「子どもは空の上で親を選んで生まれてくる」「精子、卵子、胎児の頃から記憶がある」。そう主張する〈胎内記憶〉は、産婦人科医・池川明氏によって布教されているトンデモです。
さまざまなメディアで発信される胎内記憶解説には、<虐待する親や障がいも子どもが自ら選んでいる>という暴力レベルの呆れたお説も……(過去記事ご参照:ファンタジックな世界観で謳う「親子の絆」が暴力になるとき。胎内記憶の罪を医師が解き明かす) 。それにも関わらず、地味に広がり続けている気味の悪い物件です。
そんな広がりの中、また新たにズバ抜けて酷いものが登場していました。自称<かみさま>という小学生すみれちゃんの語りで構成された、『かみさまは小学5年生』(サンマーク出版)です。出版元の編集者岸田健児氏のFacebookには、8月の時点で20万部突破との報告がアップされています。
すみれちゃんとは、胎内記憶映画『かみさまとのやくそく』(過去記事ご参照:「胎内記憶はありまぁす!」派に感じる違和感…。全力でツッコみます。)に出演し、その世界で一挙有名になったという小学生です。同書で紹介されるプロフィールは、将来の夢「歌う助産師」(助産師の存在知っている小学生、すげー)、好きな授業は「道徳」。空の上では「2番目の神様」をやっていた。お話できる相手は人間、かみさま、妖精、宇宙人、薄い人(幽霊)、おなかの中のあかちゃん、石や物。オーラや前世も見られる。
神様と話し、オーラを見る子ども
小学5年生というと、だいたい10歳でしょうか。同年代で気の合うお友だちがいるのか、おばちゃんちょっと心配だわ~。すみれちゃんはスピリチュアル好きな母親と講演活動も行っているそうで、客は毎回「言葉の全てが深すぎる」と号泣させられるんだとか。先述の編集者・岸田氏も、すみれちゃんを知り「かみさまと出会ってしまった!」と感動。そうやってこの本ができあがったという設定です。
同書発売時にはスピ人脈からの援護射撃もぬかりなく、スピリチュアルタレントのCHIE氏はブログでこう紹介しています。
「ちいさな身体から発せられる言葉は大人でもなかなか気づけないような深い真理があって、すみれちゃんと会話しているとまるで別次元からやってきた神様とお喋りしてるような感覚になります
すみれちゃんが話している姿は、私も映画『かみさまとのやくそく』にて拝見済みですが、「大人の関心を買うことに必死な子どもの姿、つれえ~」のひとことでした。そこから数年後のすみれちゃんが何を語っているのか、同書を見ていきましょう。
「生まれたときからかみさまや天使さんたちとずっとお話している。ママはもともと生まれた時からかみさまや天使さんたちと話していたけれど、パパや友だちはかみさまや天使さんたちとお話していなかった。それを知ったのがしょうがく2年生くらい」
母親がよろこぶストーリー
まず冒頭で、特殊能力宣言。そしてひらがなを多用したポエム調のすみれちゃん説法が展開されます。
「かんぺきは自分をせめるだけ!」
「人間はホームランを打とうとすると失敗する。だから、ヒットでいい」
「心の本音にはなるべくしたがったほうがいい」
「もうこれからは、自分の好きなとおりに生きなよ」
「かがやきなさい。キレイに生きなさい。先生を信じなさい」
「いい人生だった!って自信をもって言える人間になれ!」
「生と死は人生のテスト!」
「ごはんよりもママの笑顔がほしいっていうあかちゃんが多い」
「だって、えがおは、ごはんよりもあかちゃんの体を元気にできる一番のお薬だもん」
ちなみにお母さんが、「すみれに特別な力があること」に気づいたのは7歳のとき。すみれちゃんを連れてとあるトークショーへ参加したところ、「オーラが見えるのってふつうのことじゃないんだね」と言いだしたそう。そ、それはもしや<オーラが見えると言えば注目される>ことを、そのトークショーで学んだんじゃないかしらぁ。その後「かみさまの言葉を伝えたい!」と訴えるすみれちゃんの激しい欲求によりブログ開設→現在に至るのだとか。
子ども時代、どんなコミュニティにも少し変わった子はいたし、小学校高学年ともなれば早めに<中二病>を発症するケースもありますから、不思議ちゃんトークを繰り出す子どもは珍しくありません。しかし、コレを大人たちがよってたかって「かみさまや~!」と祀りあげる光景が怖すぎるだろ。
スピかぶれなお母さんが作りだした環境で、<子どもがいいことを言うと、スピッた大人たち大喜び>という法則を知り、そこへどっぷりつかったすみれちゃん(あくまで想像ですけど)。同年代とのコミュニティに居場所がなかったのかなと想像してしまい、辛い気持ちがどんどんふくらんでいきます。そして読み進めるにつれ、その気持ちが頂点に達するのは、冒頭でご紹介した<胎内記憶>が登場するところ。