第一生命経済研究所は8月、「出産退職の経済損失1.2兆円」という試算を発表した。厚生労働省の調べによると、2017年の出生数は94.6万人いた。国立社会保障・人口問題研究所「出生動向調査」(2015年)を使って計算すると、20万人の女性が出産を機に退職したと推定。女性が辞めずに働き続けた時と比較して、企業が失った企業収益などを併せると「経済損失額」は1兆1741億円になると算出した。
出産退職したら8000万円以上の損失
同調査では、女性が30歳で出産退職して40歳から再び働き出した場合と、出産退職しないで働き続けた場合の通算年収の比較も行っている。
「賃金構造基本統計調査」(2016)をベースに、30歳で出産退職した後、40~59歳まで非正規社員として働いた場合の通算年収は5167万円(年収の平均258万円)と算出。(40歳から正社員として復帰するのは難しいため、非正規社員で仮定している)出産退職をせず正社員として働き続けた場合、30~59歳までの通算年収は1億3474万円(年収の平均449万円)になるとした。出産退職した場合としなかった場合では、通算年収に8307万円もの差が生じるようだ。世帯単位で見ても、出産退職は大きな損失を与えると言える。
また、出産退職させないための得策として「育児休暇制度(育休)」を挙げている。同調査では、育休を利用して就業継続した人数を2002年(14.9万人)、2007年(18.6万人)、2017年(23.7万人)と算出。育休が普及したことで、出産退職しないですんだ人は年々増加していると指摘した。しかし育休制度を利用しても期間中に預け先の保育サービスが見つからず、復職できずに渋々離職する人も少なくない。出産退職を防ぐには保育サービスの充実による待機児童の解消も同時にかなえなければならない。
出産退職はお金だけでなく幸福感も奪う?
出産退職が通算年収に大きな影響を与えることがわかったが、お金だけでなく幸福感にも影響を与えるかもしれない。ソフトブレーン・フィールド株式会社は今年6月、子育て経験のある847人の女性を対象に実施した「出産後の働き方についての意識調査」のアンケート結果を発表。「出産後に仕事復帰してよかったですか?」と聞くと、「復帰してよかった」と回答した人は72.1%もいた。一方、「復帰しなければよかった」は3.9%に留まり、多くの人が出産後の復帰にポジティブな感情を見出している。
出産後、家庭という居場所に幸福を感じる女性もいるだろうが、家庭だけが自分の居場所になってしまい、社会と断絶されたような孤独感や不安感に襲われる女性も少なくない。仕事を継続することで育児ストレスから逃れ家庭と仕事のバランスをとれるケースもある。
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