データでも明らか
今年4月に公表された介護系労働組合「日本介護クラフトユニオン」による調査報告によれば、介護現場で働く者のうち約3割が高齢者やその家族にセクハラを受けた経験があるこというデータが公表された。しかし、「セクハラ」問題は、10年以上も前から顕在化しており、2007年先の厚労省所管の外郭団体が公表した調査結果でも、1割以上の介護職員がセクハラ被害に遭っていた。
このまま問題を放置していけば、介護人材を充分に供給できず、社会は安定した介護サービスを提供できなくなるだろう。要介護者側の「支えられて当然」といった感覚を変えるような「モラル」「社会常識」などを啓発していかないと、介護人材不足は深刻化するばかりだ。介護は「支え手」と「支えられる側」の信頼関係で成り立っていることを忘れてはならない。
中間管理職らの危機意識の欠如
問題が深刻なのは、既述の卒業生の事例からもわかるように、利用者による「セクハラ」「パワハラ」問題を軽視している介護事業所の中間管理職がいるということだ。しかも、このような管理職の行為は、若い介護士にとっては間接的な「セクハラ」「パワハラ」と受け止められなくもない。
そもそも、介護事業所で働く中間管理職は、現在の介護人材不足について見識がないばかりか、「新人」の指導・養成力が欠如している人も多い。
実際、優れた中間管理職のいる指導・養成内容は、新人職員を「過保護」すぎるぐらい「丁寧」に対応している。確かに、多くの中間管理職が介護業界に入社した20年前は、福祉系職種有効求人倍率0.3~0.5倍、介護事業所によっては採用試験もあり2~3倍は珍しくなかった。その意味では、現在の中間管理職である30代後半から50代前半の中間管理職は、若い時代に「厳しく鍛えられ」養成・指導された世代のためか、その感覚で、今の「新人」指導にあたる場合が多い。たかが利用者の「セクハラ」「パワハラ」と軽視している者も少なくないのだ。
しかし、中間管理職らが「意識」しなくとも、その指導方針は、「いじめ」「パワハラ」となる可能性は否めない。今後、「介護業界に来てくれてありがとう!」「何でも相談にのる」「やさしく、丁寧な指導」といった姿勢で指導・養成にあたらないと、次々に問題に直面していく若い介護士らは辞めてしまうであろう。
組織的な対応が急務
もっとも、「セクハラ」「パワハラ」問題は、介護事業者の組織的な対応も重要であろう。実際、財務省官僚による「セクハラ」案件でも、被害にあった某テレビ局側の責任を問う議論は少なかったように見受けられる。
加害者への対応策は必要不可欠である。しかし、被害に遭う介護士を雇用している事業者にも組織的な対応が必要である。いわば深刻化する介護人材不足と「セクハラ」「パワハラ」問題は、密接につながっていることを社会は認識していくべきである。
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