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猟奇犯罪者の行動は分析できるのか――FBI行動分析課の黎明期を追体験するNetflixドラマ『マインドハンター』

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~刑事事件の法廷を主として、刑務所、拘置所取材を続けるフリーライターの高橋ユキが、取材の移動の合間に電車で観たNetflix作品をレビューします。~

 ひとつの殺人事件が起こったとき、世間はその原因をどこに見出すだろうか。「むしゃくしゃした」などという犯人の弁は、結局のところ、犯罪を犯す“きっかけ”でしかない。では犯人はもともと我々とは全く違う“生まれつきの異常者”なのか。いや、多くはそうではない。生育歴や家族関係、親による虐待の有無や内容、そして性癖などが複雑に絡み合い、人の道に外れた行為を夢想し始め、実行する。

 Netflixが製作を手がけるドラマ『マインドハンター』は、犯罪者のプロファイリングがテーマだ。シーズン1は2017年10月から配信が始まるとたちまち人気を集め、翌月には「Binge-worthy-show」(一気見する価値ある作品)と評価されている。鬼才と称される監督、デヴィッド・フィンチャーが本作品の製作総指揮と、エピソード4の監督を務めたことでも話題となった。製作総指揮にはシャーリーズ・セロンも名を連ねている。

 評価通り、第一話を視聴すればラストまで一気見してしまう作品だ。猟奇犯罪者のプロファイリングがテーマではあるが、残酷描写はごくわずか。FBI捜査員と猟奇犯罪者との対話に主眼が置かれている。

 舞台はアメリカ。1970年台前半にFBIに『行動科学課』(行動分析課の前身)が設立された後からドラマは始まる。29歳の若手FBI捜査官ホールデン・フォード(ジョナサン・グロフ)とベテラン捜査官、ビル・テンチ(ホルト・マッキャラニー)がペアになり、同年代後半からプロファイリングの手法を確立させていく過程を描いている。

 第一話は、人質をとって立てこもる男をフォードが説得に当たるシーンからスタートする。説得に失敗し、男は自分の頭を銃で撃って自殺した。その後、FBIアカデミーで上司から、人質解放交渉についての教官になることを命じられたフォードは、手探りの中、授業を進める。授業後に隣の教室で講義していた別の教官が「以前は私利私欲による動機があったが、現在は理解できる動機は存在しない」と語るのを聞き、この教官を飲みに誘う。時代は変化し、犯罪は無秩序化した。だがその犯罪を起こした動機を理解すべきだとフォードは熱弁するのだった。

 そんな思いを抱く中、バージニア大学で現代の応用犯罪心理学を学び始めたフォード。最先端の研究を現場に持ち帰るためだ。だが上司から「FBIにとって心理学は裏方のお遊び」であると非難を受ける。こうしたやりとりから、当時のFBIは猟奇犯罪者の動機が見えないと感じていたこと、犯罪心理学が実務で役に立つことはないと“下に見られて”いたことなどを視聴者に見せつける。

 その後も模索を続けるフォードを見かねたのか「行動科学課に相談しろ」と上司が助言。こうしてテンチと出会ったフォードは「全国の警察で講義をしているので、それを手伝わないか」と誘われる。ふたりで車に乗り、アメリカ各地を回って現地の警察官らに講義を行う日々が始まった。

 第一話では、講義先のアイオワ州フェアフィールドで、シングルマザーとその幼い息子が殺害されるという事件が起きた直後だった。母子ともに、ほうきの柄を肛門に挿されたあとも確認された。現地のベテラン刑事に「犯人はどんな人間だ?」と助言を求められるが、何も言えないフォードだった。そしてフォードとテンチは、プロファイリングという手法を確立すべく、各地の警察を回りながらその土地の刑務所を訪ね、連続殺人者たちに面会し、彼らのデータを蓄積していくことになる……。

実在する・した猟奇殺人者たち

 ドラマ『マインドハンター』が、猟奇犯罪に多少なりとも興味関心を持つ者たちを惹きつけるのは、これが実話に則ったストーリーであるためだ。本作は同名の書籍(日本版は早川書房刊「マインドハンター──FBI連続殺人プロファイリング班」、過去のタイトルは「FBIマインド・ハンター―セックス殺人捜査の現場から」だった)をベースにして制作されており、フォードとテンチにもそれぞれモデルとなったFBI捜査官がいる。

 著者のジョン・ダグラスがフォードのモデルであり、ジョンは映画『羊たちの沈黙』でジョディー・フォスターの上司役のモデルとなった人物でもある。彼にもこのように多くのことに悩み模索した時代があったのかと妙な感動を覚えてしまう。テンチは過去の人気書籍「FBI心理分析官―異常殺人者たちの素顔に迫る衝撃の手記」(早川書房)の著者であり、ジョンと同じく1970年代にFBIで活躍したロバート・K・レスラーがモデルだ。

 ゆえにドラマでフォードとテンチが面会する猟奇殺人者たちも、実在する・した人物だ。シーズン1全体を通してフォードに大きな影響を与えるエド・ケンパーは実際に10名に対する殺人で1973年に終身刑を言い渡され獄中生活を送っている。エド・ケンパーは10代の頃に祖母を銃で撃ち殺したことを契機に女性ばかりを殺害し続け、最終的には母親とその親友も殺害した。ドラマでは何と言ってもエド・ケンパーの再現度の高さに驚かされる。よくこんなにそっくりな俳優がいたものだと感心するほどだ。

 各話の冒頭とラストにごくわずかに挟み込まれる、あるシリアルキラーの描写も、おそらくのちにリリースされるであろうシーズン2以降、FBI行動科学課の捜査官たちと彼との対決が見られるのだろうという期待が高まる。

 フォードとテンチによる猟奇殺人者たちとの面会は、すべてがすべて、うまく対話が進んでいるわけではない。彼らも幾度も失敗を重ね、今があるのだということに、同じように殺人犯に面会する機会のある筆者も、おこがましいながらも共感し奮起するのだった。また書籍「マインドハンター」は数多の猟奇殺人者と面会し彼らの行動を分析してきた経験から、犯罪の種類とそれを犯す者の傾向なども記されており、こちらもかなり刺激的な一冊となっている。

高橋ユキ

傍聴人・フリーライター。2005年に傍聴仲間と「霞っ子クラブ」を結成(現在は解散)。著作に「木嶋佳苗 危険な愛の奥義」(高橋ユキ/徳間書店)など。好きな食べ物は氷。

twitter:@tk84yuki

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