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携帯料金大幅引き下げに隠された、二つの政治的な狙い

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Thinkstock/Photo by scanrail

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なぜ菅官房長官は4割引き下げを示唆したのか?

 安倍総理の懐刀、菅官房長官が突然携帯料金は高すぎると切り出し、4割くらいは引き下げられると発言、総務省の情報通信審議会が8月23日からこれの検討に入りました。確かに、日本の携帯通信料金は、香港など海外との比較では圧倒的に高く、その分通信会社が大きな利益を上げています。そこへ新たに楽天の参入を認め、これを機に競争が高まれば価格が下げられると言います。

 たかが携帯と思われるかもしれませんが、携帯料金支払額は、家計消費全体の中で大きな割合を占め、そのコストが懐を圧迫しているのも事実です。総務省の「家計調査」によると、6月の消費支出額は、2人以上の世帯で26万7000円ですが、このうち「通信費」が1万2000円を占めています。その約半分が携帯利用料とみられます。スマホの利用世帯ではこれがさらに大きくなります。それだけに、多くの国民にとって、料金引き下げは歓迎となりますが、今なぜこの問題を提起したのでしょうか。二つの狙いがありそうです。

来年の参議院選挙を意識した人気取り

 一つは来年夏の参議院選挙です。各種世論調査によると、安倍政権の支持率は30%台から40%台でこのところ低迷し、不支持率が支持率を上回る調査結果も少なくありません。9月20日の自民党総裁選は、安倍総理を支持する派閥議員の数が7割を超えているので、安倍3選は堅そうですが、一般世論の「総理としてふさわしい人物」では、小泉進次郎氏や石破元幹事長の後塵を拝しています。

 安倍総理の下では参議院選挙は戦えない、との声が広がると、安倍退陣に追い込まれるリスクがあり、しかも自民党の内規改定でも総裁の4選はないので、3選を果たしても、すぐに安倍政権が「レームダック」(力のないアヒル)になる可能性があります。その中で、憲法改正、消費税引き上げという不人気な問題を取り上げていくのは、安倍政権にとっても大きな負担で、相応の「お土産」で国民の心をひきつける必要がありました。携帯料金の引き下げは、そのためにぶら下げた「ニンジン」になります。

国民が望まない物価上昇を日銀が狙う理由

 もう一つの、そしてより隠れた狙いと考えられるのが、日銀の「出口策」封じです。日銀は先の政策決定会合で、物価上昇率の予想を今後3年ともに下方修正して、2%の目標達成は21年度以降に先延ばししています。それにもかかわらず、国債やETF(株価連動の上場投資信託)の買い入れを弾力化し、長期金利の上昇余地を拡大しました。一部にはこれを「出口策」への助走、と見る向きもあります。

 政府日銀の2%の物価目標は、いったい何のためにやっているのか。少なくとも、物価が毎年2%以上上昇するようになれば、経済が良くなるとか、国民が喜ぶ、とかいうものではありません。少なくとも国民は、各種調査によると、物価の上昇を望んではおらず、逆に「困ったこと」ととらえています。年金生活者にとっては、物価高はそれだけ老後の不安を高めることになるからです。

 では何のために2%の物価目標を掲げたのか。一つは政府に円高懸念が強く、日本だけインフレ率が低いと、「購買力平価」の考え方からすれば、低いインフレの通貨ほど強くなり、円高になります。これを政府が嫌っているというより、財界に円高アレルギーが強く、政府は経団連などの財界を代弁して円高回避に注力しています。

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斎藤満

一橋大学経済学部卒業(竹中平蔵元大臣と同じクラブで活動)。1975年4月 三和銀行入行。85年、三和総合研究所調査部主任研究員。90年、三和銀行資金為替部ニューヨーク駐在エコノミスト。2001年9月、WTCにて「9.11同時多発テロ」に遭遇。著書に『ドル落城~ついに日本経済が目を覚ます』(2003年、講談社)、共訳著にジョセフ・サックス『レンブラントでダーツ遊びとは』(2001年、都留重人監訳、岩波書店)などがある。

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