映画『クレイジー・リッチ!』は「アジア人」の映画であって、婚活映画ではない!

文=堂本かおる
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アジアを捨てること・誇ること

 同名の原作小説を書いたケヴィン・クワンは映画化にあたって「主人公のレイチェル役を白人に置き換えたい」という提案も受けたが、あまりのバカバカしさに返事すらしなかったと語っている。

 クワン自身が11歳で家族とともにアメリカのニューヨークに移住し、美大に進んで写真家となった中国系シンガポール人だ。クワンは自身の生い立ちを元にレイチェルのキャラクターを思いつき、舞台をニューヨークと、故郷シンガポールの中国系社会とした。つまりレイチェルは中国系アメリカ人でなければならなかったわけだ。

 また、アメリカの映画界やアート界でのアジア系の影の薄さにも満足していなかった。だからこそスーパーリッチな中国系の小説を書き、タイトルを『クレイジー・リッチ・エイジアンズ』とした。アジア系の存在をこの世に問い、知らしめるためのタイトルだ。

 とはいえ、この映画がボックスオフィス1位となったのは単にオール・アジア人ムービーだからではもちろんない。万人が楽しめるシンプルなロマンチック・コメディであり、かつ超ゴージャスなファッション、ジュエリー、豪邸、料理、そしてシンガポール名所のリゾート・カジノ&ホテル、マリーナベイ・サンズやマーライオンなどが次々と登場する。物語のテンポがよく、かつヴィジュアルに見とれているうちに2時間があっという間に過ぎてしまうのだ。

 つまり、ことさら「アジア人」の部分を意識せずとも120%楽しめる作りとなっている。だが、アジア系アメリカ人はこの映画の「アジア人」を観て泣いてしまう。ハフィントンポストのアジア欄担当ライターのキンバリー・ヤムが試写会後に連投したツイートは多くの共感の涙を誘った。

Kimberly Yam @kimmythepooh

「8歳。3年生のクラスで中華料理を注文したら、お父さんが配達に来た。お父さんが学校に来て私は大興奮。彼はヒーローだから。でも他の子たちはお父さんをクールとは思わなかった。彼を見て笑い、中国語訛りの英語をマネした。もう中国人ではいたくなくなった」

 以後、ツリ目をからかわれたり、ハロウィンに友人がアジア人観光客の仮装をしたことがショックでアジア文化から遠ざかったエピソード、大学に進んでアジア系のプライドを持つ友人と出会い、自分が文化を失っていることに気付いたショック、そこからアジア文化を取り戻そうと努力したエピソードを綴っていく。そして……

「25歳。試写会でオール・アジア人の映画を観て、なぜだか泣き出し、止まらなくなった。こんなハリウッド映画、観たことなかった。みんなビューティフル。中国人でとっても幸せ。#クレイジーリッチエイジアンズ #自分を表してくれるものは大切」

婚活ムービーでは、断じてない!

 日本は同国人率が圧倒的に高い国だ。この国で日本人として生まれ育つと、自分がアジア人であることを意識する必要はなく、人種的マイノリティの立場に置かれることもない。また、かつては日本の経済発展振りから欧米で「名誉白人」扱いを受けることもあった。

 ゆえにタイトルの『クレイジー・リッチ・エイジアンズ』は「アジア人」の部分が不要と判断され、『クレイジー・リッチ!』と改変された。日本版のポスターに書かれているキャッチコピーは「全世界の女性が共感!”本当の幸せ”を見つけるためのゴールイン・ムービー!」と、目も当てられない “婚活” モノになっている。

 今後、日本人も世界各地に出なければならない時代になるだろう。すると、私たちもそれぞれの地でアジア人というマイノリティになる。その時に突如として矜持を失わないためにも、自らのアジア性を考えるべき時が来ているのだ。
(堂本かおる)

クレイジー・リッチ! 公式サイト

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