原因不明の体調不良に襲われた50代女性を支えた夫の「僕の一番はなにがあっても君」という姿勢

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向き合います。更年期世代の生と性

向き合います。更年期世代の生と性

 長引く風邪、半年以上続く下痢、白内障、口が開かなくなる、めまい。突如襲った様々な症状に不眠も重なり「自分の体が壊れていく」と恐怖を感じた美奈代さん(52)。内科では原因がわからず、大腸検査をしても異常はなかったが、体調は改善しない。さらに突然めまいに襲われ耳鼻科に行くものの、原因はよくわからなかった。

 ある朝のこと。回転性のめまいが何度もおき、ベッドから起きられなくなってしまった美奈代さんは救急外来へ。CTを撮ったあと、医師からめまい専門の病院に行くことをすすめられる。

▼前編はこちら

めまい外来で<良性発作性頭位めまい症>の診断を受けて

――めまい専門の病院に通院することを決められたとのことですが、めまいが酷いと通院も大変でしたでしょうね。

「電車に乗るのが怖かったです。電車が入ってくると、ふわっと巻き込まれるような感覚になるんです。階段を降りるときもめまいが酷くなります。ちょうど息子が大学4年生で就職も決まっていて時間があったので、通院に付き添ってくれました。夫も会社を休んだり、半休をとってよく付き添ってくれました」

――ご家族は美奈代さんの病状を心配されていたんですね。めまい外来に通われて症状は安定しましたか?

「はい。めまいをなおす施術というものがあるんです。簡単に言うと、耳石を正常な場所に戻す施術です」

――そこでは良性発作性頭位めまい症、という病名がついた。

「そうです。『眠れないと人間は耳石がはがれやすくなり、それでめまいが起きる』と、先生からうかがいました。今思い返すと、この頃が一番辛い時期だったように思います。なんとか不眠を解消しようと、寝具を変えてみたり。体を動かしたほうがいいかと思い、ふらふらしながらも朝晩のウォーキングをしてみたり。病院で教わっためまいを改善するための体操も行っていました。頭痛もひどく、物忘れがおきるようにもなりました」

――睡眠導入剤を服用したりは?

「今年の2月から飲むように。でも飲むと頭がカーっと熱くなり、よけいに眠れなくなるんです。急に汗をかいて、食欲も落ちていきました。そこで初めて『あれ? これってホットフラッシュ?』と」

――それまでに、この不調は更年期のせいかもしれない、と考えたことはなかった?

「今年の2月にホットフラッシュのような症状がでるまでは、体の不調と更年期はまったく結びつかなかったです」

更年期特集のテレビ番組に、自分とよく似た症状の人が

――ホットフラッシュを実感したことで、ほかの症状も更年期かもしれないと。

「ちょうど同じ頃に朝の情報番組で更年期の特集をしていたんです。それを見ていた娘が『お母さんの症状にそっくりだよ!』と。画面に<女性の健康とメノポーズ協会>の電話番号が出ていて、メモしてくれたんです」

――NHKの『あさイチ』ですね。あの番組の性ホルモン特集は毎回大きな反応があるようです。

「すぐに電話をして、協会の方にこれまでの症状を説明しました。そして、近くの更年期専門のクリニックを紹介してもらったんです」

――それで今年の2月からHRT(ホルモン補充療法)をスタートさせた、というわけですね。ホルモンを補充することで、不調は軽減しましたか?

「ピタっとなくなりはしませんでしたが、だんだんとよくなっていきました。閉経していますが、HRTを行うことで生理のような出血が毎月起こりますので……。出血が起きる度にめまいや口の渇きなどがよくなってきたと感じられました」

※HRT(ホルモン補充療法):更年期世代になり減少したエストロゲンを、飲み薬やパッチやジェルなどの薬を用いて補う治療であり、治療によって40代半ばのエストロゲン量になるように設定される。なお、HRTを始めるためには医師による診断と処方が必要である 。

――不眠はどうですか?

「不眠だけはまだ……。いまも時々、1時間半程度しか眠れない日があります。最初に測ったFSHの値が118と高くって。先生は『この数値が低くなれば眠れるようになるから、そこを目指して治療を頑張ろう』とおっしゃってくださってます。いまも睡眠薬を飲んでいますが、減薬を始めています」

※血液検査でエストロゲンの減少(50pg/ml未満)があり、かつ、FSH(卵胞刺激ホルモン)が30 mIU/mL以上になると一般的に更年期と診断される。

――先ほど、物忘れがあったとおっしゃっていましたよね。更年期の症状で物忘れを訴えられる方はたしかに多いようです。

「寝てないからなのか、更年期だからなのか。どちらが原因なのかはいまもよくわからないのですが。物忘れと集中力の低下がありました」

――たとえばどんな症状が気になりましたか。

「本屋さんに行くのが大好きで、読書は欠かしていませんでした。でも不調が出はじめてから、細かい字が読めなくなり本から遠ざかるように。あとは、料理ができなくなりました」

――料理を作るのが面倒になった、という感じですか?

「面倒だという気持ちではないんです。たとえば……切った野菜などを包丁にさっと乗せて、お鍋に入れる。以前はなにも考えずにできた動作ですが、それができない。お鍋から、お皿や小鉢に料理をよそうというのもダメ。大きいほうから、小さいものに移すのが難しいんです。どこに落とせばいいか、落としどころがわからない。夫が『頑張って作ってくれるだけで嬉しいよ。仕事から帰って僕が全部お皿に盛りつけるようにするから、そのままにしておいて』と言ってくれたので、甘えました」

――それまで何の苦も無くやっていたことが、突然できなくなるのは不安ですよね。

「家の片づけも趣味だと言えるほど好きだったんですけど、できなくなりました。できなくなるというより、途中で自分がなにをしていたのか忘れてしまうんです。家の中のいろんなものが出しっぱなしになったり、洗濯ものも干さずに置きっぱなしにしたり。散らかった家を見て夫が『泥棒に入られたかと思った』と驚いたこともありました」

――部屋が散らかっても、料理ができなくても、ご主人は一切美奈代さんを責めることはなかったんですね。

「何か変だなと思いはしても『ちゃんとしろ』『しっかりしろ』など、そういうことは一切言わない人です。少し歳が離れているからでしょうか、私が物忘れや集中力がなくなったときも『年取ったらみんなそうなっちゃうんだよ、僕も最近物忘れするんだから、いいよいいよ』と言って、いつも見守ってくれています」

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