保護者は「消費者」ではない。子どものためにも、保育園・幼稚園を一緒に育てていく視点を!/猪熊弘子×治部れんげ

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無償化だけでは解決しない

猪熊 先ほど治部さんがお話になりましたが、保育は今では「乳幼児教育」と呼ばれることも増えて来て、OECDの先進国のほとんどで、すでに無償化されています。日本も当然、無償化はやらなければいけないミッションなんですね。ただ、日本にはまだまだそれ以前の課題が多すぎる。保育者の待遇はもちろんですが、特にOECD諸国の中でも最低基準の、3歳から5歳の配置基準を放置したままでは、保育の質が上がるわけもありません。世界的には8~13人の子どもを1人の保育者がみるのが一般的なのに、日本は保育園では最大30人を1人、幼稚園では最大35人を1人でみなくちゃいけないという低い基準なんです。OECDの報告書にも最下位であることがバッチリ書いてあります。

治部 ありえないです。絶対に事故が起きてしまいます。ひとりでも泣きだしちゃったら、他の子を見る余裕なんてないですよ。昔に比べて子どもは少なくなっていますが、小学校でも子どもたちを見切れていないのが現状です。たぶん3歳から5歳の配置基準をまともにしたら、小学校も教員の数を増やしたほうがいいんじゃないかって話に広がっていくと思うんですよね。そういう意味でも配置基準を是正するのは大切ですよね。

猪熊 そう思います。

治部 無償化って結局、選挙対策じゃないですか。選挙に勝って消費税を上げるための飴として利用されている。

猪熊 自治体の中には頑張っているところもあります。たとえば1歳児に対する国の配置基準は、子ども6人に対して保育者1人です。1歳児6人って、双子3組と一緒です。プロの保育者でも1人で6人の1歳児をみるのは本当に大変。だから杉並区や世田谷区など、東京23区の多くは5対1にしていますし、もっと頑張っているところでは、長野市が4対1、長野県上田市や新潟市では3対1です。

治部 予算を取りに行っている。それはそれでいいことですよね。

猪熊 国の予算は6対1の部分だけで、あとは自治体ががんばって上乗せしている部分。予算を出す自治体と出さない自治体があるので必然的に地方格差が大きくなっちゃう。最低基準がナショナルミニマムスタンダードじゃなくなってしまっているんです。そんな問題があるので、「無償化」はいまやるべきことなんだろうか?と私は思っているんですが……とはいえ、いまNOと言ってしまったら、今後はもう無償化できなくなってしまうかもしれない。なのでNOとも言えないんです。

治部 無償化はしましょう。でも他にもやることがあります、というしかないんですかね。

猪熊 そうですね。無償化は当然やるべきことです。でもそれをやるなら、まずは4、5歳児30〜35対1という世界的にみても恥ずかしい配置基準を変えて、それ相応の質を確保できるようにしないと駄目ですよ、と言うしかないかもしれません。

保護者も一緒になって園を育てていく

猪熊 最後に、幼稚園・保育園を、保護者も一緒に育てていくことが大事という話をさせてください。治部さんって、保護者会には参加されてました?

治部 もちろんやりました。大切ですよね。

猪熊 そうなんです、保護者が園に意見を出していくのは重要なことです。

治部 子どもはモノじゃないですから、園に預けておしまいでは済みません。環境を整えていくためには、保護者も一緒にやっていかなくちゃいけない。

猪熊 政治的だと言われたり、保育者の組合の解体があったりして、20年くらい前の私たちの世代のときにあったような各園の父母の会や、地域の中での連合会などの連携ってなくなってきています。私の場合、最初に入った園ではそういった組織があって、入園した保護者は絶対にやらなくちゃいけないことになっていたんですが、次にに引っ越してきた園ではそういう組織も活動も全くなくてびっくりしたくらいでした。最近では園の方が、働いている親もたいへんだろうから、父母の会や保護者会をなくしていこうと、むしろサービスとして行っているところがあると聞いているんですけど……。

治部 絶対にあったほうがいいですよね。

猪熊 そうなんです。何か問題が発生したときに保護者がまとまって力を出せるように、普段は親睦団体でいいから、組織を作っておいたほうがいいと思います。最初は有志が集まって、入園のときにお花見したり、子どもの話をしたりするくらいで、徐々に仲良くなっていくだけでいいんです。卒園したあとも地域の交流が生まれます。私は、今でも大学1年生になった次女の保育園の保護者の友だちとよく集まっています。最近はPTAの強制参加や強制労働の問題にも注目が集まるようになっていますが、組織で特に大変なことはしなくてもいいと思うんです。

治部 個人的な状況で参加できないとか、いろいろあると思います。それでも、父母の会があったおかげで、耐震問題が発生して移転先を見つけなければいけないことになったとき、保護者同士で移転先の土地について情報交換をしたり、園に情報提供をしたり出来ました。6年くらい子どもを預けていれば、必ず困りことって起きるものです。そんなときに、日頃から集まれるグループがあると、行政に意見を出しやすいですし、行政も人がある程度集まっているところは無視できないんですよ。

猪熊 そうです、そうです。ゆるふわっとした集まりでいることで、逆にいざという時、すごく使えるんです。次女の園が民営化するとき、私はうちの園の父母の会の会長だったんですが、周りの友だちから「民営化ってどうなるのかよくわからないけど、猪熊さんが大変だっていうなら大変なんだと思う。協力するね」って言ってくれたんです。普段から信頼関係を築いていたおかげだと思うんですよね。お母さんたちだけじゃなくて、お父さんたちも区役所と交渉するときに手伝ってくれました。十数年前にはまだ役所は、お母さんたちが出ていってもちょっと馬鹿にしてちゃんと相手をしてくれないことがあったんですよ。それで頭にきて説明会のときには「お父さんたち、動員お願いします」って父母の会を通して連絡すると、お父さんたちがみんな「よしっ!」と来てくれる(笑)。役所と交渉する部屋の前の方にお父さんたちにバーッと座ってもらうと、区の人たちも驚いてちゃんと説明するし、役所の説明を聞いているうちにお父さんたちが「そんなのはおかしい!」と本気で怒り出しちゃって。それ以来、お父さんたちが大勢中心になって関わってくれたおかげで、うちの子どもの園はかなり丁寧に対応してもらえました。それもすべて親睦団体として交流してきた下地があったからなんですね。

治部 保護者や子どもの間のトラブルも、保護者会があるだけで全然違いますよね。1対1にならなくて済みますし。寺町さんにお話を伺った際に、園と保護者が、どのくらいの怪我なら許容するのかという話題になったんですね。文書化しないにしても、許容度がだいたいわかっているほうがいいっていうのは私も思って。もちろん骨を折るとか大事に至る怪我は駄目ですけど、いまは子どもの安全に気を使うあまり、ちょっとした怪我でも保育園から過剰に謝られたりするんです。それはいい意味で、安全への意識が高くなったということでもあると思いますが、一方で本当のクレーマーを生み出しかねません。

猪熊 ケガに対する許容度は親によって違いますから、そこはなかなか難しいですよね。

治部 きょうだいがいる家だと、怪我なんて当たり前ですけど、子どもが一人の家庭は不安ですよね。

猪熊 そうそう。はじめて子育てする場合は特に、うちの子が園で大事に扱われていないんじゃないかって心配になっちゃいますよね。私も長女のときはそういう思いをしたことがありました。でも父母の会などで親同士が自然と仲良くなっていけば、もしケンカしたとしても親同士で「ごめんね」「いいよ、お互い様だよ」って言いやすいですよね。

いまは子どもが一人だけのご家庭も多いので、保育園や幼稚園ってあっという間に過ぎてしまうものだと思います。だからこそ、丁寧に園や保護者同士の関係を築いてほしいです。ちなみに私は4人の子どもがいたので、15年くらい関わってきましたが。

治部 長い(笑)。

猪熊 15年生のママは立派なお局さんですよね(笑)。私の周りもそんな人ばかりでした。13年、15年、18年っていうママもいたかな。それでも無事に卒園できたら、あとは自分には関係ない話しになってしまうと思うんです。でも、人生ってすごく短いので、しばらくするとあっという間に孫の話になってきます。

治部 そうそう。

猪熊 私も今ではいつおばあちゃんになるんだろうって楽しみにしているくらいです。保育園や幼稚園の期間はあっという間に過ぎますが、自分の子どもが無事に卒園できたら、今度は、卒園生の親が地域のために子育てしやすい環境を作るために、自分の経験を情報として提供したり、地域の子育て支援に積極的に関わったりしていってほしいです。卒園児の親が細々とつながっていける園だととても良いですね。そういう意味でも父母の会はとても大切です。保護者の繋がりが地域の繋がりにも広がっていくからです。まちづくりの一端を担う意味でも、日本の保育を子どもにとってより良いものにしていくという意味でも、保護者同士がつながっていけたらいいと思いますね。
(構成/カネコアキラ)

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