アメリカには貧困層への食料配給をおこなうNPOがいくつもある。大手の Feeding America は今、貧困層の「飢餓を終わらせる」キャンペーン展開しており、街のあちこちに大きなポスターが貼られている。写真やイラストはなく、実在の困窮者のセリフだけを大きなフォントで掲げたものだ。
「失業。ママとパパはしばらく食事をしていないことを、子どもたちに気付かれないようにがんばっている。オリヴィア、ワシントンD.C.」
「自分の子供の学校の学食で働いているのに、自宅での食事を賄えない。メリッサ、ミシガン」
「食事を抜く。そうすれば二人の子供が食べられるから。水を飲んでもお腹いっぱいにはならないけれど。キーシャ、サウスカロライナ」
いずれも子供にだけは食事をさせ、自分は空腹に耐える親のセリフだ。 経済大国アメリカの、外部からは見えない負の側面がここにある。
アメリカには他にも低所得の、とくに子供への食料供給プログラムがいくつもある。今回はいずれも行政による「サマーミール」「給食」「フードスタンプ」「WIC」を紹介する。
サマーミール
ニューヨークの公立学校の夏休みは長い。今年は6月27日から新年度が始まる9月5日までの70日間。公立学校では朝食と昼食を無料で出すため(後述)、この間、家庭では食費が一挙に跳ね上がる。子供が何人もいる低所得家庭では到底まかない切れない。そこで夏休みの間、学校や図書館などで公立学校の給食と同じメニューの“サマーミール”が供される。
サマーミールは夏休み初日から始まり、月曜から金曜に朝食と昼食を出す。指定の時間帯に自宅近所の会場に出掛けるだけだ。18歳以下というルールはあるが事前の登録も身分証明書の提示も必要ない。
さらに今夏、ニューヨーク市はサマーミール・トラックを稼働させている。まだ4台のみではあるが、毎日市内の所定の場所にトラックを出し、無料のサマーミールを配給している。
給食が無料に
ニューヨークの公立学校の給食費は、これまでは家庭の所得によって有料・半額・無料の三段階となっていた。そのため毎年9月に家庭の所得を記した書類を学校に提出していた。だが、近年は徐々に無料の枠を広げ、今年の9月からはすべての生徒が家庭の所得に関係なく、無料となることが決まっている。
数年前にその第一段階として、中学生は全員が無料となった。理由は「他の生徒に無料(貧困家庭)と知られることからくるトラウマを防ぐため」だった。給食無料の生徒の割合は、各学校の貧困度を測るバロメーターとして使われてきた経緯もある。
参照:「学校制服は貧困の証? 「学校制服は貧富の差を隠す」がひとまわりしたニューヨーク」
ちなみに公立学校にはPre-K(3~4歳児幼稚園)、キンダー(5歳児幼稚園)、小学校、中学校、高校が含まれる。生徒は家庭からランチを持参してもよく、高校の中には学外の店でランチを買う/食べることを許可している学校もある。
フードスタンプ(食料クーポン)
正式には “SNAP” と呼ばれるフードスタンプは、低所得家庭に配給される。2人家族の場合、月収2,030ドル(約22.5万円)/年収24,360ドル(約270万円)以下であれば、月に最大353ドルを受け取れる(老齢、就労や障害の有無などによって異なる)。
支給額は毎月、専用のデビットカードに入金され、パン、シリアル、野菜、果物、肉、魚、乳製品などに使える。テイクアウト、アルコール、タバコには使えない。
月収22万円での支給は恵まれているように感じるが、ニューヨークは家賃が非常に高く、低所得層では収入の半分が家賃で消える世帯も多い。フードスタンプ受給世帯は明らかな貧困家庭と言える。
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