中堅アイドルグループの解散が相次いでいる2018年。女性アイドルシーンにとって、平成最後の夏は重要なターニングポイントとなっている。
2010年代前半に幕を開けたアイドル戦国時代以降、ライブハウスを中心に活動する地下アイドルシーンが拡大。そこでは、あまたのアイドルグループが生まれては消えてを繰り返しており、グループの解散そのものは日常茶飯事だ。しかし今年は、大手芸能プロダクションに所属する中堅どころのアイドルグループが次々と解散しているのだ。
今年に入って解散した、もしくは解散を発表した主な中堅アイドルグループは以下の通り。
・アイドルネッサンス(ソニー・ミュージックアーティスツ) 2月24日解散
・La PomPon(ビーイング) 3月24日解散
・GEM(エイベックス・マネジメント) 3月31日解散
・Cheeky Parade(エイベックス・マネジメント) 7月31日解散
・チャオ ベッラ チンクエッティ(アップフロントクリエイト) 8月2日解散
・PASSPO☆(プラチナム・パスポート) 9月22日解散予定
・ベボガ!(ディアステージ) 9月23日解散予定
・ベイビーレイズJAPAN(レプロエンタテインメント) 9月24日解散予定
・バニラビーンズ(フラワーレーベル) 10月解散予定
メジャーで活動する中堅アイドルの難しさは、地下アイドルに比べて活動費がかかってしまう点にある。地下アイドルであれば、運営スタッフは少人数であり、あるいはメンバーが運営も兼ねているということも珍しくないが、メジャーアイドルとなると所属事務所だけでなく、レコード会社も含めて、かかわってくる人間の数が格段に増えてしまう。スタッフたちの人件費を考えると、それなりに売れないとあっという間に赤字状態に陥ってしまうのだ。
そして、ビッグビジネスにするためには宣伝費も必要となるわけだが、当然ながらそれを回収できる保証などなく、多くのグループは大勝負に出ることもできずに、じっくり時間をかけて地道に知名度を上げていくしかない。今年解散する中堅アイドルグループの多くは、それなりの活動期間があり、一定のファンを獲得していたものの、世間一般にまでその名が知れ渡るほどにはブレイクできなかったグループばかり。大手事務所に所属している以上、メンバーたちも自由にアルバイトができるわけでもなく、生活も厳しくなってくるだろう。アイドルとしての将来に不安を覚えたメンバーが離脱するといったことも多く、結果的にグループは解散に向かってしまいがちなのだ。残念ながらかように、大手芸能プロに所属する中堅アイドルグループは、どうしてもビジネスになりにくいいう現実があるのだ。
欅坂46とBiSHによって、アイドルにおける“かわいらしさ”は前時代化した
その一方で、昨年から今年にかけ大きく飛躍したアイドルグループもいる。まずは欅坂46(Seed & Flower所属)。内向的でダークな方向性を打ち出し、これまでの秋元康プロデュースアイドルとはまた違ったスタイルでシーンのトップに躍り出た。時にその“芸術的”なパフォーマンスは“アイドルの枠を超えた”などと称されること多い。
そして、もうひとつ大きな躍進を果たしたのが、「楽器を持たないパンクバンド」BiSH(WACK所属)である。パンク色の強い楽曲、メインボーカルであるアイナ・ジ・エンドの引き込まれるようなハスキーボイス、激しいライブパフォーマンス……などといった要素を武器に、アイドルファンだけでなく、邦楽ロックファンからも高い支持を得るようになり、今年5月には横浜アリーナでの単独公演も成功させた。
所属レーベルは欅坂46がソニー・ミュージックエンタテインメント、BiSHがavex traxと共にメジャー中のメジャーながら、両者に共通しているのは、オーソドックスなアイドル像として一般に想起されるような“かわいらしさ”にあまり重きを置いていない点だ。カラフルな衣装を着ることはなく、ステージ上では一心不乱に歌い踊る。「明るい楽曲で元気を与える」ということではなく、心の奥底にあるドロッとした感情を痛々しいまでに楽曲にぶつけていくというスタイル。それはたとえば“萌え”であったり、“疑似恋愛”であったりといったものではなく、むしろ“エモさ”としてリスナーに伝わっていくものだ。
“アイドルらしさ”や“アイドルの枠”なるものの定義についての議論は、ひとまず置いておくとして、女の子のかわいらしさという要素をステージ上で強く表現しない欅坂46とBiSHの飛躍は、裏を返せば“女の子のかわいらしさ”に依存するアイドル像が受けなくなっていることを証明しているのではないだろうか。あるいは“かわいらしさ”よりも“エモさ”こそが求められているとも表現できる。
大規模な握手会を開催し、CDセールスを伸ばしているという側面がある欅坂46はまた別だが、BiSHがアイドルファン以外の音楽ファンを巻き込んでブレイクした姿は、かなり象徴的だ。AKB48がブレイクした直後であれば、“女の子のかわいらしさ”がトレンドとして求められていたが、いつしか時代は移り変わり、アイドルファン以外のリスナーは“アイドルらしくないアイドル”を求めるようになったのだ。BiSHはそんなリスナーの受け皿として、あまりにも適切な存在だったのだ。
その意味では、ロックの要素をふんだんに取り入れ、ライブでも十分に“エモさ”が表現できていたPASSPO☆やベイビーレイズJAPANは、むしろ早すぎたのかもしれない。PASSPO☆やベビレはもちろんかわいらしさも表現するグループだが、それがもしも完全に“エモさ”に振り切ったグループであったのならば、おそらく違う結果になっていたことだろう。
また、欅坂46のような、秋元康がプロデュースすることで“あらかじめ売れることが約束されたグループ”が、“エモさ”や“前衛性”をメジャーシーンに引き上げたことで、中堅グループや地下アイドルたちが担うはずだったそれらに対する需要が満たされてしまったという側面もあるのではないだろうか。コアなアイドルファンであれば、PASSPO☆もベビレも欅坂もBiSHも全部聞きたいと思うかもしれないが、ライトな音楽ファンであれば「エモいアイドルは欅坂や46とBiSHで満足」と考えるかもしれない。手に取りやすい場所にエモいメジャーなアイドルがいる以上、中堅グループが苦戦を強いられてしまうのも仕方ないのだ。
大前提として、別に芸術的なパフォーマンスやロックの要素を打ち出すことなく、“女の子のかわいらしさ”に重きを置くグループの中にも、十分に“エモさ”を見出すことはできる。もちろん、そういうグループだって数多く存在している。しかし、その事実を知っているのはアイドルシーンに対してある程度の理解があるリスナーだけであり、世間一般では“かわいらしさ”と“エモさ”が相反するものだととらえられているのだ。そんななかで、メジャーアイドルがわかりやすい形で“エモさ”に振り切った姿を見せたのであれば、そうではないグループたちがただ単に“かわいらしいだけの女の子のグループ”と誤解されてしまうのである。
欅坂46が“アイドルの枠を超えた”などとメディアにもてはやされている事実は、まさにそんな状況を象徴するものだ。欅坂46は、アイドルであるという立場を利用し、世間一般が抱く“アイドル”とは異なった姿を相対的に示すことで、その魅力をよりわかりやすく伝えることに成功した。BiSHが「楽器を持たないパンクバンド」と自称することもまたしかり。“アイドルだけどアイドルではない”ということをシンプルにアピールするアイドルが浮上したことで、結果的にそういったことをアピールしてこなかったアイドルたちの魅力にスポットが当たる機会が減ってしまったのだろう。
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