イクメンも聖母も幸福も「幻想」。打算的に生きていい/小島慶子さんインタビュー

【この記事のキーワード】

撮影/尾藤能暢

撮影/尾藤能暢

男性にだけ完璧を求めるのは酷

――育てる男といえば、“イクメン”という言葉がありますが、どう思われますか?

小島 言葉が生まれて初めて、そうした現象が認識できるから、言葉が誕生したことはよかったと思います。でも、形だけをなぞっている男性も多い印象です。と同時に、それに苛立っている女性がいるのも事実。「ちょっと抱っこして、オムツを2回変えただけで、イクメン気取りかよ」なんてね。

「育児をする男性はかっこよくて、育児をする男性の方が価値がある、と言われる時代になった」という認識は浸透しましたが、本当の意味での「育児と仕事の両立のしんどさを共有する」というところまで理解している人は、どれくらいいるんでしょうか。

ところでこの“イクメン”って、新しいモテの基準になったと思いませんか?「あの人、家のこともちゃんとやるんだ」と思うと、急に株が上がる。対照的に、「子ども? カミさんに任せてるよ」という男は株がダダ下がりです。

――そうなんでしょうか?

小島 昔、女性誌で、こんな一節を見かけたことがあります。

「男は結婚指輪をしている方がモテる」

結婚できるようなまともな男、ととらえられて株が上がる、ということと、同じような現象でしょうか。だから、イクメンほど、不倫マインドの高い女性のターゲットにされるかもしれない。だって、略奪してみたら、「家事も子育てもやらない男だった! ハズレつかまされた!」なんてことがないんですよ。あらかじめ、「子守りもちゃんとする男」だって、わかっている。

――たしかに、いろいろと手間が省けますね。

小島 そう思うと、女性が男性を選ぶ基準が増えた分、男性は全部やらなきゃいけなくて、無茶ぶりされて、かわいそうだとも思いますね。

――女性誌『VERY』に登場する、“イケダン”のような、すべてを備えている男性とか。

小島 そうそう。稼ぎも良さそうで、おしゃれで、家族思いで、家事も全部してくれる。いやいや、そんなのいるわけないじゃない! ほとんどファンタジーですよ。

女性だって、キラキラと輝きながらバリバリ仕事もして、子育ても完璧に、なんてできないのと同じで。男性にだけ完璧を求めるのは酷です。

これまでは女性の苦しさばかりにスポットライトが当たってきましたが、無茶ぶりな“イケダン”が登場した今の時代、女性も男性を枷にはめているところがあると思うんです。浩介も、美紅から「働いていないあなたなんて、価値がない」という扱いを受けたりしますし、男性には男性のしんどさがある。

――そうした中、魔性の女に出会おうものなら……。

小島 「肩書きもない、年収もない、自分が必要とされている場所が社会にはない。でも俺、すっげーイイオンナがセフレなんだぜ」と、不倫で発散したくなる気持ちも、わからなくはない。すごく浅ましいですけどね。

浩介に至っては、罪悪感のなさも特徴です。「妻が夫を大事にするのは当たり前。でも、妻は構ってくれない。俺って被害者だよね」という思い込みがあるんです。

――浩介は不倫し、美紅にも彼氏がいて、恵は浩介に恋心を抱き始めていました。本作では既婚者の恋もリアリティたっぷりに描かれていますが、小島さんは、結婚後の恋愛についてどう思われますか?

小島 私の周りにも、結婚した上で恋愛をしている人はいます。週刊誌ではめちゃくちゃに叩かれますが、ありふれた話ですよね。

結婚後の恋愛は、理屈ではなく、あるのでしょう。それを、誰にも言わずお墓まで持っていく人もいるでしょうし、配偶者の恋愛に気づいていても、経済事情含め様々な利害関係が複雑に絡み合っている“夫婦”という関係性をかんがみて、目をつぶって夫婦を継続する人もいるでしょう。

つまり、自分たちの幸せはなんなのか、というところで帳尻を合わせて、暗黙の了解で関係が成立していることも、少なくないと思います。それが成立しなくなったときに、離婚となったりすったもんだになるんでしょうけれど。

――美紅と浩介は打算的な関係性ですよね。

小島 美紅は浩介の不倫に気づいているけど、別に掘りたくない。だって彼は、自分の商売にも使える便利な存在だから。という、“打算”ですよね。一方で浩介も、自分は無職だし、離婚となれば娘をどれだけ育てられるのかわからない。でも、美紅と結婚していれば、コネで仕事がもらえるかもしれない。そもそも、「やりたいことをやれる自分」になりたくて退職したんだから、そうなるためには、美紅といたほうがいい。という“打算”があります。

だから、夫婦関係というユニットを維持する。それの何が悪いの? と思います。「そんなの、本当の愛じゃない」と言う人もいるでしょうけど、夫婦は「好き」という気持ちだけでは維持できません。

1 2 3 4

「イクメンも聖母も幸福も「幻想」。打算的に生きていい/小島慶子さんインタビュー」のページです。などの最新ニュースは現代を思案するWezzy(ウェジー)で。