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サマータイム導入が市民生活に深刻な悪影響をおよぼす

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Thinkstock/Photo by millann

 オリンピックの暑さ対策のため、日本政府がもち出したサマータイムの導入案。夏の時間を2時間繰り上げることで、暑さが比較的厳しくない時間帯に競技を行うことができるとされている。秋の臨時国会への議員立法提出を目指すとも報じられており、これから議論が本格化されていくだろう。

 朝日新聞の世論調査では、このサマータイムの導入案に賛成53%で反対32%NHKの世論調査では、賛成51%で反対12%という結果が出ており、国民からの反対意見は現状そこまで多くないようだが、その背景には、サマータイムの導入で起きるネガティブな影響についての知識がないというのも多分にあるだろう。

 では、どのような影響が考え得るのだろうか。

サマータイムによって引き起こされる健康被害

 一番大きいのは、健康に与える影響だ。サマータイムの導入により、生活リズムの混乱や睡眠不足が引き起こされる可能性が高く、心身に影響が出るおそれを指摘されている。

 それは、実際にサマータイムを導入している国の事例からも明らかだ。一般社団法人日本睡眠学会が発行している「サマータイム 健康に与える影響」によると、スウェーデンではサマータイムが始まった週の心筋梗塞発症のリスクが5%上がるというデータが出ている。また、ロシアは1981年からサマータイムを実施していたが2011年に廃止。その理由のひとつが時間を切り替える時に心筋梗塞で救急車が出動する回数が増えたからだとされている。

 こういった負荷は、健康な人はもとより、子ども、高齢者、持病をもっている人といった健康弱者にはより強い影響をおよぼす。サマータイムの導入は「命」に直結する問題でもあるのだ。

サマータイムによってもたらされる悪影響は他にもある

 もうひとつ懸念されるのが、労働時間の長時間化だ。現状917時で動いている会社は時間がずれて715時の労働時間となるが、15時に帰宅できるかといえば、日本の企業風土を鑑みるに難しいと言わざるを得ない。早く出社しただけで、帰る時間は同じという状況になりかねないだろう。

 事実、日本でもかつてサマータイムを行っていたことがあるが(1948年から1951年の間)、その際も残業量が増加して労働条件が悪化したことから廃止となっている。これと同じことが引き起こされる可能性は極めて高い。

 また、飲食店や小売店はサマータイムにより営業時間を延ばす店舗が多く出ることが予想され、影響は業種を問わず様々なところで出るだろう。

 そして、もうひとつ指摘されているのが、システム変更にともなう問題だ。鉄道や飛行機のダイヤ変更などを筆頭に、多くの企業がシステムの再構築を余儀なくされ、莫大なコストを支払うことになる。

 以上見てきたように、サマータイムの導入は、「単に時間を2時間ズラすだけ」では終わらない。さまざまな面で私たちの市民生活に悪影響をおよぼす可能性がある。

 サマータイムの導入にメリットはあるか?

 その一方で、サマータイムによって得られるメリットはなんなのだろうか?

 サマータイムの恩恵を受ける象徴的な例として現在挙げられているのが、東京オリンピックのマラソンで、サマータイムにより朝の5時スタートが実現できるとされているが、ならば、現在の時刻のままで朝の5時にスタートさせれば良いのではないか。

 他にも、サマータイムの導入により省エネにつながるとのメリットもあげられており、森氏も<五輪のためにやるということではなく、日本政府が地球環境保護に取り組むという観点で進めてほしい>(88日付ニュースサイト「スポーツ報知」より)と述べているが、日本の環境ではサマータイムを導入しても冷房などにかける消費電力は変わらず、省エネにはつながらないとの指摘が、これまでずっと出されてきた。

 ブラックな条件でのボランティア募集、オリンピック開催にかこつけた共謀罪の強行採決、ボランティア参加のため大学や高等専門学校に対して試験時期をずらすよう文科省とスポーツ庁が通知を出した問題、東京都オリンピック・パラリンピック準備局大会施設部のスタッフが混雑防止のために大会期間中はネット通販を控えるように提言した件など、東京オリンピックのためならばどんな横暴も許されるし、国民も唯々諾々と従うべきだという、「国家総動員」のようなやり方があまりにも行き過ぎている。そもそも、なぜ、たかだか数週間のイベントのために、国民全員が過大な負担を強いられなければならないのだろうか。

 今回出てきたサマータイムも同じだ。当初は、2019年と20年の2年間のみの限定導入といったかたちで運用される予定だったが、前述したシステム変更のコストに見合う成果が見込まれないなどの指摘を受けて、限定ではなく恒久的なサマータイムの導入を考えるとの案も浮上したと報じられている(前掲「スポーツ報知」)。要は、見切り発車だったということだろう。そうだとしたら、あまりにも杜撰な話だ。

(倉野尾 実)

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