7月22日に第196回通常国会が閉幕したのち、豪雨や地震など自然災害が相次ぎ、また9月20日に投開票が予定されている自民党総裁選も「安倍晋三首相で決まり」との観測も流れ、このひと月ほど政治報道は大きな動きを見せていない。その結果、その国会での論戦を中心に大きな問題となった“あの話題”に関する報道も、すっかり鳴りを潜めてしまった感がある。
そう、学校法人加計学園が運営する、「岡山理科大学 獣医学部」に関する諸問題だ。
同学部が4月に開校して、この9月ですでに半年。「獣医学部新設の認可が下りたのは、同学園の加計幸太郎理事長が安倍首相の“お友達”であったことへの“忖度”が官僚たちの間に働いたのでは?」「そもそも国内の獣医師は不足などしておらず、都市部への一極集中が問題なだけ。獣医学部の新設など不要」等々、同学部の建設中も、大手紙から週刊誌まで、多くのメディアでさまざまな指摘がなされたことは記憶に新しい。
しかしその一方で、同学部が建設された四国北西部の街、愛媛県今治市に在住する筆者としては、ちょっぴり胸が痛い。報道された多くの指摘には、ほぼ同時期に問題となった大阪府豊中市における“森友学園問題”との類似性も相まって、この岡山理科大学獣医学部が、すっかり“いわく付き案件”となってしまった感があるからだ。確かにここ地元でも、「私立大学の総事業費192億円のうち、市民の“血税”が60億円近くも投入されるとは何事か!」という声は上がっている。
しかし、すでに同学部に186人の若者が入学し、キャンパスライフを送っていることを思うと、オトナの事情は抜きにして、彼らの幸福を願ってしまうのもまた人情というもの。ましてやそれがご近所での出来事ともなれば、なおさらだ。
そもそもわが今治市には、これまで岡山理科大学のキャンパスはなかった。「獣医系大学の空白地帯」であったこの四国に、学部単体で誘致されたのだ。何もなかった山を切り開いて、そこに延べ床面積3万6000平方メートルの校舎をドーンと建てたのである(現在建設中含む)。

しまなみ海道から見た、岡山理科大の建設風景(2017年9月撮影)
基礎が組み上がり、巨大な看板などが設置されていく様子は、広島県尾道市とこの今治市とを結ぶ自動車専用道路「しまなみ海道」から、逐一観察できた。まさに孫の成長を見守るおばあちゃんのような心境である。たとえそれが“望まれない妊娠”であったとしても、産まれてしまえば孫はかわいい。1975年から「学園都市構想」という名の“婚活宣言”を掲げ、たくさんの恋人候補(学校)にフラれてきた娘(市)にだって、ねぎらいの言葉のひとつもかけたくなる。でもおばあちゃん、あんまりお金持ってないからお小遣いは期待しないでね……みたいな。
実際、大学に対して温かい視線を投げる市民も少なくない。市内で自営業を営む40代男性は、「今回獣医学部に来る新入生たちは“先輩”がいないので、僕らが代わりに歓迎してあげようと、近隣の若手事業者と協力して5月に歓迎パーティーを開きました。市が学校誘致に頑張って取り組んできたことはもう10年以上前から知っているので、一連の経緯についてきちんと説明してほしい気持ちはありますが、同時に学生さんを最大限歓迎したいとも思っています」と、早くも四国の「お接待精神」を発揮させていた。
こうした光景を眺めていると、全国規模で展開される「報道」と、我々地元民の「肌感覚」との間に、大きな乖離が生じているという思いをどうしても禁じ得ない。この乖離を知らずにただ高所からの批判を繰り返しているだけでは、問題についての理解も不十分になってしまうのではないか。
では、実際のところ、岡山理科大学獣医学部とはどんな学校なのか。大学の校舎はどのようなもので、そこで学ぶ学生や勤務するオトナたちはどのような思いを抱えているのか。その一端を知るべく、同校に直接足を運んでみることとした。
オープンキャンパスに行ってみた
足を運んだのは、8月25日・26日に開催された「岡山理科大学 今治キャンパス」のオープンキャンパスだ。
正門を入ると、岡山理科大のキャラクター「たんQ(キュー)くん」が出迎えてくれる。この雲のようなフォルムは、興味と関心がモクモクと沸き立つ姿を表現したそうだ。受付では、たんQくんポロシャツを着た学生とおぼしきスタッフさんたちが、クーラーボックスでキンキンに冷えたペットボトル飲料をはにかんだ笑顔で手渡してくれた。飲み物はスポーツドリンクやお茶など3種類から好きなものを選べる。やっぱりこの少子化時代、オープンキャンパス来訪者へはおもてなしも手厚いようだ。
当日はスタンプラリーが開催されており、校内に設置された“札所”のスタンプを10個集めると記念品がもらえたらしい。先着150人ということだったが、筆者が訪れたのは2日目であり、すでに看板は役目を終え、受付の隅に片づけられていた。
長いウッドデッキを渡って校舎を目指すと……
敷地の中心には、カフェテリアのような中庭が広がっている。こんなオシャレ空間なら、学問だけでなく恋も楽しめそうだ。奥に建設中なのは、来年度末に完成予定の大講義棟。向かって左は、食堂や図書館などを備えた管理棟である。
甲子園球場約4.4個分、約17万平方メートルの敷地には、筆者が見た範囲だけでも、見学者のグループが5〜6組分散して歩いていた。高校生らしき子どもと母親という組み合わせが圧倒的に多いが、近所の人とおぼしき中年のカップルもいる。彼らの目に、このキャンパスはどう映っているのだろう。
管理棟からは、瀬戸内海の多島美が望める。
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