イクメンも聖母も幸福も「幻想」。打算的に生きていい/小島慶子さんインタビュー

【この記事のキーワード】

撮影/尾藤能暢

撮影/尾藤能暢

幸せを「見えるに違いない」と思ったらしんどい

――では、何が「幸せ」なのでしょうか?

小島 「幸せは純度100%ではない」ということを受け入れるしかありません。私自身、仏様だと思っていた夫がそうでもないと気づいたとき、偽物をつかまされた気分になって、「私の幸せは一気に壊れた」と絶望した時期がありました。でも、幸せの純度を下げてもいいとに気づいたときに、楽になったんです。

それに、周りの夫婦も、そんなに純度は高くないなあ、と。アルコールと同じで、スピリタスみたいな度数の高いものは滅多にない。けど発泡酒だって一応お酒はお酒だし毎日飲めるじゃん、という心境です。

夫婦って、何度も壊れそうになるものだと思うんです。そのたびに、どこかで手打ちをしている。それでも、幸せか否かと問えば、「幸せ」だと答える人も多い。

私が連載している『日経DUAL』(日経BP社)は、「ワンオペ育児の恨み」や「セックスレス」など、結婚の過酷な現実の特集がよく組まれているんです。そんななか同誌が読者に「夫婦として幸せか」などのアンケートをとったところ、「幸せ」の回答が75.9%だったんです。さらに、ほとんどの人が、「今後、添い遂げるなら今の配偶者」と回答している。編集部にも衝撃が走ったようで、記事の文章が動揺していました(笑)。

――なぜみな、「幸せ」と回答したのでしょうか。

小島 そう思わないとやっていけないからでしょうね。ほとんどが手打ちした上で維持している夫婦であって、純度を下げたんだと思います。

――さきほどからたびたび「幸せ」について言及していただきましたが、本作のタイトル『幸せな結婚』にある背景を教えてください。

小島 「幸せ」は最終的には主観でしかありませんが、結婚した=相手を選んだ、ということですよね。つまり、「他の選択肢を捨ててこれにしました」ということ。選んだからには失敗したくないから、「幸せです」と言いたいのは、誰しもある感情だと思うんです。

また、説明がつかないものだからこそ、他人に説得力のある「幸せの形」を整えたくなりがち。夫の勤め先がいいとか、豪邸に住んでいるとか、雑誌『OCEANS』のワンカットのように子どもと3人で歩き、「俺たち、私たち、こんなにかっこいい家族なんです」とアピールしてみたり。

本来、目に見えないものを「見えるに違いない」と思うがゆえに、幸せを証明することに、みんな、すごくしんどくなっているのではないでしょうか。

ということで、「『幸せな結婚』なんて、そんなわかりやすいもの、ある?」という問いかけを込めて、このタイトルにしました。

――近年では、SNSもそうした「形へのこだわり」に拍車をかけるツールとなってしまっていますよね。

小島 そうですね。最たるものです。そうやってタイトルを決めたあと、すでに同タイトルの本がないかネット検索しました。すると、「幸せな結婚をしたい人のためのサイト」という怪しげな女性向けサイトがたくさん出てきたんです。

「絶対に幸せな結婚がしたい! そのためにはどうすればいいのか?」と思って検索する女性がたくさんいるんだな、ということがわかりました。でも、その発想って、奇妙ですよね。

――はじまりがおかしいですもんね。

小島 「彼と結婚したい」ではなく、「幸せな結婚をしたい。そのためには誰と結婚すればいいのか」からはじまっている。「幸せな結婚」を手に入れるためなら、誰でもいいのかよ、と。いやあ、闇が深いですよ、「幸せな結婚」。

――「純度100%の幸せじゃなくていい」と納得して、聖母でも聖人でもない者同士で生きていくということですね。他人からどう見えるかでなく、自分たちが納得できていればそれでいいのではないでしょうか。

小島慶子『幸せな結婚』新潮社

小島慶子『幸せな結婚』新潮社

■小島慶子
1972(昭和47)年、オーストラリア生れ。小学生のころシンガポールと香港で暮らす。学習院大学法学部を卒業後、1995(平成7)年にアナウンサーとしてTBSに入社。テレビ、ラジオに出演し、1999年ギャラクシー賞ラジオ部門DJパーソナリティ賞受賞。2010年に退社後は、タレント、エッセイストとして活動している。『気の持ちようの幸福論』『女たちの和平交渉』『失敗礼賛』『解縛』『大黒柱マザー』『不自由な男たち』(田中俊之氏との共著)など著作多数。『わたしの神様』『ホライズン』など小説も手掛ける。

(構成:有屋町はる)

1 2 3 4

「イクメンも聖母も幸福も「幻想」。打算的に生きていい/小島慶子さんインタビュー」のページです。などの最新ニュースは現代を思案するWezzy(ウェジー)で。