もはや「結果は見えた」とされる自民党総裁選、そして頻発する自然災害。世間がそれらを注視している間、あの学校法人加計学園が運営する「岡山理科大学 獣医学部」のオープンキャンパスが行われていたことをご存じだろうか。
同学部新設の文部科学省による認可の経緯に、安倍総理への“忖度”が疑われたことは周知の通り。しかし、政治的な部分ばかりがクローズアップされて、すでにこの4月に開校を迎えたこの大学の現地の様子が知られないままなのは、報道として偏ってはいないだろうか。
何はともあれ、実際に見に行ってみよう。筆者は、同校の校舎が建設された愛媛県今治市の住民である。そこで、8月25日と26日に開催されたこのオープンキャンパスに実際に赴き、前編では甲子園球場約4.4個分、約17万平方メートルの広大な敷地の様子をレポートした。
この後編ではいよいよ建物の中に入り、獣医研修の場でもある「獣医学教育病院」や学食のランチ、図書館など、そしてそれらを見学に来ていた高校生たちの様子を報告したいと思う。
馬や牛など大型動物ウエルカムの「獣医学教育病院」
生き物好きの筆者が何より楽しみにしていたのが、「獣医学教育病院」の見学だ。
動物病院は5階建て。写真の建物は主に犬猫などのペットを診る病棟で、今年の4月に開院したとのこと。左に見切れて建設中なのが、馬や牛など「産業動物」専用の病棟。
角度を変えて眺めると――右の犬猫病棟より敷地が狭いようにも見える。大型動物は基本的に往診で対応するということなのだろうか。産業動物の病棟は、2019年4月には開院するらしく、来年のオープンキャンパスで中を見学できる可能性もあるとのことだった。
実はこのキャンパスの近くには、今治市が誇る、小さくてカワイイ日本在来馬「野間馬(のまうま)」と触れ合える「のまうまハイランド」がある。また数年前からは、市内の島しょ部では、除草のための使役動物としてヤギを飼おうという活動も始まっている。イノシシなどジビエ肉への民間の取り組みも盛んだ。
……ということは、ここに研究拠点である獣医学部が加わることで、今治の「動物カルチャー」がさらに盛り上がるのではないか。タオルや造船の次は、アニマルでしょ! なんて期待したりして。
すでにこの日、島しょ部でサラブレットの馬を飼っている馬愛好家の夫婦が情報収集に訪れており、「偶然、JRAの馬を診ていた獣医に相談することができた」と、喜びと心強さを語っていた。
やはり「ペット獣医」希望の学生は多い?
そして、いよいよ病棟の中を探険できる「獣医学教育病院見学ツアー」が始まった。よし、じゃんじゃん写真撮ったるでーと意気込んだのもつかの間、「中での撮影はご遠慮ください」と断られてしまった。
というわけで、読者のみなさまにおかれましては、想像力をたくましくしてお読みいただきたい。
正面玄関の自動ドアを入ると、受付兼待合室のロビーの空間。人間の総合病院とほぼ変わらないつくりだ。オフホワイトの空間に、いろいろ動物のシルエットがデザインとしてあしらわれていて、心を和ませる工夫がされている。まぁ、和むのは人間側ですけど。
こんな感じの洗練されたシルエットが、個室のドアなどを飾っている。
ツアーの案内人として内科の先生が一人つき、診察室やレントゲン室などがある1階と、オペ室のある2階に連れていってくれた。機材も人間と同じものらしいが、やはり犬猫に合わせてサイズはコンパクト。なぜかオリンパスの箱が山積みになっていたので先生に質問すると、医療器材は内視鏡などレンズを使ったものが多いので、カメラメーカーが手掛けるのは自然なことなのだとか。(カメラマンもなりわいとしている筆者としては、手術台にライカのロゴを発見したときは、心の中で小躍りした)
同校の自慢は、3部屋あるオペ室の照明に中継カメラが設置されていること。手術中の患部の映像は複数の教室に転送され、一度に100人以上の学生が見ることができるそうだ。「この規模で視聴ができる私立大学は、私の知る限りほかにありません」と先生は力強く語る。
ちなみにこの見学ツアーには、どんな人がやってきているのだろう。
筆者が参加した回には、筆者以外に5組の参加者があった。そのうち4組が母親同伴の高校生で、単独で来ている女子高生が1人。進学先を選びにきているのだ。
高知県から母親と来たという女子高生に、「将来はどんな動物が診たいの?」と聞いたところ、「イヌなどのペットがいいです」と目を輝かせる。まだ受験生ではないが、部活が忙しいので1、2年生のうちから親子でいろいろな学校を巡っているのだそう。お母さんに「親御さんも大変ですね」と水を向けると、「そうなんですよ。ほら、獣医になってもねぇ、勤め先があるかわからないでしょ……」と表情を曇らせた。我が子の夢は応援したいが、将来が心配ということらしい。
同学部1年間の学費は、獣医学科で約250万円。卒業までの6年間となると、単純計算で計約1500万円となる。その他、教材や一人暮らしの生活費なども含めれば、倍に跳ね上がることもあるだろう。場合によっては、家族の運命をも左右しかねない。親の同伴は過保護などではなく、投資先を見極めるためといっても過言ではないのだ。
「帰国子女が受けられる獣医学部は限られているので、ここも選択肢に入れています」という単身参加の女子高生にも、先ほどの子と同じように診たい動物を聞いてみる。案の定「イヌとかネコです」という答え。さらに彼女はその後、先生に「ハムスターとか、もっと小さい動物は来ますか?」と熱心に質問していた。
うーん、ここでもやはり、大型の家畜は人気がないのだろうか。
確か獣医学部新設のお題目には、「家畜などを診る公務員獣医の育成」もあったはずだ。福岡で開業する40代の男性獣医は、業界全体で見ればすでに獣医は飽和状態だと語る。
「問題は、都市部に小動物系の開業医が集中して、過当競争になってしまっていること。むしろなり手が少ないのは、仕事がハードな家畜系の獣医や、成功した開業医などに比べればどうしても給与が安めの公務員系の獣医です」
学生たちに、地方での開業や、家畜系、公務員系獣医のやりがいを伝え、それらをなりわいとして生きていくための「道しるべ」をつくっていけるかどうかは、この岡山理科大学獣医学部の大きな課題になっていくのかもしれない。
学食人気ランチは、今治のご当地グルメ「せんざんき」
いやいや、マジメな考え事をするとお腹が空きますね。というわけで、学食へGO!
訪れてみるまで知らなかったが、オープンキャンパスの参加者には、学食が無料で食べられるという特典が付いていた。今の大学ってこんなにサービスいいの!? これがもしモリカケ問題の汚名払拭策だとしたら……ああ、難しいことを考えるのはやめておこう。
メニューは、とんかつ定食やラーメンなど6種類から選べたが、男性スタッフのイチオシは、今治の郷土料理「せんざんき」の定食。せんざんきとは鶏のから揚げのことである。ネーミングの由来は諸説あってはっきりしないが、今治の街には至る所に焼き鳥屋さんがあり、鶏肉文化が根付いている。迷わずせんざんき定食をオーダーし、券売機のチケットのようなものを受け取った。
学食への階段を上る見学者たちは、心なしかウキウキしているように見える。
食堂は、できたばかりだからか、張り紙などの少ないシンプルな空間。13時を回っていたので、人もまばらだ。
小鉢が選べる「せんざんき定食」!
鶏肉はとっても柔らかくてジューシー。アツアツの衣にレモンを搾ってかけると、ビールが欲しくなる……が、ここは学びの場なので、我慢しましょう。
カウンター席からの眺めは、リゾート地並みに抜群だ。
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