社会

どうして日本では夫婦別姓にできないの? 「自分の名前」を失う女性たちの生きづらさ

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打越そのとおりです。以前は、職場で旧姓で通していました女性が最高裁判事になるとき、戸籍姓以外は認められませんでした。自分たちの職場でも通称使用できてなかったのに、2016年の最高裁で「通称使用すればいいんじゃない」とは、よくいえたなあって思います。それから数年後、裁判官も通称使用が認められて、いまでは通称で法廷に立つ女性の最高裁判事もいます。弁護士は通称を使えます。

とはいえ、金融機関は通称ではなかなか登録できないので、私も弁護士の仕事で使っている口座は戸籍姓で登録しています。お仕事関係の人から振込の確認をされるとき「本当のお名前はこちらなんですね」とかいわれるので、いちいち説明しなければいけなくて大変です。「違います。私の“本当の”名前が打越なんです!」というんですけどね。普段ウソの名前で仕事をしているみたいに思えてしまいます。

ーー実際、そう思っている人は多そうですね。女性だけ結婚前と後とで名前が変わることへの違和感がどんどん強くなってきました。

打越アメリカでは昔、ミセス・ミスと女性だけ未婚と既婚で呼び方が変わっていましたよね。男性はずっとミスターなのになぜ? ということで、未婚既婚の区別なく「ミズ」にしようという運動がありました。それに対して男性たちは、「そんなことどうでもいいジャーン」みたいな反応だったそうです。でも文献を調べると男性も結婚してるかしていないかでマスター、ミスターと区別していた時代があるとわかり、女性がそれを復活させようといったところ男性たちは急に態度を変えて、「まいったまいった」と。

ーー嫌なんじゃん!(笑) いざ自分事にならないと想像できないのでしょうか?

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弁護士の打越さく良さん。

ーー知り合いの女性で、自分のパートナーに「結婚したらそっちが名前変えない?」っていったら「まぁそれもいいかもね」って返ってきたらしいのですが、「こうこうこういう手続きがあって」と説明したら「やっぱ嫌だな」と。いや、その嫌なこと、女性側がやらなきゃいけないんですけど、と思いましたね。実際に結婚して姓を変えるとなるとどんな大変なことがあるのでしょう?

打越運転免許証、銀行口座、パスポート、弁護士登録などの資格があればそれもすべて改姓したことを届出なければいけないという不便さがあります。しかし手続き以上に深刻なのは、先ほどお話したとおりアイデンティティの問題です。病院などで呼ばれる、入院しているときに部屋の入口に書かれる姓……自分の姓じゃないことに強い違和感を感じ、傷つく人がいます。姓が変わっても平気な人もいるし、「いいじゃない。夫の姓で。ラブラブでしょ♡」という人もいるし、けれど、そう思えずに苦しむ人もいる。そうじゃない人の気持ちを尊重してほしいなということです。

女性が一個人として認められていない

打越それに反対する人たちの主張のひとつに、伝統的な家庭には氏が必要だとするものがあります。家制度はもう過去のものなのに。そこでは個人個人の想いは無視されています。

ーー性暴力についてお話を聞くと、家制度が重視されていた時代、家長の持ち物である「女の貞操」を傷つけられるのがダメだ、という考えが日本の刑法に根強く残っているのが問題だそうですね。女性が傷つけられたらダメ、ではなくて。女性が一個人として認められていない感じが、すべてに通じるなぁと思います。

打越そのとおりです。

ーーところで、通称使用の拡大だけでは、やはり不十分なのでしょうか?

打越私も通称を使える範囲が広まっていくこと自体に、異議を唱えたいわけではないのです。でもそれは本質からずれています。通称を使うということは、その前提に夫婦同姓があるわけで、きっとその場合もほとんどが女性が変えることになるでしょう。通称使用の拡大を先進的なことのように主張する人もいますが、選択的夫婦別姓がなぜ実現しないのかをストレートに問題にしたいです。

また、パスポートで通称使用が可能になっても、諸外国では「ほんとは同姓なんだけど、ここでは通称を使ってOK」なんて制度はないから「どっちが君の名前なんだ!」となります。逆に、あらゆるところで通称使用が使えるようになったら、戸籍に記されている改姓後の名前は果たして必要あるのでしょうか。

夫婦の姓の問題は、誰もが当事者

ーー選択的夫婦別姓の実現に向けて、いまはどんな動きがあるのですか?

打越今年は私たちの弁護団による訴訟のほか、いくつも夫婦同姓の規定の合憲性を問う訴訟が提起されています。私たちの弁護団の5月の訴訟提起ののニュースを知って、2015年の最高裁判決がショックでずっと体調を崩してた人たちもすごく応援してくれるんです。だから諦めずやりつづければどこかで実現すると信じています。

最高裁も、セクハラには感度がよくなってきたと感じます。ただ裁判官たち自身にも直接関わってくるであろう夫婦別姓の問題については、どうでしょうね。家庭内における男女のあり方は、誰もが当事者ですからね。裁判官のなかにも、結婚するときに「どっちの姓にする?」とちゃんと話し合ってない人たちが多いんじゃないかと思います。いままで「結婚して夫のせいになったことで、妻はよろこんでいた」と思い込んでたのに、選択的夫婦別姓が実現したらいきなり「元の姓に戻りまーす」っていい出すかもしれない、そう考えると怖いよねと話してくれた、男性弁護士もいました。

ーーそれって自分のことを否定された気分になるんですかね?

打越そうなんでしょうね。そういう人はどこか後ろめたさがあって、でも自分でそれを見たくないんでしょうね。

ーー女性が何か意見を主張するだけで否定された気になる男性がいますよね。そんな人は、「あなたの姓でいたくなかった」といわれたら、自分を全否定されたと感じるんですね。そんなことはいってないし、そもそも姓と愛情とはぜんぜん別の話ですよね。

打越:個人の尊厳に関わる問題として考えてほしいですよね。女性が「自分の姓でいたい」といってるだけなのに、それをなぜか挑戦的だと感じる人たちがいますね。これは社会のあり方を変えてしまう提案なので、変えたくない人にしたら脅威なんでしょう。現在、夫婦別姓選べないのは世界で日本だけなんですよね。でもそれこそを、「日本の伝統だ」という人もいます。

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