政治・社会

自意識・実存から食うことへ 敵の見えない世の中を変えていくには…/西森路代×ハン・トンヒョン

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『ワンダー・ウォール』公式サイトより

近年の日本・韓国映画を参照しながら、日韓両国の政治や歴史、社会について、ライターの西森路代さんと社会学者のハン・トンヒョンさんに語り合っていただいている本対談(全2回)。前編では、日韓両国の「悪」の描かれ方について、今年日本で上映された『タクシー運転手』が生み出された背景と大ヒットした理由についてなどをお話いただきました。後編からは、「どっちもどっち」にしがちで、悪を悪として描くことの少ない日本映画や、ドラマやドキュメンタリーなどの可能性、さらにはロスジェネ世代についてまで、様々な話題を取り上げています。『ワンダー・ウォール』、そして『シン・ゴジラ』の持つ可能性とは?

権力に切り込む韓国映画、権力を取り込む日本映画/西森路代×ハン・トンヒョン

勝手に自主規制の国・日本

西森 『トガニ 幼き瞳の告発』をみてると、よく自分の国の知られたくないだろう事実をあんなにちゃんと真摯に描けるなって思いますし、その表現がなぜできるんだろうと、羨ましいと思うところでもありました。

ハン 前編で話したことだけど、『タクシー運転手』も『1987、ある闘いの真実』もそうだよね。羨ましいと言われると微妙な気もしますが、あの時代に戻らないように頑張っているし、頑張ってきたからじゃない?

西森 そうだと思います。反対に「恥なんてない! われわれは素晴らしい!」っていうのは、そこから前に進めない気がして。というか、前に進めないどころの騒ぎじゃないと思うんですよ。

ハン 他の国のことはわからないけど、たとえばアメリカだって、黒人差別とか普通に描いてるよね。

西森 台湾は難しいというのを、記事で読んで納得したことがありますが、過去の一時代を切り取って、清算して描くって本当に難しいことなんだと実感します。

ハン もしかすると南北分断と同じようなことで、描こうとすると大陸を利することになるという状況があったりするのかな。そういう意味なら、韓国も90年代以降にようやくできるようになりましたから。80年代までだと政権批判をしたら捕まっちゃうし、それは北朝鮮を利するというロジックにされてしまう。単に「ここは駄目だ」って言っているだけなのに。

西森 日本はまたその状況とも違いますよね。

ハン 自己規制の国だからね。敵なんていないのに。

西森 そう。敵がいないから見えないということもあるし。とにかく、敵がなんなのかが見えないというのは、「日本」というものを描くときにとても大切なテーマだなと思います。でも変わりつつあるのかなとも思うんです。韓国で2007年に実際に起こった、スーパーで働く中で、不当解雇に抗議する人々を描いた『明日へ』(2014年)を見たとき、労働問題でここまで抗議できる人たちがいるなんてすごい、日本ではそんなことはありえないんじゃと思ってたんですけど、いまは日本でも労働問題があれば、デモをするようになりました。『タクシー運転手』をみんなが見に行くようになるくらいの変化がある。フェミニズムの話を毎日ツイッターで見かけるようにもなってますし。

ハン 過労死で亡くなった人の遺族が声をあげたり、性犯罪や女性差別にかかわる事件が可視化されるようになってきたからね。とはいえ、変わりつつあるのかどうかについて、私は正直疑問もあるけど……。でも、西森さんがそう言うならそうなのかもしれないし、前向きにはとらえたいと思います。

テレビにこそ可能性がある?

西森 テレビドラマは映画よりは少しだけ進んでいるんですよね。

ハン フェミニズム的なことをやっていた『逃げるが恥だが役に立つ』(TBSテレビ、海野つなみによる原作漫画は講談社)もテレビドラマだもんね。

西森 他にも『99.9』(TBSテレビ)とか、『逃げ恥』と同じ脚本家の野木亜紀子さんの『アンナチュラル』(TBSテレビ)は、法律の話でもあるので権力の腐敗に対する疑問が描かれていました。『99.9』の場合、清濁併せ呑む感じの終わり方ではあったんですけど、それはまだシリーズが続くからなんだと思います。

ハン でもそれって前編で話していた『孤狼の血』のどっちもどっちっていうのと同じなんじゃないの?

西森 『アンナチュラル』や、前編でも触れた『ワンダー・ウォール』(NHK)はそんなことないんです。もしも、ぬるいと思われるのであれば、それが日本の敵が見えない現状がそのままに描かれているからで、そこも含めてのリアルだし、問題提起だと思います。『ワンダー・ウォール』は、最後に視聴者に考えることを投げかけているんですが、それは「どっち?」という投げかけ方ではなく、現実にも考えないといけないことがありますよね。ちゃんと考えないと、民主主義的な手段を奪われる可能性もありますよ? という問いかけだと思いました。けっこう切実だと思います。『アンナチュラル』も『ワンダー・ウォール』もドラマですけど、映画ではこうした社会的な問いかけのあるものは少ないんですよね。

ハン かつて、ドラマはスポンサーを気にするし大衆に見てもらわないといけないから政治的なことは出来ないってイメージがあったように思うけど、いまの日本はむしろ逆だってこと?

西森 うーん、どうでしょう。テレビって、特にNHKはドキュメンタリーが近くにあって、プロデューサーもかつてはドキュメンタリーの人だったということもあるんです。そのことが問題提起のあるテーマを選ぶことに関係あるのではなかろうかと。

ハン たとえば『逃げ恥』とかでフェミニズム的なことを盛り込もうとした場合、偏ってるとかいってスポンサーからストップがかかることはないの?

西森 『逃げ恥』は、前回のハンさんとの対談のときにも出た話ですけど、何層にもなっていて、表向きは、ムズキュンのラブストーリーなので、フェミニズムが描かれていると気づかない人には気づかれないというか、表現の仕方がうまかったと思います。先日『ワンダー・ウォール』のイベントで渡辺あやさんも「重いテーマを見せるためには、段階をおわないと」と言われていました。じわじわと見せて最後に到達するというのでないと、拒否反応があるんじゃないですかね。

ハン じゃあドラマが舐められているっていうのは? たとえば視聴率が取れそうなスターが出ていればスポンサーもOKを出す、みたいな。

西森 視聴率がとれるならなんでもいいってスポンサーが考えているってことですよね。そこを逆手にとることはできると思います。企画書の段階では、ヒットする要素をたくさん入れておく。キャストや今時の話題や、医療、刑事など、ある程度、視聴率の約束できるキーワードをちりばめて、脚本には、ちゃんと社会的なことを入れていく。骨が折れますが……。ドラマって視聴率に危機感を持ち始めて、変わろうとしている人もいるんじゃないかという空気を感じています。特にフジテレビと関テレのドラマのテーマ設定はすごく社会的になりました。今、テレビでは、真摯で硬派なテーマが求められていて、それが数字に出ているという記事も見かけました。

ハン なるほど。あまりドラマは見ないんですけど、山田太一とかの時代のドラマってすごかった記憶があるんですよね。親がそういうドラマを見る人だったから、小中学生のときに一緒に見てたんです。社会性もあって面白い、大人のドラマがいっぱいあったイメージ。でもトレンディドラマ時代に、そういうドラマがあまりなくなって、韓ドラに視聴者を取られて……。最近また日本のドラマも盛り返してきた感じなのかな?

西森 視聴率はそこまで盛り返してはいないけど。ただ、ドラマ好きは増えているし、ドラマ批評、ドラマレビューの需要はものすごいあります。

ハン レビュー需要については、ネットメディアのコンテンツ需要の問題もある気がするけど。あとみんなが批評を読みながら見る、的な見方の変化。それはさておき、「相棒シリーズ」もときどき政権批判みたいな踏み込んだことやるようだし、やっぱり日本は映画よりドラマなのか?

西森 映画も、ドキュメンタリー映画はけっこう変化していてニュースにもなってますが、それもテレビ局から始動しているという側面もありますしね。ここ3年くらいテレビドキュメンタリーを見ていて気付いたんですが、半年ごとにテーマの傾向って変化してるんですよね。一昨年はバスの事故とか労働問題、去年はフェイクニュースやトランプ政権、そしてインパール作戦などの戦争ものなどが目立ちました。インパールは去年、朝ドラ『ひよっこ』でもやっていました。今年『検察側の罪人』を見たら、インパール作戦の話題が出てきたんですが、ドキュメンタリーや朝ドラをみていたおかげでインパールが無茶な作戦ということが共有できていて、役に立ちました。

ハン さすがに「日本ヤバい」ってなってきているからか?

西森 真剣さが違ってきてる気はします。

ハン ただドキュメンタリーはドラマより見る人が少ないよね……、ゲリラ戦っぽい。かつてNHKが弾圧されたみたいに、いずれ潰されちゃうかも。

西森 NHKは、ここ1年はいいドキュメンタリーがたくさんあったと思います。今年も終戦記念日前後のNスペはすごく力が入っていました。あとは、地方局にもちゃんと問題意識を持って作っている人がいます。ある意味、見る人が少ないけれど、テレビの責任としてやっていかないといけないということで、良質なものがあるのかも…。

ハン 「南京事件」を取り上げた日本テレビの清水潔さんとかね。やっぱり日本は映画じゃなくてテレビなのか。

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西森路代

ライター。1972年生まれ。大学卒業後、地方テレビ局のOLを経て上京。派遣、編集プロダクショ ン、ラジオディレクターを経てフリーランスライターに。アジアのエンターテイメントと女子、人気について主に執筆。共著に「女子会2.0」がある。また、 TBS RADIO 文化系トークラジオ Lifeにも出演している。

twitter:@mijiyooon

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