真剣勝負の選挙戦
日本で2016年の参議院選に立候補、当選した元SPEEDの今井絵理子の発言には驚かされた。選挙活動中に憲法や経済について聞かれると「今は選挙中なのでごめんなさい」と応答した件だ。単に憲法や経済に疎いだけでなく、政治家とは何をする職業なのか、選挙戦とは何をおこなう期間かを全く理解していない。こうした人物を担ぎ出す政党にも、もちろん大きな問題がある。だが、この発言の本質は「波風が立ちそうな話題には触れない」という風土、メンタリティにあるのではないだろうか。その精神性が極度に幼く拙いかたちで表出した発言に思える。
アメリカの政治家も自分に都合の悪い問題にあえて触れないことは多々ある。しかし、ディベートになると弱みは必ず突っ込まれる。その弱みをカバーするためにも自分の主張を全面に押し出す。
ゆえにニクソンはベテランのクオモに対抗すべく、あらゆる政治課題を勉強し、ディベートでは噛み付かんばかりの勢いをみせた。また、事前の調査では黒人有権者からの支持が薄く、そのために副知事候補には黒人男性の市会議員、ジャマニ・ウィリアムスを選んでいる。さらにニューヨーク市教育庁に勤務していた妻のマリノーリには、利害の発生や癒着疑惑を防ぐために辞職させている。
シンシア・ニクソンが目指す場所
ここまで真剣に戦うニクソンだが、ディベート後の支持率調査でもまだクオモの後手となっている。予備選まですでに2週間を切っており、よほどのことが起こらない限り、ニクソンの当選は難しい。それは本人も自覚しているだろう。もしかすると、ニクソンにとって今回の知事選は政治家としての知名度を広げるためのステップであり、2020年の大統領選出馬を考えているのだろうか。
前回の米国大統領選はトランプという政治の素人を当選させてしまった。トランプは不動産業者だが、テレビのリアリティ番組で人気を博した芸能人でもある。トランプが巻き起こした混乱ゆえに、次期大統領選にはすでに多くの候補者の名が囁かれている。定石の有力議員たちに混じり、芸能人の名もある。本人は立候補を否定しているが、トークショー司会者にして成功したビジネスパーソンであり、ジャーナリストでもあるオプラ・ウィンフリー、次回ではなく2024年とされているが、俳優で元レスラーのドウェイン・ジョンソン(ザ・ロック)の名もある。いずれも信望ある人物だが、政治経験皆無の人物がいきなり大統領となるのは非常に大きなリスクが伴う。それはニクソンにしても同じだ。
果たしてシンシア・ニクソンが目指すものは一体なにか? そして、ニューヨーク州、そしてアメリカ合衆国の行く末やいかに。
(堂本かおる)
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