけど。より多く好きな人が報われないっていうのが……僕、好きですね。

枡野 これからも、片思いで頑張っていきます。

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◆穂村弘
歌人。1962年生まれ。
1990年に第一歌集『シンジケート』で歌人デビュー。2008年に『短歌の友人』で第19回伊藤整文学賞を、『楽しい一日』で第44回短歌研究賞を受賞。2017年に『鳥肌が』で第33回講談社エッセイ賞を受賞。著書に『ラインマーカーズ―The Best of Homura Hiroshi』『世界音痴』『現実入門』『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)』などがある。2018年に17年ぶりの新歌集『水中翼船炎上中』を刊行。

 

【枡野浩一からお知らせ】
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(構成:藤井良樹)

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