
石川優実「いままで全然気にしたことなかったけど」
こんにちは。グラビア女優の石川優実です。2017年末に#Metooについての記事を書き、みずからの性暴力被害について向き合ったことをきっかけに「男女平等」というものについて、「人権」というものについて、「ジェンダー」とは、「フェミニズム」とは、そのようなものに興味を持ち始めました。
この連載では、いままで無知だった私がさまざまな専門家の方々にお話をうかがい、どうすれば傷つく人たちが減るのか、被害が減るのか、すべての人が自由に安全に生きることができるのかを考えます。
今回は、選択的夫婦別姓の問題に取り組んでいらっしゃる打越さく良(うちこし・さくら)弁護士にお話をうかがいました。
選択的夫婦別姓というワードを最初に聞いたとき、私はあまりピンときませんでした。いままで結婚をしたことがありませんが、もしするならば当たり前に男性側の姓になるのだろうな、と思ってきました。なので、考えたこともなかったのです。そもそも、夫婦別姓って日本の法律ではできないの……?というのが正直な感想でした。
選択的夫婦別姓を実現したい人たちは、何を求めてそうしたいのか。なぜそれが実現できないか。
そこには、女性が自分という人間として生きていくことのむずかしさがありました。そしていまだに男尊女卑の考え方が根強く、しかし当たり前のように存在していました。
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ーー正直なところ、夫婦別姓について考えたことがまったくなかったのですが、まずなぜ選択的夫婦別姓を求める人がいるのでしょうか? 夫婦同姓に問題があるのでしょうか?
打越さく良さん(以下、打越):私たちは、夫婦同姓自体に問題があるとはいっていません。同姓がいい人はそうすればいいと思っています。しかし、全く例外が認められていないことが問題です。いまは法律上どちらかの姓に変えなければいけなくて、約96%は妻が改姓しています。女性が自分の姓のままでいたかったとしても、「普通は妻が改姓するでしょ」といわれてしまうことが多いです。
ーー夫側が変えてもいいんですよね?
打越:もちろん、そういう夫婦もいますよね。でも、9割以上は女性が変えるということは、女性が、「自分の姓でいたいんだけどな」と思っても、まったく同じ土俵に立っていないということです。それを相手にいい出すにも、まず勇気が必要です。いったところで「なんで? 俺のこと愛してないの?」といわれることもあるようです。女性側が夫に「私の姓にしてくれないってことは愛してないの?」とはいいませんよね。それで女性側が我慢して、男性の姓に変える。しかし、姓が変わってなんだかずっとモヤモヤする人もいます。名前というのは、その人のアイデンティティを形成する一部になりますが、それを本意ではな形で変えなければならない、となると、決して大げさな話ではないのです。いま女性の平均初婚年齢は30歳近くですが、その年齢まで社会的に活躍してきた姓があるのに変えるしかなかったということで、鬱になってしまう人もいます。
子どもの親だと認められない…
打越:夫の姓になってうれしい! という人がいる一方で、モヤモヤしてどうしても自分の姓でいたかったのに、という人もいます。夫婦別姓でいたい人は夫の姓になりたい人になんの迷惑もかけないですよね。それなのに、なぜ自分の姓でいたい人まで改姓しなきゃいけないんだろうということです。いまのままだと、どっちも姓を変えたくない人たち同士は法律婚ができません。そうして事実婚を選んだ人たちもいて、多くは仲よくやっています。しかし、どちらかは子どもと姓が異なることになるので、その子を病院に連れて行ったとき、「姓が同じ方の承諾をもらってきてください」などいわれて、「自分はなんなの?」と思い、本当の親として扱われていないような気持ちになってしまいます。事実婚は法律婚と比べて、いろんなことを制限されるのが現状です。
ーー変えたい人は変えればいいけど、変えたくない人は変えないでいい。みんなが選べるようにしてくれればいいのに。
打越:そうなんです。憲法では、家族に関する法律は個人の尊厳と両性の本質的平等に基づいていなければならないとされていますが、どちらかが改姓を強いられている現状は、とてもそうとはいえない、という考えです。96年の法制審答申が出たころにはもうすぐ夫婦別姓が選択できるようになるんじゃないか、といわれてきてもう20年以上も経ちました。事実婚カップルも元気なときはいいけど、だんだん歳をとるにつれ別姓だと相続するとき別姓でも問題なく手続きできるんだろうかと不安になります。介護が必要になれば病院にどう扱われるんだろうという心配も出てきますよね。事実婚カップルの権利はまだまだ見直されるべきですが、法律婚でも別姓を選べればそうした問題もかなりクリアできます。自分の姓でいたい女性を法律婚させないことが、国家的に有益なことってあるのかしらって不思議ですよね。
姓が違えば、家族ではない?
打越:婚姻の自由といっても、なんでもかんでも認めるわけじゃなくて、たとえば重婚や近親婚は当事者がよくてもそれは問題があるとはわかります。だけど別姓はそれと同じではないですよね。。
ーー2015年、打越さんたちが提起した「夫婦別姓を認めない民法の条文は違憲だ」という訴訟に対して、最高裁はなぜ夫婦同姓は合憲だとしたのですか。
打越:最高裁も、別姓を認められないことで女性が専ら不利益を被っているとは認めてくれましたが、でも、夫婦同姓には夫婦と未婚の子をひとつの家族ということを示す意義等もあり、合理性があるというような言い方をしました。びっくりしましたね。
ーー誰に対して示すんですかね(笑)。
打越:じゃあこっちの佐藤さんとあっちの佐藤さんは、みんな家族って見なしてしまうのですかって話ですよね。96%は女性が改姓していて、実質的にまったく平等じゃないのですが、「変えるのは夫でも妻でもどちらでもいいんですよ、だから自由ですよね、性差別の問題ではありません」といわれます。不平等だという主張が、そうした建前であっさりとに退けようとされます。最高裁では96%の女性が改姓していることで生じる不利益を一応は認めたんですけど、「通称使用が広がっているのでいいんじゃない?」という感じです。
ーー通称使用というのは、たとえば私が結婚して姓を変えたあとも、仕事などのときは「石川」を名乗りつづけるということですよね。