WIC〜母・乳児・幼児
フードスタンプとは異なる、母子への食料配給プログラムが、WICだ。WICとは、Women(乳幼児を育児中の母親)、Infants(乳児)、Children(5歳以下の幼児)を指し、この3者に対して基礎栄養食品を支給する。ほとんどの子供が以前は5歳でキンダーに、現在は4歳でPre-Kに入園するため、以後は学校での無料の朝食と昼食を得られる。
配給されるのは乳児用の濃縮液体ミルク、母親と幼児にはジュース、牛乳、シリアル、チーズ、タマゴ、野菜、果物、全粒粉パン、魚(缶詰)、ピーナツバターまたは豆(乾燥または缶詰)。子供については健全な成長が、母親については母乳育児に必要な栄養素が摂取できる食品となっている。
現在は紙製のバウチャーをスーパーマーケットなどに持参し、指定の食品と交換するシステムだ。一般的なメーカーの商品が指定されており、高級ブランド品とは交換できない。稀に男性がバウチャーを握り、右往左往する姿を見掛ける。WICは女性名義でしか発行されないため、パートナーか妻に頼まれての使い走りだろう。
紙製バウチャーは清算にも時間がかかる。スーパーのレジに長蛇の列を作る原因であり、使用者には肩身の狭い思いもさせている。ニューヨークでは来年、ようやくデビットカード化される。
経済大国での「飢餓」
アメリカはすべての子どもに少なくとも最小限の食料、医療、義務教育(バイリンガル教育を含む)を提供する。実のところ、給食とサマーミールに関しては健康な成長のための栄養素を含んだメニューではあるものの、予算の乏しさからお世辞にも美味しそうには見えず、子供たちには「まずい」と不評だ。
それでも朝と昼が無料であることは、多くの家庭に経済的な恩恵を与えている。極貧家庭も少なくなく、学校で食べる朝食と昼食で命を繋いでいるケースもある。夕食が食べられず、夜にベッドでお腹を空かせる子供もおり、これはあってはならない 非常に深刻な事態だが、それでも2食を無料提供することで餓死を防いでいる。先進国で餓死を引き合いに出さねばならないこと自体が異常ではあるのだが。
こうした現状があり、最初に挙げた食料援助NPOも存在する。
ちなみに学校での朝食は経済的な支援になっているだけでなく、働く親にとって朝の支度時間のカオスを緩和する役目も担っている。
ビザ無し移民にも支給
子供の命をつなぐ食料支援については、子供がアメリカ人であっても、移民であっても、さらにはビザ無し移民であっても一律に供給する。
公立学校は入学に際して生徒本人や親の米国滞在資格(米国市民か、またはビザの有無)を問わない。義務教育はすべての子どもに等しく与える必要があるからだ。したがって学校給食もすべての子どもに出される。
サマーミールも事前の登録やIDの提示は不要。「豊かな家庭の子供も食べに来れるではないか」「18歳以上でもバレないのでは?」といった瑣末なクレームは出ない。
フードスタンプは米国市民と合法移民のみが受給でき、ビザ無し移民は不可だが、WICはビザ無し移民の母子も対象だ。子供、特に乳幼児は法的資格にかかわらず、社会が守らなければならないからだ。それもあり、公式サイトは20言語表記となっている。
ニューヨーク市はビザ無し移民にも寛容な“聖域都市”と呼ばれる都市のひとつだ。複雑な福祉政策を移民にも伝える努力がおこなわれている。移民と一口に言っても、永住権保持者から難民や亡命者、祖国の窮状から政府が特別枠として受け入れたハイチ人とキューバ人、そしてビザ無し移民などさまざまなカテゴリーに分かれる。どのカテゴリーがどの福祉政策を受給できる/できないを一覧表にしたパンフレットも配布している。
ところが今、WICの申し込みが減っている。トランプが大統領となったのち、ビザ無し移民の母親たちが政府に個人情報を提供し、強制送還の対象となることを恐れているのだ。貧しい母と乳幼児にとって月45ドル相当の食品は貴重だ。しかし、大統領の存在がその貴重なパンやミルクを拒否させているのだ。この異常な事態を、私たちは子供の命を守るためにもなんとかせねばならない。
(堂本かおる)
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