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育児も性差別もメディア問題もすべては地続き。価値ある情報をみんなで増やしていく/荻上チキ×森戸やすみ

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左:森戸やすみさん 右:荻上チキさん

『小児科医ママの子どもの病気とホームケアBOOK』(内外出版社)の著者で、小児科医の森戸やすみさんと評論家・荻上チキさんによる、育児・医療の情報環境を考える対談後編。前編では、様々なメディアで不足している育児・医療情報を、誰がどのように補っていくかについてお話いただきました(育児・医療の情報環境は問題だらけ! 家族に丸投げの育児をどう変える?/荻上チキ×森戸やすみ)。後編では、メディアでの情報発信の問題だけでなく、社会全体の育児がしやすい環境についてお話いただきました。医療情報の問題や育児のしやすさ、性差別が地続きの中、どのように社会を変えていけばよいのでしょうか?

特定のモデルにあわせた育児

荻上 環境を改善させるという意味では、適切な情報が提供されているっていうのはもちろんなんですけど、僕は、ゆるゆるとした温度の中で育児が出来る社会環境を整えることがひとつのゴールだと思っています。行政や地域が育児支援にもっと入って、親だけが抱え込まなくなるようにすれば、イライラしなくなって、むしろ愛情が増えると思うんです。愛情ってなんなのかもよくわからないんですけど。

森戸 子どもが愛されていると実感することが、親の与えられる愛情のひとつだと思います。ですから子供にとっては、親がイライラしていたり、怒られたりするのがつらい。

荻上 だから親の余裕を作ってあげるのが大事。ご飯を食べるのにぐずったら怒るとかって、コントロール目線の育児ですよね。親が子どもをコントロールしないといけない理由って、何時までに子どもが食事を終えてないと出勤時間に間に合わないとかだと思うんですよ。

森戸 「忙しい中、せっかく栄養バランスを考えてつくったのになんで食べないの!」とか。

荻上 3日しか休みがとれなかったから、その間に風邪が治ってほしいとか。時間的制約の中で子どもをコントロールしなくちゃいけないわけです。余裕を持って対処できるように、大人たちの余力を残しておかないと、互いに追い詰められますよね。

森戸 親はどうしたら余裕が持てるでしょうね。

荻上 僕は家族の絆を緩めることで絆が深まると考えているんですよね。だから、なんでも親がやらなくて済む、子どもも親もニコニコ出来るような環境にしていく、トータルな社会設計が必要だと思います。

森戸 斜めの関係がなくなったとか言いますよね、よく。

荻上 第3の場所とか言ったりしますよね。学校/家庭、あるいは職場/家庭、みたいな第1、第2の場所、つまり再生産と生産の場所ばかり重要視されていて、単純に人として楽しめる「開放の場所」のようなところがない。子どもの頃からずっとそうなんですよ。子どもこそ、先生や親から離れて、評価されない場所、空間でのびのびと過ごしたりとかのゆるやかさ、伸びやかさをちゃんと活かせるような場所が必要です。でも、世の中はどうもそういう風になっていかない。教育再生とか、家庭教育支援とか……。

森戸 生産性とか。

荻上 そうですね。政治の場から出てくるのは、特定のモデルに当てはまることこそが素晴らしいみたいな話ばかりで、現実の人びとの幸福度をあげるように考えてくれているようには思えない。今までのような特定のモデルにあわせた狭いレパートリーの政策だけでは僕らの幸福は実現できないんですから、一個ずつ多様なオプションを作っていきましょうっていうのが、ゴールに向かっていくひとつのルートなんだと思います。

育児の問題は全て地続き

森戸 そういえば、お母さんって「未熟児を産んだのはあのとき私が走ったせいだから」とか「健康に産んであげられなくてごめんなさい」とか、誰に言われたわけでもないのに自分を責めちゃうんですよ。女性のほうが身体的に密着して、切り離せないんですよね。子供を。お母さんが実際に産んだだけでなく、子どもに何かあるとお母さんだけが責められやすいせいかもしれません。

荻上 まだまだ不十分なところも多いですけど、世代によっては随分変わってきているんじゃないですかね。30、40代の父親が「俺たち、むっちゃ子どもと遊んでいるよね。自分たちが子どもの頃って親と遊んでたっけ」って話をしてたんですよ。

森戸 あの頃の父親は企業戦士だったから。

荻上 ええ。「ずいぶん変わったよね」って。育児スタイルも意識も変わってますから、べき論を言っている前の世代の言説を鵜呑みにしなくていいんですよ。ただ政治の世界はまだべき論が強い。

森戸 政治だと、そういう世代がまだ牛耳ってるんですよね。確かに外来に来るお父さんたちは増えました。昔は病院にお子さんを連れてきたお父さんに「今日はお子さんの食欲、どうでした?」って聞いても「わからないので嫁に電話してもいいですか?」みたいな答えしか返ってこなかったんです。でもいまのお父さんは「いつもよりは食べる量が少なかった」とか「うんちは水っぽかった」っていう話ができる。

荻上 100年前とかだったら、父親が病院に連れて行くだけで白眼視されてましたもんね。

森戸 わたしの長女は今18歳なんですけど、夫が抱っこして実家の周りを歩いていただけで「ご近所さんから、何言われるからわからないからあなたが抱っこしなさい」って姑さんに言われたりして。「いま21世紀だよね?」ってびっくりしちゃいました(笑)。

荻上 この極端な感じはなんなんでしょうね。

たぶんすべてが地続きなんですよ。医療の知識を共有する上でも、親が余裕の持てる状況を作りながら、確かな情報を親だけでなく広くいろんな世代に届けて、地域からのピアプレッシャーも解消しないといけない。トータルで多くの世代が、安心安全に、豊かに幸福に子育てにかかわれるような社会設計が必要になってくる。「こういう家族が望ましい」だとか、「これをしない親は失格だ」といった言説は、本人を追い詰める以上に、社会に対しても不幸を再生産している。

森戸 みんなが困るわけですよね。押し付けると。

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森戸やすみ

小児科専門医。一般小児科、NICU(新生児特定集中治療室)などを経て、現在は世田谷区にある『さくらが丘小児科クリニック』に勤務。朝日新聞アピタルで『小児科医ママの大丈夫! 子育て』を連載中。Wezzyでも。医療者と非医療者の架け橋となるような記事を書いていきたいと思っている。

twitter:@jasminjoy

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