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「毒婦」とされた林真須美と木嶋佳苗。女性犯罪者たちの報道から垣間見えるジェンダー意識

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 高橋お伝、阿部定、小林カウ、林真須美、木嶋佳苗など、「毒婦」と呼ばれる女たち。みな、凶悪犯罪を犯したという共通項があるが(林真須美については冤罪の可能性あり)、凶悪犯罪を犯した女性がみな「毒婦」と呼ばれるわけではない。犯行に「性」が関わっていると、「毒婦」を冠される傾向が強い。阿部定、木嶋佳苗がわかりやすい例だろう。

 「ホテル日本閣事件」(1960年)の首謀者で、戦後、女性として初めて死刑に処された小林カウ(逮捕当時52歳)は、色仕掛けで8歳年下の男を殺人の共犯にした。その少し前には、17歳年下の若い巡査と愛人関係となっている。

 林真須美の場合は、例外的に性的要素とは無縁だが、注目度が高かったため一気に「毒婦」へと祭り上げられてしまった。また、彼女が犯人とされる「和歌山カレー事件」が「毒物混入事件」であるため、「毒婦」の枠にすんなり収まった感がある。

 ちなみに小林カウは、逮捕後の取調べの際にも警察官に色目を使い、自分に有利に事を運ぼうとしたとされている。しかし、このあたりは脚色の可能性もある。事実から離れて、面白おかしく脚色された女性犯罪者こそが「毒婦」だからだ。

 「元祖毒婦」となり、明治初期に一大「毒婦ブーム」を作り出した高橋お伝は、ハンセン病の夫の治療のため夫婦で都会へ出た。しかし看病の甲斐なく夫は死んでしまう。お伝は妾になったり、商売をしたりして生き抜こうとしたが貧窮し、金策のため後藤吉蔵という男を旅館に誘った。金を融通してくれなければ殺すつもりで剃刀を隠し持っていた。結局、吉蔵を殺害したお伝は、宿の女中に「連れはまだ休んでいるから起こさないで欲しい」と伝え、姿を消した。

 翌朝、女中が吉蔵の死体を発見したとき、部屋にはお伝による書き置きが残されていた。そこには、“これは5年前に姉を殺した吉蔵に対する敵討ちです。姉の墓参りを済ませたら出頭します”としたためられていた。しかしそれはすべて嘘で、逃亡の時間を稼ぐための偽装工作だった。

 お伝は翌月に逮捕され、斬首された。首のない遺体は警視庁第五病院において解剖に付された。そのとき、なぜか医師たちはお伝の性器に注目した。解剖所見には「小陰唇の異常肥厚および肥大、陰挺部の発達、膣口、膣内径の拡大」とある。解剖後、性器だけがメスでくり貫かれ、ホルマリン漬けにされた。

 解剖によって「性器」がクローズアップされたことが新聞で報じられると、小説、歌舞伎、錦絵などが、寄ってたかってお伝をモチーフとした。逃亡のための偽装工作を行ったお伝は、むしろ知能犯なのだが、「情欲に駆られた毒婦」へと仕立てられていったのである。

 死人に口なし。お伝は名誉毀損されたまま、その性器だけがホルマリン漬けにされている。ひるがえって「平成の毒婦」たちは、事実と異なる報道と果敢に戦っている。かつての「毒婦」たちと違い、報道内容を訂正する術を持っているのだ。

 木嶋佳苗はブログで、自身についての報道や出版物について、率直な意見を述べている。また、林真須美は、今は亡き「ロス疑惑」の三浦和義から「本人訴訟」を伝授され、名誉毀損報道を行ったメディアを訴えるべく、拘置所の独房で1人黙々と訴状を書く毎日である。

 彼女たちを見ていると、世間から一方的に付せられた「毒婦」という呼称は、そぐわない気がしてくる。「婦人」が「女性」と言い換えられるようになった現在、「毒婦」という字面も古臭い。そもそも女性犯罪者に対する特別視がなくなれば、「毒婦」という言葉は不要になるのだ。

 なぜ女性犯罪者が目を引くかといえば、その存在自体が珍しいからである。現在、凶悪犯罪者に限れば、男性が全体の9割。女性は1割にすぎない。

 彼女たちは「犯罪者」であるがゆえに、容赦なくジェンダー的視線を注がれ、メディアによってより凶悪に、より陰湿に、ときには面白おかしく脚色される。背景には、犯罪、特に女性による犯罪を娯楽として消費する世間がある。結果、事件の真相が覆い隠されてしまうこともあるだろう。それは今も変わらない。

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田中ひかる

1970年東京生まれ。著書に『月経と犯罪 女性犯罪論の真偽を問う』(批評社)、『「オバサン」はなぜ嫌われるか』(集英社新書)、『生理用品の社会史 タブーから一大ビジネスへ』(ミネルヴァ書房)、『「毒婦」 和歌山カレー事件20年目の真実』(ビジネス社)など。

田中ひかるのウェブサイト

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