母親による性的虐待・暴力的な機能不全家庭出身のサバイバーが得た3本の杖

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オタクの一大組織に救われて

 家を出ることもできず、内にこもるようになった砂山さんの支えとなったのが、絵を描くこと、そして校内の「一大オタクグループ」だった。

「高校の中に、クラスの垣根を越えて『オタクはすべて仲間に入れる』という一大グループがあったんです。その中にスッと入っていけたというか。マンガや鉄道とかひとつのことにハマっているのは、感受性が強い子が多かった気がします。でもその分、間口は広くて、いろんな文化の人を受け入れてくれる雰囲気がありました。居場所が欲しくて寂しかったから、本当にありがたかった」

 そんな優しい世界の中で、砂山さんは“平成耽美主義”とも呼ばれる独特の画風で知られる絵師、山本タカトのエロティックかつ怪奇なイラストレーションに「かっこいい」と憧れ、自らも絵を描くように。女性への欲望も、その作品の中に吐き出していった。その後レズ風俗についても調べたりしてみたが、性病の防ぎ方がわからず不安になり、アクションを起こさないまま今に至っているのだという。

 家族への殺意も、カウンセリングにかかることで解消しつつあった。

「はじめは大学にカウンセリングルームがあったので、思い切って入ってみたんです。部屋の中には『友だちが死んだ』とか『男性に襲われた』とか、重い話のポスターなどが貼ってあって、あ、そんな話をしてもいいんだと安心しました」

 社会人になってからは、恋愛がうまくいかなくて自分でカウンセラーを探した。「機能不全家族」「アダルトチルドレン」などで検索して見つかった精神科医。併設されているカウンセリングルームに毎月通い、「自分の行動の方針が間違っていないか」などの確認のために利用しているのだという。料金は1時間で5000円ほどだとか。

「カウンセラーとの対話を通じて、家族への殺意や怒りがうまい感じで出ていきました。家族に対して『死ねばいいのに』とは思うけど、積極的に殺してやるとかはない。仕事にも集中できるし、毎日すごく疲れているのに正座したまま眠れないということもなくなりました。カウンセリングは、ほかの虐待サバイバーさんにもお勧めしたいです。とりあえず行ってみればって」

 こう語りながら、ちょっとくつろいだように微笑む。しかし、母親との和解はまだ難しそうだ。

「実は2年前、母が私のいる前で聞こえよがしに『あの女、ムカつくから殺してやろうかな』と言ってきたので、ついに実家を出ました。今は恋人と同棲しています。カウンセラーいわく、親の行動プロセスに納得がいくと心の回復も早いそうなんですが、私の母の場合は脈絡がなさすぎて、まだまだ難しそうですね」

 同棲相手と結婚を考えているという砂山さんに、「今、安全にセックスができる女性が現れたらどうする?」という、ちょっといじわるな質問をしてみた。

「機会があれば心が揺らぐかもしれませんが……遊びの性交渉ができないタイプなので、一度そうなったらその女性と共に生きる道を考えてしまうと思います。今の彼の実家もそれなりに問題がありそうなんですが、厄介ごとを抱えた2人だからこそ、バランスよくやっていけるのかなと思います。結局相性は悪くなかったのかなと」

 最後はのろけを聞かされてしまった感もあるが、とにかく砂山さんは、自分で選んだ人と新しい家族を築こうとしている。

 先日、筆者が電話をした際、砂山さんは晩ご飯の支度をしていた。受話器の向こうから、食材をビニール袋から取り出す音や、勢いよく吐き出される蛇口の水の音が聞こえてきた。

「今日は簡単に豚しゃぶですよー。あとはカツオのたたきがあればいいかなって。まだ引っ越したばかりで家具も足りなくて落ち着かないんですけどね」

 と、鈴が転がるような声で笑った。

 わからないものに翻弄されることは、とても不安だ。砂山さんの場合、たとえ両親が亡くなろうともそうした感情を持ち続けるのかもしれない。

 しかし、手に届く場所に頑丈な杖があれば、くじけてもまた立ち上がることはできる。1本目の杖は、彼女の「回復したい」という意志。2本目の杖にはカウンセラーがなってくれた。そこに今、将来を誓った恋人という3本目の杖が加わることで、砂山さんの歩みはより力強いものになっていくのだろう。そうであってほしいと思う。

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