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映画『クレイジー・リッチ!』は「アジア人」の映画であって、婚活映画ではない!

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左:米国版ポスター((c)2018 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved)右:日本版ポスター((C)2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND SK GLOBAL ENTERTAINMENT)

 日本では9月28日から公開となる話題のハリウッド映画『Crazy Rich Asians(原題)』を観た。“話題の” は単なるマクラ言葉ではなく、アメリカでは実際に大きな注目を集めている。カンフーや歴史物ではなく、現代社会を舞台としたオール・アジア系キャストによるハリウッド作品は1993年の『ジョイ・ラック・クラブ』以来、実に25年ぶり。しかも公開から2週連続で興行成績全米1位の快挙を成し遂げた。

 オール・アジア系キャストであることに加え、原作者(ケヴィン・クワン)も監督(ジョン・チュー)もアジア系で、舞台はシンガポール。この作品がアジア系の人口比がわずか5%のアメリカで作られ、アジア系以外の観客をも劇場に呼び寄せてしまったのだ。

 どのメディアもこの快挙を伝えた。ニュース専門ケーブル局MSNBCでは、アジア系キャスターが3人のアジア系コメンテイターを迎えてこの作品を語り合った。画面に4人のアジア系の顔が並んだ。前代未聞の出来事だった。

 ハリウッドに遅過ぎたアジアの旋風を巻き起こしたこの作品は、原作の小説と同じく『クレイジー・リッチ・エイジアンズ』(直訳:頭がおかしくなるほどリッチなアジア人たち)と題されている。しかし、日本での公開にあたって邦題は『クレイジー・リッチ!』とされてしまった。アメリカとハリウッドにおけるアジア系の過去・現在・未来を蔑ろにする、許しがたい改変だ。

あらすじ(ネタバレにならない程度に)

 主人公のレイチェル・チュウは、中国からの移民である母親からニューヨークで生まれた中国系アメリカ人。父親は早くに亡くなったシングル・マザー家庭。懸命に働き続けた母親は、ニューヨーク大学の経済学教授となった娘のレイチェルが愛おしくも誇らしい。

 レイチェルにはニック・ヤンという名の恋人がいる。ニックは故郷シンガポールでのイトコの結婚式にレイチェルを招待し、家族に紹介したいと言う。生まれて初めてのアジア旅行に胸踊るレイチェル。だが、ニックには秘密があった。ニックは “クレイジー・リッチ”(大富豪)な一族の跡取り息子だったのだ。

 ニックの一族は全員が高等教育を受け、英語を話し、アジア全域に散らばってビジネスを展開している。ニックの母親、エレノアはシンガポールに留まり、本家を仕切っている。エレノアは一族の繁栄のためにも跡取り息子の妻を厳選しなければならなず、レイチェルは2つの点で不合格だ。まず、大学教授とはいっても移民の子であり、庶民。つまり「家柄が違う」のだ。そして、アメリカ生まれのレイチェルは「中国系アメリカ人」=「アメリカ人」であり、「中国人」である自分たちとは違うと言う。

 中国は世界中に華僑および華人(※)を出しており、行き先はアジア諸国、アメリカ、カリブ海諸島、ヨーロッパ諸国など、文字通りに世界中だ。先に書いたようにニックの一族はアジア中に散らばり、リッチゆえに最先端、最高級の欧米グッズに囲まれて暮らしているが、中国人としての文化をキープし、その意識も強い。

(※)華僑と華人:華僑は移住先の国籍を取得していない移民。華人は移住先の国籍を取得した中国系住民。ただし、これは中華人民共和国政府の定義であり、他所では華僑と華人が同一概念として使われることもある。

 アメリカ生まれのレイチェルも母親から中国の文化を受け継いではいるものの、保守的なエレノアには「アメリカ人」と映り、正統な中国文化の伝承者には見えないのだ。

 舞台となるシンガポールも複雑な国だ。東南アジアのマレー半島の突端に位置する小国。人口590万人ほど、面積は北海道の石狩市と同じくらいの722 平方kmだが、近年の経済発展には目をみはるものがある。人種や文化は多様で、中国系(74%)、マレー系(13%)、インド系(9%)という構成になっている。宗教も仏教、キリスト教、イスラム教、ヒンドゥ教などが混在し、言葉は英語、マンダリン(中国語)、そのほかの中国語、マレー語、タミール語など。この環境の中でエレノアは自身も英語を使い、しかし一族の中国性を頑なに守ろうとする。

*データはCIAによる

全世界から集まったアジア系の俳優たち

●コンスタンス・ウー(レイチェル・チュウ)

主役のレイチェル・チュウを演じたコンスタンス・ウーは、台湾系アメリカ人。テレビで、これも21年振りのアジア系シットコムとして記録的な大ヒットとなった『フレッシュ・オフ・ザ・ボート』で人気を博している。『フレッシュ・オフ〜』は台湾からの移民の夫婦とアメリカ生まれの子供たちの日常をコミカルに描いたドラマで、コンスタンスは中国系移民の役を、ステレオタイプを逆手にとった描写で演じて注目を集めた。

アジア系が主役のドラマが大ヒット!〜米国テレビ史の快挙+あれもこれも「アジア系」問題

コンスタンスはハリウッドにおけるアジア系のポジションについて声を上げ続けてきた俳優でもある。『ジェイソン・ボーン』シリーズで知られる白人俳優のマット・デイモンが『グレート・ウォール』(2016)で古代中国の戦士を演じた際にも異議を発している。ただし、デイモンが大物だけに声明を出すには非常な勇気が必要だったとも語っている。

●ヘンリー・ゴールディング(ニック・ヤン)

大富豪の御曹司役をつとめたヘンリー・ゴールディングは、マレーシア人の母親とイギリス白人の父親を持つ。マレーシアで生まれ、8歳でイギリスに渡り、俳優を目指して21歳でマレーシアに戻っている。近年はシンガポールとマレーシアを基盤に活動。

●ミシェル・ヨー(エレノア・スン・ヤン)

ニックの美しくも厳格な母を演じたのは、中国系マレーシア人のミシェル・ヨー。香港映画界で活躍したのちに『007 トゥモロー・ネバー・ダイ』(1997)のボンドガールに抜擢され、以後『グリーン・デスティニー』(2000)、『スタートレック:ディスカバリー』(2017)などに出演し、アジアを代表する大女優に。

●オークワフィナ(ゴー・ペイク・リン)

レイチェルの親友で中国系シンガポール人のゴー・ペイク・リンを演じたオークワフィナは『オーシャンズ8』(2018)にも出演しているラッパー/俳優。母は韓国からの移民、父は中国系アメリカ人のニューヨーク生まれ。中国語を学ぶために北京の大学への留学を体験。

●ケン・チョン(ゴー・ワイ・ムン)

オークワフィナが演じた金髪娘の父親は、韓国系アメリカ人の俳優/コメディアンのケン・チョンが演じている。かつては医師であったがコメディアンに転向し、アメリカのテレビ、映画で活躍中。

●ハリー・シャム・ジュニア(チャーリー・ウー)

ニックのイトコの元フィアンセ役は、『グリー』で知られるハリー・シャム・ジュニア。6歳でアメリカに移住したコスタリカ生まれの中国系。

●ソノヤ・ミズノ(アラミンタ・リー)

ニックの幼馴染のフィアンセ役は、日系イギリス人のソノヤ・ミズノ。東京生まれ、英国育ち。母親はイギリスとアルゼンチンのミックス、父親は日本人。小さな役ながら『ラ・ラ・ランド』(2016)、『美女と野獣』(2016)に出演。

 本作では他にもニックの親戚役、友人役が大量に配され、豪華なパーティ・シーンが繰り広げられるが、そこに登場する俳優たちは「台湾系オーストラリア人」「中国系シンガポール人」「フィリピン系アメリカ人」「中国系イギリス人」など、多彩なバックグラウンドを持つ。

 本題とはやや離れるが、中国は世界中に移民を出し、海外在住の人口も英語話者も多く、大きなネットワークを持つ。彼らは映画界に限らず、各分野においてアジア系進出の鍵となるに違いない人々だ。

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堂本かおる

ニューヨーク在住のフリーランスライター。米国およびNYのブラックカルチャー、マイノリティ文化、移民、教育、犯罪など社会事情専門。

サイト:http://www.nybct.com/

ブログ:ハーレム・ジャーナル

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