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選択肢が限られていても、幼稚園・保育園を見学して欲しい。子どものためになる「保育」とは?/猪熊弘子×治部れんげ

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特徴的な方針の園は「なんちゃって」くらいがいい

治部 見学のポイントとして「保育室の中に入れてくれないところは絶対にやめたほうがいい」と書かれているのがいいと思いました。

猪熊 保育室を見せてくれないところは、よくない園である可能性が高いです。本にも書いたんですが、死亡事故が起こっている保育施設の最大の共通点なんですね。見せない理由として施設側が挙げがちなのが、①防犯上の必要、②衛生面の観点、③保護者のためのサービス。でも、いま保育業界では、保育内容のレベルアップのために、むしろ第三者に保育を積極的に公開しようという動きが主流です。保護者にすら見せないとなると、保育内容や給食、保育士の数や能力の不足を隠しているかもしれません。実際に見たほうが安心です。

治部 なるほど。じつは、私、子どもが保育園から幼稚園に移ったとき、すごく不安だったんです。お弁当作成能力がゼロだったので(笑)。でも見学にいった幼稚園は、ご飯の最中に子どもたちが食べているお弁当を先生が見せてくれて「皆さん、上手に手を抜いていますよ」って言ってくれて安心したんです。オープンに全部見せてくれるところは安心できますよね。

猪熊 オープンで、親にも子どもにも優しいっていうのはポイントですよね。複数の施設をチェーン展開している保育園で、見学用は1カ所だけにしているというところも心配です。いくら同じ法人が運営していても、園長先生やスタッフによって園の雰囲気や実際の保育は変わるからです。それから、子どもが規則や先生の厳しい指導でギシギシ縛られているような本当に厳しい園も良いとは言えません。子どものことをちゃんと考えてくれて、保護者にも親身になってくれる先生がいる園もあるんです。

治部 保育士同士のコミュニケーションのお話も書かれていますが、ここもすごく大事ですよね。子どもが行っていた保育園の時ひとつだけ心配なクラスがあったんです。親がいるところで、先生同士が子どもの悪口を言っているのが聞こえてきて。そのクラスでは子どもがあとに残る怪我をしました。やはり、そういう雰囲気が事故につながっているのかもしれないなと思ったんです。

猪熊 保育は人間同士の関わりの中で行うもの。先生たちの雰囲気が明るくてチームワークがいいかどうかは本当に重要ですよね。見学に行けば、その園の雰囲気はだいたいわかりますよ。

治部 大声を出したり、脅したり、力で言うことを聞かせようとしているとか。

猪熊 そういう園は、先生に余裕が無いんですよね。みんなイライラしてる。

治部 いろんな園を見学した私の友だちは、すごくピシッとしているんだけど、遊んでいる子どもの目が笑っていなくてまずいと感じた園があったと言っていました。いろんな園を見学したからすぐにわかった、と。

猪熊 「子どもたちがピシッとしているところがいい」って価値観を持っている人は、そういう園に騙されちゃうかもしれませんね。子ども乳幼児にも意志がありますから、簡単には大人の思い通りにならないものです。親は、「子どもをピシッとさせておきたい」みたいな気持ちは持たないほうがいいと思いますし、そういう園はやっぱり子どもにとっても親にとってもキツいと思います。

私自身は子どもの頃、お寺が母体になった社会福祉法人が運営している保育園に通っていたんですけど、大きな本堂があって、周囲にもたくさんのお寺の建物があって、時々修行僧が近くにいたりて、そこで毎日遊んでいました。花祭りとか涅槃会とか、仏教にちなんだ行事もあってすごく面白かったですね。園にいるうちに、自然と手を合わせることを覚えたように思います。宗教系の幼稚園・保育園は、その宗教にちなんだ行事をしているし、そこでの習慣や考え方は子どもの世界観や価値観に結構浸透するものなので、そのこともしっかり考えて選んだほうがいいとは思います。

治部 私も仏教系の園だったんですけど、園長先生がサンタクロースになってくれたんですよね。融通無碍な感じ(笑)。

猪熊 いいですね。そういうところは多いと思いますよ。宗教にしても、教育の流派にしても、あんまり厳密じゃない「なんちゃって」くらいがちょうどいいって思っています。

治部 本の中では、シュタイナー教育、モンテッソーリ教育、森のようちえん、早期教育といった特徴のある園についても紹介されてますよね。一度、シュタイナー教育の園を見たことがあります。室内が布で覆われていて驚きました。

猪熊 そうですね。皆さんが興味を持つ主なものを挙げてみました。様々な方針のところがありますから、知識として少しは知っていた方が良いです。私自身、取材のときに黒い服を着てはいけない、なんて言われた園もありますよ。

治部 「〇〇〇教育」っていう字面がブランド化しているところはありますよね。そういえば、昔住んでいた地域にモンテッソーリの保育園が出来たらすぐ定員いっぱいになってました。何かブランドの教育法だと思われているのかもしれません。

猪熊 確かに。そういう風に思われているところはあるように思います。

治部 本の中で紹介されているものだと、森のようちえんが一番いいと思ったんですが、実際はどうでしょう?

猪熊 「森のようちえん」といっても定義がさまざまなんですよね。中にはあまり安全対策をせずに危ないことをやっているところもあるようです。

治部 怪我しかねないという意味ですか?

猪熊 そうです。子ども自身も含めて気をつけていても、どうしてもやむを得ない些細な怪我なら仕方が無いのですが、あまり安全対策をとらずに、経験値だけでやっている園は危険です。

治部 自主保育の人が森のようちえんを自称するパターンもあると聞いたことがあります。

猪熊 海外でもそういった「森のようちえん」はあって、すごくいいなって思うところもあります。でもそれはきちんと安全であるように設定された自然なんです。やみくもに自然の中で保育すれば良いというわけではありません。

早期教育よりも、のびのびした環境

治部 早期教育はどうですか?

猪熊 早期教育もね……自治体によっては積極的にやっているところがありますね。ある自治体では小中学校のエアコン設置率がゼロパーセントだというのに、幼稚園、保育園にiPadのようなガジェットを導入して保育しているんだそうです。予算の付け方がおかしい。ガジェットなんか必要なくてむしろ優先すべきはエアコンなんですけどね。

治部 子どもがかわいそう。

猪熊 フラッシュカードを使った早期教育をやっている園もありますけど、役に立つとは全く思えないです。それで東大に入ったっていう人はどれくらいいるんでしょう(笑)。

治部 私は英才教育が嫌いなんですよね(笑)。周りの親もそんな感じでした。下の子が通っていた幼稚園に月1回、英語の先生が来てくれるようになったら「外で遊ぶ時間が減るのが心配」って(笑)。子どもは楽しんでいたようですし、月1回くらいなら、英語力に影響はないですが。リトミックもやってましたけど、そういう「教育プログラム」を謳い文句にしておらず、入園するまで、全く知りませんでした。居心地のよい園でした。

子どもって気づいたら字を読めるようになってますよね。私は家でいっさい教えてなかったんですけど、上の子が3歳くらいのとき、公立保育園の非常勤の先生にずっと本を読んでもらってたんです。気づけば読んだり書いたり出来るようになっていました。だから心配しすぎないほうがいい……というより、心配するほうが毒だと思います。

猪熊 子どもによって文字に興味を持つ時期って全然違いますよね。うちの場合、4人いる子どものうち長女が文字にまったく興味がない子だったんですよ。一番力をいれて読み聞かせをしていたというのに(笑)。でも年中か年長のときに「お友だちは自分の名前とかハートとか書けるのに、私は書けない」ってしくしく泣き出しちゃったんです。

治部 かわいい!

猪熊 それで名前の書き方と、ハートの描き方を教えたら満足して、ずっとハートマークを書いてましたね(笑)。次女の場合はまた長女とは全然違っていました。3歳になったばかりの頃、夕方、保育園にお迎えに行ったらかるたをやってたんですよ。「どうしてかるたなんてやってるの? まだ字も読めないのに〜!」って笑って言ったら、先生から「なにを言ってるんですか? 字、読めますよ?」って言われて私の方がビックリ(笑)。読み聞かせも長女ほどしてあげてなかったんですけど、文字に興味がある子で、教わらなくてもいつの間にか読めるようになっていたんですね。

治部 教え込まないでのびのびと自由にやらせてあげるほうが伸びますよね。

猪熊 本の中でも紹介しましたが、小学校の先取り勉強をしている園の子どもと主体的な自由遊びの多い園の子どもの読み書き能力と語彙力を比較したら、後者のほうが語彙力が高いという結果が出たという研究論文もあるくらいです(※)。

治部 園による違いがあると思いますが、下の子が通っていた園はかなり自由でした。小さな子でも雲梯やジャングルジムの上まで登っていく。周囲が「危ない」と言いすぎないためか、運動能力が発達している子が多かったです。

猪熊 それは先生の見守り方が上手な園だったんですね。次女が通っていた公立保育園も本当に自由でした。みんな毎日、園庭で木登りしていましたね。私の両親が次女を旅行に連れて行った時、その地の由緒ある「お手植えの松」に次女がいきなり登って「イエーイ!」ってぶら下がったりしたそうで、母が仰天して「やめて〜〜!」って止めたと言ってました(笑)。同級生の子たちもみんなそんな感じなので、小学校に行くとみんなリレーの選手になっていて。同級生の中でもいちばん運動が苦手だと思われていたおとなしい子も小学校にあがったらリレーの選手。そのくらい体の発達に差がつくんですね。

治部 猪熊さんが本に書かれていましたが、都内で園庭が作れないのはしょうがない制約条件だと認めつつ、やっぱりなくていいってわけじゃないんだと思うんですよね。本来、園庭はあるべきだっていうことは忘れてはいけませんよね。とても大事な指摘だと思いました。

早期教育をしなくてはと焦っている保護者の中には、親に「もっと高い学歴があれば」というコンプレックス起因と、自分と同じように成功させたいという願望、周りの親が当たり前に習い事に通わせているからそれが自然、とかいろいろあると思うんですよね。

猪熊 自由に遊ばせることが子どもにとっての「学び」であって、子どもにとっては最も大切なことだということを知らずに、子どもは「訓練」しないといけないって思っているのかもしれません。

治部 でも、子どもって言うこと聞かないと思うんですけどね。

猪熊 聞かない、聞かない(笑)。私は子どもに習い事は音楽くらいで、ほとんどさせなかったです。だって嫌だって思ったら子どもは行かないじゃないですか。中学受験も子どもたち全員に一応薦めてみたけれど、3人に断られて、中学受験をしたのは4人のうちの1人だけです。子どもは何でも自分が納得しないと一生懸命やらないですよね。時々、「お母さんが頑張ってつきっきりで指導したので子どもは全員東大に入れました」みたいな方がいるじゃないですか。そういう方をみると、あの子どもたちはどうして納得してるんだろう?って不思議になるんですよ。お母さんの意見と子どもの気持ちは違って当然なのに。

治部 うちも近所で剣道やサッカーの教室があったので、保育園帰りに「やってみたい?」って聞いたら「ぼくは毎日、保育園にいくだけで精一杯だから」って言われて。ああ、おっしゃるとおりですって思いました(笑)。

猪熊 よそのお子様はなんであんなに聞き分けが良くて、親の言いつけに従うんだろうっていうのは20年来の悩みですよ(笑)。まぁ、私自身が全く聞き分けの良くない子だったので仕方ないのかなぁ、とあきらめていますが(笑)。

治部 そうですよね。よくまあ世の中の子どもたちは親の言うことを聞くなあと思います。早期教育も、本人がやりたければいいんでしょうけど、本人が嫌だって言ったら無理強いしないでほしいなと思いますよ。

・後編「保護者は「消費者」ではない。子どものためにも、保育園・幼稚園を一緒に育てていく視点を!/猪熊弘子×治部れんげ」に続く

※ 元お茶の水大学教授で発達心理学者の内田伸子氏らによる研究。

(構成/カネコアキラ)

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