シンデレラの物語を戦時中に置き換えたら…明日の命も知れない状況下で男女は何を求めるのか

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 作中、時間や人の運命を操る存在である「天使」が登場はしますが、「シンデレラ」は、かなり史実にも忠実に作られています。

 カフェ・ド・パリは、ミュージカルの聖地であるウエストエンドに実在したナイトクラブで、実際に1941年3月8日に空襲に合い、踊っていたカップルやスタッフら100人弱が死亡。ロンドンは1940年から41年にかけて3カ月近く連続で空襲に見舞われており、現代のイギリス人にとって、ロンドン大空襲は身内が経験したことも多い身近な悲劇だそう。マシュー・ボーン自身も、祖父母がロンドン大空襲を経験しています。

 自身も怪我を負ったハリーは、シンデレラの靴を抱えてロンドンの街をさまよいます。娼婦と出会ったり、戦地でのPTSDに苦しんだりしたのち、当時の治療法であるショック療法を受けた病院で、シンデレラと再び巡り合います。

ぼろぼろの姿で再会

 戦時下という生きるか死ぬかの瀬戸際なのに、恋した相手をひたすら追い求めるのは、現代日本人の感覚だと少しのんきにも思えます。しかしこのころのイギリスは、明日のことは気にしないという考えが主流だったそう。

 死と隣り合わせの生活で、明日があるかどうかの保証はないからこそ生きることに全力になった結果、愛を求めたと考えれば、シンデレラとハリーが必死にお互いを探し続けるのは、むしろリアルだといえるかもしれません。

 マシュー・ボーンの「シンデレラ」が従来の作品と一味違うと、もうひとつ感じられるのは、病院で再会したふたりが、ともにメガネ姿でやぼったい装いであることです。

 ふたりが惹かれあったのは、それぞれの内面であり、また恋する相手のことは、カフェ・ド・パリで踊ったときのように魅力的に見えるという証でもあり。真実の愛を得るために、見た目にこだわることはどれほど浅はかなのことなのか。その真実を、誰もが憧れる美男美女の物語からの翻案で伝えるという、マシュー・ボーンのイマジネーションの妙には感嘆せざるを得ません。

 生きる喜び、愛する幸せは、言葉には言い尽くせないもの。バレエは時に、セリフよりも雄弁に、メッセージを伝えてくれます。

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