ロベルトを銃で殴りつけ、その場で脱いだ下着を口に突っ込み容赦なく痛めつけ拘束するポリーナは正気なのか、拷問したのは自分ではないと主張するも、強要された自白が真に迫りすぎているロベルトの罪は本当なのか、ポリーナの思い込みだと制止しようとするも、自白を誘導するかのようなジェラルドの本心は何なのか――。
ポリーナを演じる朴璐美は声優としての活躍がよく知られていますが、昨年まで演劇集団円に所属し、シェイクスピア劇でヒロインも演じている、演技派の舞台俳優です(ちなみに本公演は、朴璐美が円から独立し個人事務所で舞台をプロデュースするLAL STORYの旗揚げ公演でもあります)。石橋は文学座、山路は青年座と、いずれも所属俳優の演技力に定評のある老舗の劇団に属する実力派たちのガチンコ勝負。それだけに、何が本当に起きたことなのかが、まるで霧の中にいるように曖昧です。
すれ違っているように見えても強く愛しあっているジェラルドの前では可憐さが印象的だったポリーナが、ロベルトからかつて受けた罵倒を彼の前で繰り返す声音の、どすのきいた多彩な怖さは、声での表現を得意とする朴璐美の面目躍如。
苦いラストシーンの受け取り方
露悪的で残酷なセリフからは狂気を感じるのに、ロベルトを殺すのかとジェラルドに問われ、「奴は私を殺してないわ、だから殺さない」しかし、夫に「あいつをレイプして」と告げる表情の暗さは、いっそ理知的にすらみえるほどのすごみでした。
治安警察から釈放された15年前の夜、加害者たちを裁判にかけるとポリーナに誓い彼女の心にずっと寄り添おうとしてきたジェラルドは、彼女の復讐を目の当たりにして「15年も前の話だ」と言い放ちます。そして嘘の過去の罪を話していたはずのロベルトは、供述のなかの自分のおぞましい姿に同化していきます。
人間は、おかれた状況によって変わり、その正義も変化していく――。それは、チリ革命に身を投じた作者が実際に目の当たりにした悲劇ですが、政変の中ではない平和な現代日本でも、起こりうる普遍的なことです。
ポランスキーの映画版では「犯人」が誰かが明示されますが、舞台版では真実が明らかにされません。苦いラストシーンは、許しなのか、諦念なのか。観客によって受け取り方は千差万別でしょうが、ポリーナが見つめた「真実」から、苦しみから解放まではされなくても、少しだけ飲み込むことができたと願いたい。そして、情報過多な社会のなかで、真実を見る目を養いたいと感じます。
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