イクメンも聖母も幸福も「幻想」。打算的に生きていい/小島慶子さんインタビュー

【この記事のキーワード】

撮影/尾藤能暢

撮影/尾藤能暢

仮面をかぶるのはイケナイことなのか

――“仮面夫婦”という言葉が、そぐわない時代になってきたのかもしれませんね。

小島 仮面じゃない夫婦って、いるんでしょうか。それに、偽ること=よくないこと、という単純なことでもないですよね。

金目的の夫婦は不純で、幸せではないのか。かたや、恵とEITAのように、「将来はハワイで暮らそうね」なんて叶いっこないダサい夢を見るのは、みっともなくて、チンケな幸せ、だと決めつけていいのか。

幸せって、純度100%のものではないし、そうじゃなくてもいいと思うんです。他人からすれば価値がなくてもいいし、思ったほど感動するようなストーリーがあるようなものでもないし。

だからこそ、既婚者の恋愛も、「愛」という切り口だけでは語れない気がします。たとえば、「結婚している自分」という背景があるからこそ、その人のことを好きになった、というケースもあるのではないでしょうか。なかには、恋愛が、現在の結婚を維持するためのツールというか、結婚と地続きのところにあるという人も、存在すると思います。

――その一方で、世間の声はやはり厳しいですよね。たとえばネットで「子持ち既婚女性 恋愛」なんて検索すると、相談サイトの、子持ち女性の恋愛相談にたどり着き、「母親が恋愛しようとするなんて、気持ち悪い」といった回答が続々とつきます。

小島 へー。そんなの、「おまえの母親じゃねえよ」で、終わりでしょ。私、38歳のときに写真集『カメラマンたちが見た小島慶子』(集英社)を出したんですけど、最初、『週刊プレイボーイ』の編集者から、

「僕たちはこれまで、若くて可愛くてプリプリした女性=イイオンナ、という性の価値を作ってきました。でも、その正反対にいる人で、いい写真を撮りたいんです」

と、面白い申し出があったんですね。ガリガリだし経産婦だし、年齢は40歳近いし、たしかにそれは面白そうだね、と快諾しました。で、半ば逆ギレのようなメッセージを込めて作ったんです。

「女性がみんな、男に欲情してもらいたくて水着になると思ったら、大間違いだぞこの野郎!」と。おかげで話題になりましたが、そうすると必ずツイッターなどに湧くのが、「母親が水着になるなんて、子供がかわいそう」「子持ち女のくせに、気持ち悪い」というコメント。

私、何人かに返しました。「うん、あなたのお母さんじゃないから。安心して」と。

もうね、浩介もそう言いますが、女性は出産したとたん、「みんなのお母さん」であり、「みんなにとっての理想を演じろ」と言われるじゃないですか。いい迷惑ですよね。うるせー! そんなのはおまえの母親に頼めよ! と。

イクメンは聖人君子じゃない

――浩介はマザコンとして描かれていましたよね。

小島 浩介は学力が高い分、自分のなかに強固な理屈や価値観が出来上がっています。「世の中には、ヤラせてくれる女か、“お母さん”女しかいない」という。浩介の不倫には、復讐という側面もあるんですよね。「男の方が優秀で当たり前」なのに、「頭の悪いはずの妻が、自分の年収を超えた」から、「能力の高い自分だって、会社を辞めて好きなことをすれば、イケるはず」と。でも、そうではなかった。そうしたフラストレーションが、女性へのひどい態度に表れているのかもしれません。

――浩介に恋心を抱いている恵に対しても、彼は「田舎の巫女」と罵ったり気持ち悪がったり辛辣ですよね。

小島 そうなんです。恵にはイクメン幻想があり、「イクメン、素敵! 理解のある男性!」と思いがちだけど、イクメンにもクソ野郎がいるはずじゃないですか。そもそも、「イクメンがみんな、イイ男だと思うなよ」というところが本作の出発点で、浩介というキャラクターから書き始めました。

――ひょっとしたらなのですが、小島さんの夫にも、浩介の要素があるのでしょうか?

小島 それが……あるような気がしてきたんです。最初は、「子煩悩で子どもに優しい上、私にも優しいし理解がある。私の夫は、仏のようだ」と思っていましたが、夫婦生活18年もやっていると、夫の考え方や価値観、深層心理が見えてきて、子どもにとってのいい父親であり、理解あるパートナーだという事実があった上で、「意外とクソ野郎な要素もあるんじゃないか?」と。

同時に、「イクメンだから目をつぶる」のはやめようと思ったんです。だってそれって、聖母幻想の押し付けでしんどい思いをした女性と同じだから。出産した女性が聖母ではないのと同じで、イクメンが聖人なわけがない。イクメンだって、人妻と不倫したい、と思うでしょ。

今、女性側が、男に聖人以外は許さない、と思っている節がありますよね。

――イクメンに、聖人幻想を見出そうとしている、と。

小島 そうです。ママからみると、昼間の公園に背の高いシュッとしたお父さんが新生児を連れて、「どうも、こんにちは」なんて言ってきたら、「きゃーん! 素敵ー! うちの毛むくじゃらのおやじとは全然違うー!」となりがちですが、騙されるなよ、と。

「清く正しいイクメンがどこかにいるはずだ」と思ったりするけれど、でも、クソ野郎で純度が低くても、いいじゃないですか。

――毛むくじゃらといえばEITAですが、EITAの登場シーンは、心がほっこりします。4人の中で一番ポジティブなオーラがあるので。

小島 でも、服を脱ぎ散らかすし、何度も同じことを注意しなきゃいけないんですよ。 行儀が悪いし無神経だし、イラッとする。けれど、とはいえ意地の悪さや計算高さがなく、一番性格がいいのはEITAなんです。

――性格がいいけれど、身近にいると、ちょっとウザい……ですよね。

小島 そこなんです! これも「心の綺麗な人なら、どんな男性でもいい」という女性がいるかと思いますが、「本当に、心が綺麗ならいいのか?」と問いたいです。「毎日そいつの脱ぎ散らかしたパンツを片付けて、毎日同じことを注意しなきゃいけないのよ?」と。

だったら、「心なんて多少汚くていいから、要領よくやってくれる人のほうがいいよね? 多少浮気をしても、イクメンのほうがよくない?」という意見はもっとも。

いい奴が、いい夫だと思うなよ。イクメンが、いい奴だと思うなよ。って、意地悪な目線ですみません(笑)。

1 2 3 4

「イクメンも聖母も幸福も「幻想」。打算的に生きていい/小島慶子さんインタビュー」のページです。などの最新ニュースは現代を思案するWezzy(ウェジー)で。