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「コドモノミクス」で第3子以降に1000万円給付という案がいかに的外れか

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Thinkstock/Photo by high-number

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8月23日に放送されたニコニコ生放送「【国民民主党代表選2018】候補者ネット討論会」に、国民民主党の玉木雄一郎共同代表が出演。3人目以降を出産した家庭に1000万円を給付する「コドモノミクス」という少子化対策を主張。玉木共同代表は26日に自身のブログを更新し、「コドモノミクス」の詳細を説明した。

<今、一年に生まれる子どもは 約100万人で、そのうち、第3子、第4子以上はわずか16万人~17万人。そして、第3子​​​​​​以降の出産を見合わせた夫婦の7割が「お金がかかりすぎる」と回答しています>
<結婚したくてもできない人への支援や、不妊治療の保険適用といった第1子対策にまず力を入れることを大前提に>
<特に、第3子以降の子どもに、1人あたり1000万円の大胆な経済支援を提案します。この政策は、子どもへの投資で経済を元気にする「コドモノミクス」です>

 つまり、玉木氏の考えでは、第3子以降の出産を促すことが少子化対策として有効だということだ。

 ただ、少子化対策という観点だけで見たときに、第3子以降の出産に1000万円を給付する「コドモノミクス」案が適切な措置とは言い切れない。

経済的不安の解消が先決

 日本が危機的な少子高齢化社会に突入していることは紛れもない事実。その理由は一様ではなく複合的ながら、「結婚して子どもを産み育てる男女」の減少がひとつの原因として考えられている。たとえば、東京大学大学院の赤川学准教授は著作『少子化問題の社会学』(弘文堂)の中で、日本の少子化の原因を次のように分析している。

<夫婦の理想子ども数や予定子ども数はここ30年以降大きく変化していないし、実際に生む子ども数の平均もさほど下がっていない>
<つまり、日本の少子化要因の約9割は、結婚した夫婦が子どもを産まなくなっているのではなく、なかなか結婚しない(できない?)人の割合が増加したことにあるのである>

 その説に従うならば、すでに結婚し子どもが2人以上いる家庭への現金給付が、少子化“解消”の鍵になるとは到底思えない。

 現在、結婚率は減少傾向だが、「パラサイト・シングル」や「婚活」といったコピーを生み出した社会学者で中央大学の山田昌弘教授は、2016年に開催された「内閣府結婚応援フォーラム」にて、「経済的な不安」「出会いの減少」「恋愛へのあこがれ消失」がその原因だと紹介していた。

 少子化を食い止めたいのであれば、この3つの問題を解決することだろう。特に「経済的な不安」は顕著であり、行政によるお見合いイベントなどを開催するよりまず、経済的支援が先決ではないだろうか。

保育現場への課題も山積

 また、さんざん言われていることだが、夫婦共働き社会が実現した現代において、仕事と育児の“どちらか選べ”と迫られることも、出産をためらう要因のひとつだろう。特に都市部では保育施設が不足しており、子どもを産み育てたくとも仕事を辞めるわけにはいかないという苦悩を抱える人は少なくない。

 京都府が2015年に発表した「京都府少子化要因実態調査報告書」によれば、有配偶出生率が高い都道府県は、「5歳以下の子どものいる夫婦の共働き率が高い」「0~2歳時の保育所利用者率が高い」と分析している。つまり、0歳からでも保施設園に子どもを預けることができ、夫婦で共働きを継続できる環境が整っていれば、出生率は高くなるかもしれない。

 しかし現在、保育現場は深刻な人手不足で、子どもを受け入れたくても受け入れられない状況だ。保育士不足を解消するためには、全国に76万人もいると言われている“潜在保育士”(保育士の資格を持っているのに保育園で働いていない保育士)の現場復帰を促すことがポイントになってくる。厚生労働省が発表した「平成25年度の保育士の新規求人倍率」によれば、保育士として働くことを望まない理由で最も多かったのが「賃金が希望と合わない」(47.5%)という回答だった。

 楽天リサーチが全国の現役保育士を対象に実施したアンケート結果によると、私立保育園で働く保育士の平均年収は296万円。国税庁の「平成28年分民間給与実態統計調査結果」によれば、2015年の民間企業の会社員(パート含む)の平均年収は約420万円で、保育士とは100万円以上の開きがあった。保育士は子どもの命を預かる非常に責任の重い仕事だ。にもかかわらず、民間企業の給与額とこれだけの格差があると、どれだけやりがいのある仕事であってもモチベーションは上がらず、それどころか生計が成り立たずに転職せざるを得なくなるだろう。少子化対策を掲げるなら、子どもを安心して預けられる環境整備に目を向けるべきだ。

多く子どもを産む夫婦は素晴らしい?

 一方で、「産めよ増やせよ」と煽る状況への危惧も広がっている。自民党の山東昭子元参議院副議長が昨年、党の役員連絡会で「子どもを4人以上産んだ女性を厚生労働省で表彰することを検討してはどうか」と発言。自民党の二階俊博幹事長は今年6月、東京内で行われた講演で「この頃、子どもを産まない方が幸せじゃないかと勝手なことを考える人がいる」「子どもをたくさん産み、国が栄え、発展していく方向にしよう」と呼びかけた。当然、これらの発言には大きなバッシングが寄せられた。

 玉木共同代表はブログ内で<子どもを持たない生き方を否定するものでもありません>と記しているが、多く産んだ家庭に支援金を出すということは、山東元参議院副議長や二階幹事長の発言とあまり差がないように思える。

 2040年問題が待ち受けているため、少子化にストップをかけることはこの国の大きな課題だ。しかし、だからといって「多く産むことが正義」が下地にある政策には違和感を覚える。個人が希望する数の子どもを安心して持てる社会を作る政策が必要だ。

宮西瀬名

フリーライターです。ジェンダーや働き方、育児などの記事を主に執筆しています。
“共感”ではなく“納得”につながるような記事の執筆を目指し、精進の毎日です…。

twitter:@miyanishi_sena

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