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虐待児だったオレを救ってくれたのは、右翼の先輩たちだった

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――虐待を受けた「わたしたち」に残ったものとは? よじれてしまった家族への想いを胸に、果たして、そこに再生の道はあるのだろうか。元・被虐待児=サバイバーである筆者が、自身の体験やサバイバーたちへの取材を元に「児童虐待のリアル」を内側からレポートする。

【本記事は、「サイゾーpremium」にて2018年4月28日に掲載された記事を転載したものです】

連載第5回「“元右翼のデコトラ運転手”編」

 これまで、女性のサバイバーたちに会って話を聞いてきた。ずっと疑問に思っていたのは、同じ虐待でも「男の子が背負うもの」は、また違うのではないかということ。「男子たるもの強くあるべし」という信仰は薄れてきたにせよ、理不尽なかたちで屈服させられることへの抵抗感は大きいのではないだろうか。

 そんな疑問に応えてくれたのが、65歳のトラック運転手「マサやん」(仮名)だった。“YAZAWAのデコトラ”に乗り込み、全国どこへでも颯爽と走る。日焼けした肌に鋭い眼光、スチールブラシのようにビシっと生えそろったグレーの短髪と髭が、いかめしさに拍車をかけている。曲がったことが大嫌いな性格。最近始めたSNSの使い方にしても、「初めにあいさつもなしに、いきなり内容を投稿するなんて礼儀がなっとらんよね。『おはようございます』『こんにちは』は、人として基本でしょ?」と、憤慨する。

 規律に厳しい一方で、愛犬にはめっぽう弱い。去年から保護犬として柴犬を迎え入れ、溺愛の結果、「ほんともう、ぶくぶく太っていくだけだよー」と苦笑いをする。マサやんとはこの連載をきっかけに知り合った。読んだ感想をフェイスブックに投稿してくれたのだ。

中2のとき、継母の頭をゲタで叩き割った

 マサやんの左手の中指は、指先が平たくつぶれている。

「3歳頃に、母親が『泣き声がうるさい』って石でつぶしたんだって。自分の指がなんでこんなに変な形なのかずっと疑問で、ばあちゃんにしつこく聞いて教えてもらったのね」

 生まれは大分県の片田舎。高度経済成長の前夜で、町にはまだこれといった産業がなく、父親は「木こり」として生計を立てていた。マサやんが生まれてすぐに両親は離婚。彼を引き取った父は3年後、子連れの女性と再婚した。中指をつぶしたのは、この継母である。父や祖母に隠れてマサやんの食事だけを極端に減らすなど、自分の子と差別し続けたという。

「買ってもらえるおもちゃにも差があってね。弟たちが立派なプラモデルだとしたら、オレはお菓子のおまけみたいなちゃっちいやつ。子どものうちは、ただただ悲しかった」

 父親の暴力が始まったのは、中学に上がってから。その頃父は、木こりからミシンの訪問販売に転職し、ストレスが溜まっているようだった。しかし、実家が裕福だった後妻のおかげで母屋の建て直しができたこともあって、そちらには頭が上がらない。連れ子にも気を遣っていたため、ストレス発散の矛先はマサやんひとりに向いた。

 1960年代といえば、東京オリンピックや新幹線開通、車・クーラー・カラーテレビの普及、ミニスカートブームなど、庶民の生活習慣が目覚ましく変化した時期。しかし地方では、その急激な社会変化についていけない人たちがいて、そのしわ寄せが家庭生活にも現れていたのではないだろうか。

 それまでなんとか耐えていたマサやんの糸が切れてしまったのは、中2の冬のこと。

「朝いきなり父親にたたき起こされて、真っ裸で納屋の柱に荒縄でくくられて、氷が張っているドラム缶の水をバシャバシャぶっかけられたんよ。庭には霜柱がびっしり張ってて、寒い日だった。『やめてー』って叫びよったと思うけど、身体が冷たくなって意識が薄れて、『あぁ、死ぬのかな』って思ったよ。裸で恥ずかしいとか、それどころじゃなかった」

 その数日後、マサやんは継母との言い争いから、とっさに近くにあったゲタで頭を殴ってしまう。母は血まみれになり、すぐに救急車と児童相談所の職員が来たという。頭蓋骨は割れていた。

「実はオレが柱に縛られてたとき、近くで見ていた母親がオレを見てニカッと笑ったんだよね。殴ったときは頭が真っ白でよく覚えてないけど、もしかしたらその笑顔が浮かんだのかもなぁ」

 現在でも、家庭内暴力のニュースは後を絶たない。「ゲームのやり過ぎを注意されて母を刺す」「成績不振をなじられて両親を殺害」などの事件が、「キレる子どもの恐ろしさ」として紹介されることが多いが、果たしてそれだけが理由だろうか? 引き金となるのは些細なことでも、背後にはマサやんのような深い哀しみと屈辱の歴史が広がっているのかもしれない。

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帆南ふうこ

1980年生まれ。世界で一番緊張する場所が「家の中」だった虐待サバイバー。ここ数年はライターとして、サバイバー仲間に取材をしながら親交を深めている。「虐待がフランクに語られ、被害者も加害者も相談しやすくなる世の中」を野望に、日々種まき中。

twitter:honami_fuko

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