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7月の西日本豪雨、関西を中心に上陸した台風21号、9月6日未明に発生した北海道胆振(いぶり )東部地震など、今年は大きな災害の相次ぐ夏となった。災害大国と呼ばれる日本では、毎年のように自然災害に見舞われる。地震や台風、豪雨など災害は長くても数日の出来事だが、被災地域の復興は何年もかかる。
長期にわたる復興活動への支援で、スポーツのチャリティーマッチというものがある。スポーツの力は多くの被災者に勇気と希望を与えてくれることを、これまで行われたチャリティーマッチが教えてくれる。
『熊本地震復興支援 B.LEAGUEチャリティーマッチ』
2016年8月24日、熊本地震復興支援としてB.LEAGUEチャリティーマッチが国立代々木競技場第二体育館で行われた。B.LEAGUE九州選抜とB.LEAGUE選抜の試合は、熊本県営業部長兼しあわせ部長のくまモンも出場し、白熱した試合となった。九州選抜として出場し、自らも被災者の一人である熊本ヴォルターズに所属する小林選手は次のように想いを語っている。
「今日のゲームを通じて、熊本は活力をもらいました。先日行われたオリンピックもそうですし、スポーツの持つ力を僕自身も感じています。来月からBリーグが開幕しますが、選手全員で頑張っていきます」
会場内募金は27万円、チャリティーオークション総額40万円、合計で約67万円が集まり日本財団を通じて熊本県に寄付された。
東北地方太平洋沖地震復興支援チャリティーマッチ がんばろうニッポン!
2011年3月29日、「東北地方太平洋沖地震復興支援チャリティーマッチ がんばろうニッポン!」と題した試合が日本代表対Jリーグ選抜で行われた。大阪・長居スタジアムで行われた慈善試合には4万613人が集まった。
試合は日本代表が勝利したが、Jリーグ選抜の一員として出場したFW三浦知良がゴールを決めるなど大観衆は熱狂の渦に巻き込まれた。この試合は日本テレビ系列にて全国中継され、視聴率は関東地区で平均22.5%、最高26.5%を記録し仙台地区では平均25.4%、最高30.1%を記録した。
津波被害の大きかった岩手県出身のMF小笠原満男選手(鹿島)は、チャリティーマッチへの参加を当初は辞退することを考えていたという。
「いろいろな声はあったと思うけど、やってみて、やれてよかったと思う。楽しみにしてくれた人もいたし、これだけ多くの人が集まって、ここだけでもこんなにサッカーが観たいという人もいた。サッカーを通して伝わったものもあると思うのでやれてよかった」
小笠原選手は被災地訪問をした際、励ますつもりが「サッカー頑張って下さいね」と逆に励まされたという。チャリティーマッチで集まった義援金は、募金活動や物販すべて含めて合計1億6970万7176円にもなった。
国歌斉唱を務めた倉木麻衣や日本代表選手、Jリーグ選抜の選手、審判団も無償で参加し被災者にサッカーを通じてエールを送った。
シナリオのない真剣勝負のスポーツが与えてくれる力
スポーツにはプランはあってもシナリオ通りにならない不確実性がある。真剣勝負で戦う選手を応援する人々は、1つ1つのシーンを目に焼きつけながら試合の行方を見守る。輝きを放つ時間は一瞬かもしれないが、脚光を浴びるまでの道のりは決して楽ではない。苦労が報われるまでに何年もかかる選手もいれば、幾度となくケガを乗り越えてきた選手もいる。
選手を応援する人は、いまに至る選手の経緯と自分の置かれた環境を照らし合わせ、挫折や苦労の末、努力し続けることで報われることを知る。スポーツ選手の誰一人として同じシナリオがないからこそ、観ている人は自分に置き換え、自分だけのシナリオを描いていこうと前を向くことができる。
スポーツ選手のジレンマと存在意義。そして、いまできること
災害時にスポーツ選手が「いま、自分に何ができるだろう」と考えたとき、いくつかの選択肢と向き合う時間となる。困っている被災者に手を差し伸べるべきか。それとも、自分の本業である試合に向けて被災している人を横目にトレーニングをするべきか。
非日常を与える仕事だからこそ、日常が非常な日々へと変化してしまった人々にそぐわない時間をもたらしてしまうのではないか、というジレンマがそこにある。スポーツ選手の多くは日頃のトレーニングや試合では、スポーツが与える力の存在を認識していないかもしれない。選手は困難な状況を乗り越えたとき、多くの応援を背負い戦ったとき、その存在意義に気づくのだ。
災害時に「いまやるべきことは何か」と考えたとき、選手は本業であるスポーツを通じてメッセージを伝えることに戸惑いを抱く必要はないだろう。
災害による甚大な被害を受けた地域で、生活のメドが立ち始めても、時間の経過とともに必ずしも心の傷が癒えるわけではない。そんなときスポーツは、一歩ずつ歩み続けることで未来を切り開く大切さを教えてくれる。