政治・社会

消費増税は「予定通り行っていく」べきではない いま解決すべき問題は増大する社会保障費にある

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写真:つのだよしお/アフロ

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 来る20日投開票予定の自民党総裁選であるが、その論戦は活発なものとはいい難い。なかでも経済政策における論戦が活発にならない理由のひとつが、消費増税を巡る安倍晋三首相と石破茂氏の立場だろう。差し迫った経済政策の課題である消費増税に関して、両候補者の見解に隔たりは小さい。今月10日に行われた自民党総裁選共同記者会見で、安部首相は来年10月からの消費増税を予定通り実施すると言及し、一方の石破氏も各所で予定通りの増税の必要性を訴えてきた。

 増税が景気にとってマイナスであることは言を待たない。当然生じる増税のダメージを軽減するために、14日に行われた党首討論で安部首相は、「車や住宅など耐久消費財は様々な対応をしていきたい。商店街や中小企業、小規模事業者などは目配りしていく。大きな反動減にならないようきめ細かい対応をしていきたい」としている。ここに大きな問題がある。増税前の駆け込み需要と増税後の反動減への対応は必要だ。しかし、消費増税の影響は一過性のものではない。ここで2014年4月に行われた消費税率の5%から8%への引き上げ前後の消費動向を見てみよう。

出典:総務省『家計調査』

出典:総務省『家計調査』

 オレンジ色の線に注目して欲しい。増税直前・直後の駆け込みと反動を除くと、実質的な消費が約3%減少していることがわかるだろう。

 3%増税になるということは約3%実質的な所得が減少するということだ。増税そのものが恒久的な措置である。つまり半永久的に所得が下がるのだから、消費の減少もまた一時的なものであるはずがない。消費増税のショックは一時的な反動減への対策ではなく、経済成長によって消費水準が増税前の水準に回復するまで継続的に行われなければならない。少なくとも増税後数年間は、消費税収と最低でも同額の経済対策を継続する必要がある。

 増税してもそれと同額の経済対策を行うべきだ……とすると、そもそも増税もせず、増税に対応した経済対策も行わないでよいのではないかと感じる方もあるかもしれない。実際、筆者もまた、さらなる消費増税は時期尚早であると考えている。しかし、このように主張すると、「1000兆円を超える公的債務はどうするのだ」、「財政再建は待ったなしである」との批判する人もいるだろう。

 しかし、基礎的財政収支(国債関連を除く政府歳入と歳出の差、プライマリーバランス)は、2013年度以降は改善傾向にある。税収面でみても、国税収入は2011年度の約42.8兆円から2018年度予算では約59.1兆円に、地方税収は約35兆円から約41.5兆円に増加と、あわせて24兆円近くの増収となっている。ちなみに24兆円の増収のうち消費増税による部分は9兆円ほどであり、企業業績の回復や資産価格の下げ止まりによる増収分の方が大きい。安倍政権発足以降、財政再建はゆっくりと進んでいる。そして財政再建は消費増税のみによって行われるものではない。むしろ景況の悪化によって税収が減少することに注意すべきである。

 そもそも、日本の財政状況はなぜかくまでに悪化してしまったのか。かつて無駄な公共事業や非効率的な行政システムを槍玉に挙げる議論が目立った。しかし、日本の財政が苦しいのは公共事業が多いから……ではない。むしろ、公共事業は2000年代以降減少が続いており、建設業界の収縮が公共事業を増大させようとしてもそれだけの事業を引き受ける人的・設備的余裕がないという状況に至りつつある。

 平成2年から平成30年度末にかけての、現在の国債残高の増加は711兆円となる見込みだが、その増加原因の内訳は社会保障関係費によるものが約300兆円、税収減によるものが約200兆円である。ちなみに公共事業によるものは58兆円分にすぎず、それもほとんどが1990年代に生じたものに過ぎない。税収は順調に回復を続けている。すると、いま解決すべき財政状況悪化の主因は社会保障費――なかでも大きなウェイトを占める年金・医療・介護ということになるだろう。

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 税収減によって生じた財政の悪化を税収増によってカバーするという方法に異論はないだろう。一方、社会保障費の増加によって生じた財政悪化について増税でまかなうという主張は自明のものではない。年金を受け取ることが出来るのは一定期間年金保険料を納めた者だけである(免除・軽減の措置はあるがその分支給額が減る)。公的医療保険・介護保険も同様に、保険料の支払いに対してサービスの支給が行われる。一方で日本国内に住んでいる以上、税金、なかでも消費税から逃れるすべはない。

 高齢化によって社会保障費がかさむ、それに対してなんらかの収入を確保する必要があるという主張に誤りはない。しかし、日本国内の全ての人・組織からあつめた税金によって、社会保険料を納めた人向けのサービスを維持すべきだと主張するのは困難ではないだろうか。

 景況改善により税収が回復する中、今求められる財政再建の手法は社会保障制度改革であるはずだ。社会保障に関して、ある世代が負担した金額と支給額や受益した差サービスがバランスするように――例えば、年金では金銭的な損得の分かれ目が平均寿命に近づくように改革を行う必要がある。急速な少子高齢化の進行のなかでは、社会保障に関する会計は確かに赤字が続くだろう。しかし、各世代(例えば1975年生まれ)のなかで損する人・得する人がバランスしていれば、長期的には社会保障による他世代への追加的な負担は最小限に抑えられる。すでに高齢者となっている世代への支給を国債によって行い、徐々に世代で独立した社会保障制度へと移行していくべきだ。この改革は団塊ジュニア世代(1970年代前半生まれ)が40代のうち……つまりは今はじめる必要がある。

 今次の自民党総裁選においても社会保障改革は議論の対象となっている。投開票までの期限は迫っているが、両候補から政権与党の総裁選にふさわしい、具体的かつ実効性のある提案が出ることを期待したい。

飯田泰之(いいだ・やすゆき)
1975年東京生まれ。エコノミスト、明治大学政治経済学部准教授。東京大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。著書は『ゼミナール 経済政策入門』(共著、日本経済新聞社)、『経済学思考の技術』『歴史が教えるマネーの理論』(ダイヤモンド社)、『ダメな議論』『経済学講義』(ちくま新書)、『日本がわかる経済学』(NHK出版)、『これからの地域再生』(編著、晶文社)など多数。

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