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イクメンも聖母も幸福も「幻想」。打算的に生きていい/小島慶子さんインタビュー

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撮影/尾藤能暢

撮影/尾藤能暢

 元TBSアナウンサーでありタレントとして活躍、現在はオーストラリアに移住し、執筆活動をメインに日本と豪州を行き来する、小島慶子さんが、このほど小説『幸せな結婚』(新潮社)を上梓した。結婚により「幸福になれると信じていた」2組の夫婦を軸に、「幸せな結婚」とは何かを問いかける物語だ。

 小島さんがこの物語を執筆するきっかけとなったのは、「イクメンがみんな、イイ男だと思うなよ」という“イクメン幻想”への反撥があったという。自身も働く人間であり、妻であり、母であり、そして養う者である小島さんの幸福論とは。執筆秘話を交え、うかがった。

母性のかけらもない母親を描いた理由

 売れっ子有名スタイリストで実業家の美紅と、元大手会社勤務で現在無職のイクメン浩介。夫に苛立つ、生活感溢れるフリーライター恵と、無神経で野暮ったいけど素直なDJ・EITA――。『幸せな結婚』では、2組の夫婦を軸に、結婚の形や男女のあり方を、リアリティと毒っ気たっぷりに描いていく。

――まず気づくのは、小島さん自身も、「夫が突然、無職になる」というご経験をされている、ということです。美紅と気持ちが重なる部分はありますか?

小島慶子(以下、小島) ありますね。美紅のほうが私よりも野心家ですが。

――美紅は、一児の母ですが、「母性がない」ことがたびたび強調され描かれているのが印象的でした。

小島 正直な人ですよね。通常は、もし母性がなくとも、「母親たるもの、母性がないなんてダメだ」と思い頑張ってしまうでしょうけれど、美紅は「だって、母性ないんだもん。仕方がないじゃない」と、諦めが早いんです。「なんとか母性を湧き立たせなければ」という努力もしない人なんです。

――夫の浩介は、「母性は、子供を産んだ母親に自動的に湧き上がるもの」と思っている節があるのか、そんな美紅に苦言を呈する場面があります。

小島 それは、彼の母親の影響が強いんですよね。浩介の両親は同じ新聞社に勤務していたけれど、母親は出産を機に仕事を辞めています。

「ママはちゃんと仕事を辞めて家に入って、浩ちゃんを一生懸命育てたのよ。女の人は、それが立派な仕事なの。だって、仕事なんかより、浩介ちゃんの方が大事に決まっているじゃないの」と。

それで彼は、「女は、そういうものだ」と思っているわけです。だから、妻の美紅に対しても、「母親の方が、子どもを想う気持ちが強いのは当然」だと思っている。そういう考えの人は男女問わず多いでしょうし、母性が湧かない母親に対して「鬼畜のよう」なんて思うこともあるかもしれません。

――小島さん自身は、母性、いかがでしたか?

小島 私は2人の息子を出産しました。かわいいけれど、産んだそばから体の中からむわ~っと母性が湧いてくるなんてことはなくて。「うわ! 知らない人が出てきた! ど、どちらさま!?」という状態でした。2カ月ほど経つと、「おお、笑ったか!」と、反応が楽しめるようになり、時間を追って人間関係ができる過程で、「この人は無力だから守らなければ」という自覚や、愛着が湧きましたね。そうした感覚は、関係性の中で生まれるものなので、関係が成立する前から湧いて出るものではないのでは、と思っています。

――「母親は、腹の中に十月十日入れているんだから、母性が湧きやすい」という説もありますが。

小島 そんなわけない。「腹にいるな」とわかるし、かわいいとも思いますが、出てこないと誰だかわからないじゃないですか。母性って、そんなに魔法みたいなものじゃないですよね。

小島慶子『幸せな結婚』新潮社

小島慶子『幸せな結婚』新潮社

家族を養う責任は想像以上に重い

小島 一方で、男性の中にも母性はありますよね。お世話をする過程で愛着が湧き情が移り、関係ができてくると、「守ってあげたい」という養育的な気持ちが湧いてくるものです。父性もしかり、女性の中にあります。“父”“母”という単語がついているので、それぞれの性別で捉えてしまいがちですが。それも、自分の子どもに限らず、甥や姪、ペット、友人や恋人に対して湧くこともあると思うんです。

ただ、どうしても聖母幻想といいますか、子どもを持つ女性だけに求められる要素がありますよね。その聖母幻想、浩介も美紅もとらわれているんです。

――たとえば、父親が仕事を持っており、母親に経済力がなかった場合、「自分にはそれほど母性がない」と自覚している女性でも家庭に入ると思いますか?

小島 入ると思います。もし美紅が仕事で成功していなかった場合は、子どもを煩わしいと思わずに済むスタイルの育児をするのではないでしょうか。たとえば、いい洋服を着せたり、名門幼稚園に入園させたり。子どもが自分の価値を高めてくれる存在にする=大事にできる、という理由で、お受験ママになりそうな気がします。子どもにしてみれば地獄でしょうけれどね。だから、本作の美紅は仕事があってよかったですよね。

――近年は女性が仕事を持つことは当たり前ですが、一方で浩介は「夜は早く帰って来い」と言うなど、仕事をセーブすることを望んでいます。女性の働き方に、理想的な形はあるのでしょうか。

小島 そもそも今は、働かなければ食っていけない時代です。私が20代のときのような、「働くか、働かないか」という問いが成り立たなくなっていると思います。今の問いは、「どう働くか」。美紅のように夫に家事・育児のすべてを任せて働くか、恵のように、子ども優先で仕事は二の次としてセーブするべきだ、と思い込むか。他にも選択肢はたくさんありますよね。

かつては「働く女VS働かない女」「産む女VS産まない女」など、二項対立でしたが、今はそれが成立しないほど複雑化しています。そんなふうに、状況が多種多様ななかで、それぞれがやりくりしなきゃいけない。正解はもはや、ありません。

撮影/尾藤能暢

撮影/尾藤能暢

――小島さん自身は、『大黒柱マザー』(双葉社)という著作があるように、1人で一家を養う働き方をされています。そのプレッシャーは、計り知れないです。

小島 本当にしんどくて、共働きがいいなと常々思いますよ。

――小島さんの夫は、2013年に20年以上勤めた会社を退職していますが、それ以来、ずっと、正真正銘の無職なのでしょうか?

小島 そうです。ずっと無職。この頃は、今住んでいるオーストラリアで、日本向けの映像に関わる仕事を模索し始めましたが、家計の足しにはなりません。なので、無職と言えますね。

自分がそうやって片働きになって初めてわかったことがあります。昔、父親が働き手で母親が家庭に入っていた時代の、男性のしんどさたるや。

新橋のSL広場でインタビューを受けるおじさん、いるじゃないですか。「働いても給料は上がらないし、かみさんは高級レストランでランチを食べて、娘に『臭い』と言われているんですよ~」と愚痴をこぼす姿を見て、みっともないなあと思っていました。

が、自分がいざ一家を養う立場になり、たとえば息子に「クッセー、向こうにいけよ」と言われたり、夫が知らないうちに散財していたり、家族の会話にまったく入っていけなかったら、まあキレますわな。

でも、キレて殴りでもしたらDVになるし、捨て置いて家族を路頭に迷わせるわけにはいかないし、世間からは「家族を養って一人前」とプレッシャーをかけられる。そりゃあSL広場で自虐的な愚痴をこぼしたくもなるよなあ、と。実際にはうちの息子2人と夫は優しくしてくれるからいいですけど、ときどき、3人で私の知らない話で盛り上がると、疎外感を覚えてグレたりもします。

と、同時に、私の父親も、しんどかったに違いないと思うようになりました。私が学生時代、会社に行く父親と洗面所で並ぶと、すごく怖い顔をしていたんですよ。「会社に行くだけなのに異様に気合が入っていてキモいんですけど~」なんて思っていましたが、父はおそらく、しんどかったんですよね。

そうしたことが、40歳をすぎて、ひとりで家計を担うようになって初めてわかりました。

今までは、「男は強者で自由で、好き勝手やっている。割りを食うのはいつも、弱者の女」だと思い込んできましたが、働き方が多様化している現在、男=強者、女=弱者、では語れないし、働くしんどさも育てるしんどさも、男女でシェアする局面なのではないでしょうか。すると、男女の差がなくなっていくのでは、という希望を持って現状をみています。

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有屋町はる

AVメーカー広報、実話誌編集を経てフリーライターに。現在は週刊誌にて、中年男性目線の芸能記事やピンク記事を中心に執筆中。U15アイドル周辺が好き。

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