
Thinstock/Photo by EasterBunnyUK/Photodisc
科学的根拠がないのに大風呂敷を広げ、ありえない効果効能を広める通称〈トンデモ〉に、身内がハマってしまったら? その困惑や実体験をご報告する〈身内がトンデモになりまして〉シリーズ。今回お話をしてくれたのは、母親がマルチ商法で販売される「アロエベラジュース」信者になったという主婦Dさんです。
ネットワークビジネスで販売される「アロエベラジュース」。これに母が宗教のごとく傾倒しはじめたのは、約20年前。当時ガンを患っていた祖父のことを母が心配していろいろな健康食品を取り寄せ始め、このジュースに行きついたのだとか。それからは何を言っても話が「アロエベラジュースを飲めば万事解決!」になり、まともに話ができなくなったと言います。
D「うっかり母の前で健康の不安など訴えようものなら、『アロエベラジュースを飲め』と言われるだけなので、家族なのに弱音も吐けないんですよね。ニキビができても『アロエベラジュースを塗れ』、目がかゆいと言えば『化粧水(アロエベラジュースの会社が売っている)を目に挿せ』です。ちなみに母の言う事を聞いた父は『痛い! けど、しみてるから効いてると思う!』と言っていました。わたしが蚊に刺された時も、すかさず化粧水を擦り込んでくる母……。思わずその手を払いのけてしまいました」
ちなみにアロエといえば、1970年代前後に大ブームになった健康食品です。今もある「アロエヨーグルト」はその名残と言っていいでしょう。Dさん母がハマった「アロエベラジュース」は1983年から日本で販売が始まった模様(参照HP)。
アロエから宇宙の法則へ
雨の降らない砂漠に自生するアロエベラのパワーはすごい! という切り口から、美容健康にいかにいいかが謳われています。販売会社の名前を検索すると「栄光をつかみとる!」「ステージが上がる」「潜在意識」など、ネットワークビジネス特有のキラキラパワーワードがズラズラと……。
Dさんが高校生になる頃には、アロエベラジュースのマルチ販売で成功した人の「勉強会」や「セミナー」(自己啓発系の講演会)へ足繁く通うようになったDさん母。
D「その頃は、母は夜な夜な電話で誰かと『潜在意識が〜』『宇宙の法則が~』とか話していました。そんなものを耳にするくらいならいっそ『ヨン様!』とかやっててほしかったです。切に」
進路や将来の夢について相談をしても「宇宙にお願いしろ」「このプロポリスを飲むと頭が良くなるらしい」「◯◯大学に合格しました、ありがとうございますと書け」と、意味不明なことを言うようになってきたそう。混乱と恐怖から、次第に母親と会話をする気が失せてしまうDさん。
D「中高生の頃って、まだ精神的にも親が頼りじゃないですか。そんな中で『こんなものをどのくらい本当に信じているんだろう』『潜在意識だの、引き寄せだの。この親、努力はしたくないけど結果は欲しいタイプの、ただの怠け者?というか、馬鹿!?』と思ってしまったことが、子ども心にショックでした」
耳にこびりつくアロエベラ音頭
D「罪悪感といいますか。思春期の頃というのは依存と自立がテーマの、成長に必要な葛藤をする大事な時期でもあると思うんですけど、そんなタイミングで親のトンデモっぷりを見ていたら『親は早めにボケたんだと思うことにしよう』と飲み込むしか、自分を守れなかったように思えます。意味不明な理屈でアロエベラジュースの効能を恍惚と語っている姿に、悲しさも覚えましたね」
Dさんの実家に流れる定番のBGMは、畠山みどりの『アロエベラ音頭』。ベーラベラベラと歌われるそれはシュールな異世界を作り出し、ニッチなネタで盛り上がる「タモリ倶楽部」でも取り上げられた珍品です。傍から見れば大笑いですが、思春期の家庭環境としてはかなり過酷だったことでしょう。