産後の自殺防ぐ 母乳神話に捉われない育児で気持ちにゆとりを

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Thinkstock/Photo by Andrii Yalanskyi

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 国立成育医療研究センターの研究チームは9月5日、2015~2016年の2年間に死亡した妊産婦357人の死因のうち、自殺が最多の102人もおり、全体の3割を占める結果だったと発表した。以下、がん(75人)、心臓病(28人)、脳神経疾患(24人)と続いた。自殺が最多となった要因には、出産から間もない時期に発症するうつ病“産後うつ”が影響しているという見解も示している。

 胎内で人間(体にとっては異物)を一人育てることは容易ではなく、女性は妊娠中~産後で見た目が変化するだけでなく、ホルモンバランスが大いに乱れて心身に不調を来たす。のみならず、「完璧な子育てをしなければ」というプレッシャーを抱え込み、メンタルヘルスを崩すこともあるだろう。そのプレッシャーのひとつに、赤ちゃんを母乳で育てなければいけないという「母乳神話」がある。

授乳は産後一番の悩みの種

 鳥取県福祉保健部子育て王国推進局子育て応援課が、鳥取県内に在住の0歳から1歳の子どもがいる母親を対象に実施した「産前・産後ケアに関するアンケート調査報告書」によると、「産後、育児に関して困ったことや辛かった点」を聞くと、「授乳のこと」(59.7%)が最多で、2番目に多かった「育児に慣れない感じで戸惑った」(38.1%)を大きく引き離す回答率だった。授乳がいかに、出産直後の女性に不安を与えているかがわかる。

 また、「産後の体調面・精神面の不十分でなかった点」では、「睡眠が十分に取れなかった」(55.4%)が最も多かった。しかし母乳育児にこだわらずミルクを併用すれば、夜間の授乳などを別の家族に任せてまとまった睡眠をとることも可能だ。もちろんそのサポートをする家族がいれば、の話だが……。

 子育て情報メディア「こそだてハック」が母乳育児経験のある女性589人を対象に実施した母乳に関する調査では、「母乳育児中、食事の内容に気をつけていましたか?」という設問に、「とても気をつけていた」(14.1%)、「やや気をつけていた」(54.6%)との回答が。7割近くの女性が、授乳期間の食生活に気を使っていたことがわかる。

 もちろんジャンクフードや揚げ物などに極端に偏った食生活や、ろくなものを食べることのできない状況にあっては、母乳にも母体そのものにも悪影響かもしれない。しかし「母乳の出が悪くなる」「味が悪くなる」といった理由で脂質や甘いものを制限するような指導をする助産師や医療関係者も世の中にはおり、必要以上に神経質になってしまっている母親もいるだろう。

母乳育児は選択肢の一つ

 母乳育児のみにこだわり母子を追い詰めることはあってはならないが、一方で母乳育児をする女性は増えている。厚生労働省が2016年に発表した「2015年度乳幼児栄養調査」では、母乳のみで赤ちゃんを育てる保護者は、生後1ヶ月(51.3%)、生後3ヶ月(54.7%)とどちらも5割を超えた。

 前回実施した2005年では、生後1ヶ月(42.4%)、生後3ヶ月(38.0%)だったため、10年で10ポイントも上昇したことになる。5割を超えたのは、1985年度の調査開始以来初めてだという。

 ただ、母乳とミルクの混合、あるいはミルクのみでの育児も、決して子どもにとって有害にはならないことだけは、共通認識として持っておきたい。また、「母乳では補えない栄養素を、粉ミルクでは補える」という指摘もある。

 母乳育児が唯一の正解で、それ以外は邪道だとか「母乳で育てなきゃ子どもがかわいそう」といった非論理的な思い込みは、たとえ悪気がなくとも、育児に携わる人を神経質にし、よからぬ影響を与える。

 「母乳で育てるかどうか」は個人の選択の問題である。誰かに押し付けられるのではなく、自分の意志で子育てを選択できる社会にしていきたい。

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