日本体操協会幹部による「権力を使った暴力」

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写真:アフロスポーツ

 体操パワハラ騒動が波紋を広げており、収拾の気配はない。コーチから選手へのパワハラ問題と発表されたものが、実は日本体操協会の欺瞞でありコーチや選手へのパワハラだとの見方が日に日に強まっている。今年はレスリングやアメリカンフットボールなどのスポーツでもパワハラが表面化したが、体操の世界でもおかしな圧力がかけられているとは暗澹たる思いだ。この体操パワハラ問題に関して一連の経過を振り返りたい。

 8月15日、日本体操協会は、指導中に宮川紗江選手に対して顔を叩く、髪を引っ張るなどの暴力行為があったと判明したとして、速見佑斗コーチ(34)の登録抹消、および味の素ナショナルトレーニングセンター(NTC)での活動禁止の懲戒処分を発表。速水コーチも宮川紗江選手も事実関係を認めているとのことだった(この時点では宮川選手の名前は匿名で報道)。

 ところが8月21日、宮川紗江選手は代理人弁護士を通じて、直筆文書を発表。速見コーチへの処分に対して「暴力は良くないことだとはわかっていますが、私は速水コーチに対して、パワハラされたと感じていませんし、今回のことも訴えたりしていません。家族も同じです。報道の内容には真実ではない行き過ぎた内容もあり、私は不安と怒りで自分を保つのがやっとの状態です」と日本体操協会を真っ向批判した。また、代理人弁護士と連名の文書には、被害者とされている宮川選手自身は協会に対して暴力被害を訴えておらず、怪我や傷を負ったこともないとしており、今回の速見コーチの処分を不服として東京地裁に仮処分の申し立てを行った旨が報告された。協会からコーチへの処分執行に至るまでのプロセスが不自然だとして「第三者による何らかの意図が働いていたと推認せざるを得ません」とも。宮川紗江選手は、レインボーとの契約を解除して無所属となった。

 8月29日、宮川紗江選手が都内で会見を行った。宮川紗江選手は速見コーチの指導について、暴力を受けたのは事実だが大怪我や命に関わるような場面であったため仕方なかったと認識していること、時期ははっきりとは憶えていないが1年以上前であること、その時は「それぐらい怒られても仕方のないことだ」と理解していたこと、速見コーチは反省しており今はそういった暴力を伴う指導を受けることはなく、自分自身も「どういう理由であれ暴力を認めることはあってはならないことだと考え方を改め」たと語った。速見コーチには「厳しさの中にも人の何倍もの楽しさや優しさ」があり、今後も速見コーチの元で練習を続行し東京五輪を目指したいとのことだ。

 そして宮川選手は、今回の件での日本体操協会が速見コーチに下した処分が重すぎること、さらには自分自身が日本体育協会からパワハラを受けたと感じている、と言及した。これが騒動の核心だろう。宮川選手は「強化本部長の味方につけば優遇される」「同じ被害を受けている選手が沢山いる。みんなで真相を暴露したい」と語った。指導中に暴力行為を行った速見コーチではなく、日本体操協会の幹部によるパワハラを訴えているのである。

 7月に行われた代表合宿に参加した宮川選手は、日本体操協会の塚原千恵子女子強化本部長(71)やその夫である塚原光男副会長(70)に呼ばれ、「暴力の話が出ている。あなたが認めないとあなたが苦しい状況になる」「今すぐ関係を切りなさい」などと言われたという。また、「私なら速水の100倍は教えられる」と朝日生命体操クラブに誘われたそうだ。宮川選手が今後も速見コーチ・家族の元でやりたいと伝えると「家族でどうかしている」「宗教みたいだ」「五輪に出られなくなる」などと圧力を掛けられ恐怖と苦痛を感じ、過去の暴力を理由に速見コーチを排除し自分を引き抜こうとする塚原千恵子女子強化本部長らの行為こそ「権力を使った暴力だと感じます」と宮川選手は訴えた。

 同日夜、日本体操協会は記者会見を開き、速見コーチの処分の経緯を説明し、正当性を訴えた。翌8月30日には、塚原光男副会長がメディアの直撃に「なぜ彼女が嘘を言うのかわからない」「全部嘘」と発言。一方で塚原千恵子女子強化本部長もメディアの取材に対して「宮川が勝手に言っていること」と否認している。

 しかしその一方で、元体操日本代表の田中理恵さん(31)や鶴見虹子さん(25)は、メディアの取材もしくはSNSを通じて宮川選手を応援することを表明している。現役時代は体操女子日本代表の中心核だった鶴見虹子さんは朝日生命体操クラブ出身だが、2011年に退部、日本体育大学に入学し競技を続けた過去がある。

 こうした告発を受け、8月30日、日本体操協会の具志堅幸司副会長(61)が記者会見を開き、緊急対策会議の結果、塚原光男副会長および塚原千恵子女子強化本部長の宮川選手に対するパワハラについて、第三者委員会を立ち上げたことを報告した。また、速見コーチの処分についても第三者委員会に委ねる意向であると語った。宮川選手の会見に対する福原光男副会長の「全部嘘」発言については「非常に残念な言葉」であるとしている。

 日本体育協会の組織図はこのようになっており、塚原光男氏も具志堅氏も3名の副会長のうちのそれぞれ1人だ。しかし塚原千恵子氏と塚原光男氏の権力は協会内では非常に強かったようで、特に千恵子氏は体操女子のすべてを牛耳る立場だったという。30日放送の情報番組『ビビット』(TBS系)で、元体操選手の森末慎二氏(61)は「協会の中に夫婦でいて、この立場にいること自体がおかしい」との見解を示した。また、ナショナルチームにも塚原氏の所属する朝日生命人脈の監督・コーチ陣が何人も入ってきていると言い、「すべてノーという人を排除してイエスマンだけを置いていくということでしょうね」と、その組織運営のありかたを批判した。

 宮川選手は塚原夫妻から「強化本部長の味方につけば優遇される」と圧力をかけられたというが、会見で「私は優遇されるために体操をやっているわけではない」ときっぱり発言した。多くの選手がそうだろう。優遇されるためにスポーツをしているのではなく、やりたくてやっている。そのサポートをするのが協会側の役割ではないのか。第三者委員会には、塚原夫妻と夫妻を取り巻く人脈の所業について、精確な調査と処分をしてもらいたい。既得権益にしがみつく膿みを出すべき時が来ている。

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