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選択肢が限られていても、幼稚園・保育園を見学して欲しい。子どものためになる「保育」とは?/猪熊弘子×治部れんげ

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左:治部れんげさん、右:猪熊弘子さん

今年5月に刊行された『子どもがすくすく育つ幼稚園・保育園』(内外出版社)。保育に関する問題について取材を続けてきたジャーナリストで保育士資格も持つ猪熊弘子さんと、弁護士・社会福祉士で同じく保育士資格を持ち、子ども・家族の法律問題に取り組んでいる寺町東子さんの共著である本書は、複雑な保育に関わる様々な制度の説明はもちろん、子どもにとってよりよい幼稚園・保育園・認定こども園などを選ぶために知っておきたいことをまとめた一冊になっています。

待機児童問題や幼児教育の無償化などが注目されていますが、幼児教育・保育施設の選び方や子どもにとって大切な「保育」とは何かという視点も忘れてはいけません。そこでwezzyでは、本書の刊行を受け、著者のひとりである猪熊さんと、保育や家族、ジェンダーについて発信するジャーナリストの治部れんげさんとの対談を実施しました。前編では、保育施設を選ぶ際に気をつけたいこと、早期教育ってどうなの?など、身近な問題についてお話いただきました。

入園前に見学することが大切

猪熊 幼稚園・保育園を選ぶための本って実はあまりないんですね。待機児童が多い地域ではそもそも選べないということもあって、「よく考えて選びましょう」と保護者にいうのは気の毒だと話す専門家もいます。でも、たとえ周囲に一カ所しか入れそうな保育園がなかったとしても、そこが子どもを預けて大丈夫な園なのかを判断するための最低限の知識は持っておいたほうがいいと思うんです。

治部 第一子を産んだとき、年度の途中で仕事に復帰したこともあって、役所の窓口で「入れる認可保育所はない」と言われちゃったことがあります。一応、近くにあるいくつかの無認可保所を見学しに行ったら「ここはさすがにちょっと……」という場所もあって。

猪熊 確かに中には「ここに預けるくらいなら自分でみたほうがいい」と思うような園もありますよね。

治部 そうなんですよ。出版社に勤めていたこともあって、ある程度フレキシブルに働けましたし、短期的にはベビーシッターを使って保育園には預けないという選択肢もあったんです。その判断をするためにも見学にいくことは大事だと思うんです。だから、幼稚園や保育園を選ぶためのポイントが書かれているこの本は、どんな人にとっても役に立つと思うんですよね。

考えてみたら、学校の場合は子どもの学力や親の経済力などの制約条件の中で、学園祭を見に行ったり過去の試験問題を解いたりして選んでいますよね。それが当たり前。でも、そういう発想が乳幼児を預ける施設にないとしたら、むしろ不思議なことです。

猪熊 そう思います。乳幼児はちょっとしたことで命に関わるくらい弱いですし、しかも長時間、保育園なら11時間とかもっと長い子は13時間を過ごすこともあるわけですしね。

治部 私の場合、第一希望はもちろん公立の認可保育所だったんですけど、第二希望の候補として、ふたつの私立認可保育園があったんです。一つは施設もきれいだし、有名な企業が運営しているんですけど、あまり評判がよくない保育園。もう一つは病院が運営しているちょっと古い保育園です。最初の園は、真っ先に来た園長先生から英語教育やリトミックの話を丁寧に説明されました。でも、お散歩の最中に先生が子どもから目を離しているのをみて、危ないと感じたんですね。もうひとつの園は、お散歩の際に、子どもたちに早く靴を履くように急かすこともなく、むしろ見学者の大人を待たせていて。それだけでも、どっちの保育園が子どものことを優先して考えているか一目瞭然ですよね。

猪熊 間違いなく後者が良いですね。でも、最初の園を選んでしまう人も多いんじゃないでしょうか。リトミックなどの教育メニューをいいなと思ってしまいがちなんです。確かにそれらはひとつのオプションではありますが、それを一番の売りにしている園はあまり良くないところが多いと思います。

治部 猪熊さんは、どうやって園を選ばれました?

猪熊 私には子どもが4人いて全員0歳から保育園に通っていたんですけど、長女を出産した22年前(1996年)には、私もまだよくわかっていなかったんですよね。仕事が大好きで毎日忙しく取材に走り回っていたので、そもそも自分が子どもを持つなんて思っていませんでしたし。当時は、まだ役所じゃなくて自治体の福祉事務所に入園の申し込みをする時代だったんですけど、そのことすら知らなくて、同じマンションのママ友に聞いたくらい。長女は5月産まれだったので生後半年くらいの時期でしたね。それで人に言われるがまま福祉事務所に行って「保育園の申し込みに来ました」って言ったんですが、おじさんが嫌そうな顔をして出てきて、「ほら、あそこのホワイトボードみて? なんて書いてある? ゼロって書いてあるでしょ。いまどこも空いてなくて入れないから、じゃあね」って、まるで水際作戦みたいな対応をされて(笑)。

治部 それで引き下がったんですか?

猪熊 そうなんですよ。この私が当時はすごすごと引き下がったんです(笑)。理論武装していないってそういうことですよね。流石に翌年の申し込みのために情報を仕入れて、結果的に市内で一番大きな公立保育園に0歳(11カ月)で入れました。入れたので安心して「よっしゃあ!」って気合を入れてバンバン仕事をいれようと思ったんですけど……入園時、園長先生との面談で「5時まで預かってほしい」ってお願いしたら「5時まで!? 長いわね」って言われちゃって。

治部 言い方が厳しいですね!

猪熊 その当時はまだ0歳児は4時までしか預けられなかったんです。そうなると3時には仕事を切り上げないといけない。でもマスコミって夕方からゲラが出たりとか仕事が入ることもあるじゃないですか。だからせめて5時までは預かってほしかったんですが……。でもその園長先生の反応を見て、「そうなんだ、0歳の子どもにとっては5時まででも長いんだ」って思いました。それでもがんばって二重保育を頼んで出張したこともありますが、長女はすぐ熱を出して、結局、1週間くらいはグズグズしちゃう。それで園長先生に言われたことを思い出して、しばらくは子どもにあわせて暮らそうって思ったんですね。実際、特に0歳児は病気も多いし、保育時間は長すぎないほうがいいと今も思っています。

幼稚園も保育園も教育内容はほとんど一緒

治部 お二人目のときはどうでした?

猪熊 年々、子育て環境って変わっていくんですよね。2000年に生まれた次女は3月生まれでしたし、すでに待機児童問題が深刻になっていて、すぐには保育園に入れませんでした。220人定員のところに、長女の時は180人ほどしかいなかったのに、次女が生まれた頃には「弾力化」で225人も入っていたくらい。

治部 「弾力化」って言われますけど、要するに「詰め込み」ってことですよね。「弾力化」って言葉でごまかさないで欲しい。

猪熊 そうなんですよ。神奈川県川崎市から都内に引っ越したんです。でも川崎市の場合、必要があれば誰でも無条件で延長保育ができたのが、都内では延長保育に定員があって、フリーランスの私は延長保育の枠に入れなかったんです。長女は公立園に入れたものの保育時間は短くなるし、次女は入園できないし、と散々でした。たまたま転勤で引っ越して辞退した人がいたおかげで3月27日頃になって急に公立園に入れることになったんですけど、長女と次女は別々の自宅から遠い園になってしまって。家のすぐそばに公立の保育園があるので引っ越してきたのに、そこには結局、誰も入れませんでしたね……。

治部 ファミリー向けのマンションで「◯◯保育園まで徒歩◯分」みたいなこと書いてある広告がありますけど、小学校と違って保育園は必ず入れるわけじゃないってことは知っておいてほしいですよね。ちなみに、ご長女を出産された頃は幼稚園の預かり保育ってありました?

猪熊 今ほどはなかったですね。私が長女を通わせようかな、と一瞬考えた幼稚園には少なくともなかったです。預かり保育にも歴史があるんですよね。2000年代に入ってからは8割位の幼稚園が預かり保育を始めたんですが、友人のお子さんなど、職員室でお菓子を食べながらテレビを見ているっていう本当に「預かっているだけ」だったそうで、実際そういうところも多かったようです。近年は幼稚園の預かり保育もきちんと保育してくれるし、夏休みなどの長期休暇の期間も保育を行っているところも増えてきています。治部さんは、預かり保育を利用したことはありますか?

治部 私は子どもがふたりいて、上の子はずっと認可保育園、下の子も途中まで認可保育園で、途中からは幼稚園と預かり保育でした。 私が住んでいる自治体もいまは全部やっていますね。夏休みに預かり保育をやる幼稚園にはクーラーをつけてたり、市がインセンティブをつけているんですよ。専業主婦の人も、預かり保育が使えるなら、働きたい、働く日数を増やしたいって感じで。いまは専業主婦と働いている人の境目が曖昧になってきていますよね。皆さん、預かり先が確保できるならゆるゆると仕事に戻るって人が多い。

猪熊 いまは預かり保育を利用して幼稚園でも働いているお母さんが増えてますね。一方、地方にいくと保育園しかない自治体もあるんですよ。

治部 そうなんですか?

猪熊 保育園は児童福祉法に基づいているのでどの自治体にもあるんですけど、幼稚園がないところは意外にもけっこうあるんです。保育園が幼稚園的な機能を果たしていて、働いていないお母さんでもいろいろ理由をつけて子どもを預けてる。最近では認定こども園にかわってきていますね。認定こども園なら、3歳以上になれば働いているなどの理由がなくても預けられますから。

治部 本にも書かれていますけど、保育園も幼稚園も認定こども園も子どものために重視している理念が教育内容が同じ、というのはぜひ知っておいてほしいです。私は、私立と公立の認可保育所と認証保育所私立の幼稚園を経験していますが、やっていることはあまり変わらないんだなって思いました。保育園だと教育してもらえないんじゃないかって心配は意外と不要なんですよね。教育産業からの脅迫マーケティングに踊らされてほしくないです。

猪熊 2018年度に出された「幼稚園教育要領」「保育所保育指針」「幼保連携型認定こども園教育・保育要領」は、用語などの違いはありますが、保育内容についてはほぼ同じものが掲げられています。そもそも、指針が3つもある国が異常なんですけどね。日本では時間をかけて徐々に共通化されてきているけど、本来、どこに預けても同じ教育内容を担保していかないといけないと思います。

治部 不公平が生まれてしまいますよね。

猪熊 そうなんですよ。

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