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ドラマ『dele』が描いた和歌山カレー事件の“気持ち悪さ”

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『dele』公式サイトより

 今クール、「金曜ナイトドラマ」で放送されていた『dele(ディーリー)』(テレビ朝日系)。スタッフ、キャストの顔ぶれを見れば納得の、質の高いドラマだった。

 坂上圭史(山田孝之)が運営する「dele.LIFE」(ディーリー・ドット・ライフ)は、依頼人の死後、パソコンやスマホに残る「デジタル遺品」を、内密に削除するサービスを行っている。

 坂上は、依頼人の人生に立ち入らない主義で、依頼人の死を確認すると機械的に「デジタル遺品」を削除しようとする。それに対し、坂上に雇われている真柴祐太郎(菅田将暉)は、「デジタル遺品」から依頼人の思いを汲み取ろうとする。2人の間には毎回、摩擦が起こり、その結果、思いがけない真実が浮かび上がってくる。

 9月7日放送の第7話は、依頼者笹本隆(西ヶ谷帆澄)の自殺から始まる。隆は、8年前に毒物混入事件を起こし、死刑囚となった笹本清一(塚本晋也)の息子だった。

 毒物混入事件は、小さな町のバザー会場で起こった。ウォータークーラーのジュースに青酸化合物が混入されており、それを飲んだ28人が次々と倒れ、うち4人が亡くなった。笹本清一は、以前に毒物混入事件を起こしていたことから疑われ、逮捕される。取調べ中に自白するものの、裁判で自白は強要されたものであると主張する。しかし死刑が確定し、現在は無実を叫びながら拘置所にいる。

 おそらくこの設定は、1998年に発生した「和歌山毒物混入カレー事件」がモチーフとなっている。夏祭り会場がバザー会場に、カレーライスがジュースに、ヒ素が青酸化合物に、林真須美(正しくは眞須美)が笹本清一に置き換えられたものだ。

 ドラマとカレー事件とで異なるのは、笹本は一度自白しているが、林真須美は一度も自白していない点である。また、笹本は過去に別の毒物混入事件を起こしたという設定になっており、林真須美も、カレー事件以前に知人にヒ素を盛ったとされているが、真須美の場合は、その知人が保険金目当てに自らヒ素を摂取した可能性がある。

 さて、死刑囚笹本清一の息子、隆が「dele.LIFE」に削除依頼をしたのは、動画だった。そこには、8年前バザー会場で、市会議員(千葉哲也)がウォータークーラーに白い粉末を混入する様子が映っていた。市会議員が真犯人で、笹本は無実だったのか、と思いきや、その後の坂本、真柴の調査で、市会議員以外にも、怪しい人物が、次々と浮上する。

 もともと容疑者は複数いたのだが、毒物混入の犯歴のある笹本が目をつけられ、いっきに犯人に仕立てられてしまったのである。

 カレー事件についても、当時の警察発表や報道を調べると、林真須美以外にも怪しい人物が複数いたことがわかる。状況証拠の積み重ねによって、「毒物を混入できたのは、林真須美しかいない」という結論が導かれたが、その後、状況証拠のすべてにほころびが生じている。

 動画を削除し笹本の冤罪の可能性を葬り去ることに疑問を呈する真柴に、坂本は、「(真実を)暴き始めればいろんなことが壊れる。(中略)あの削除依頼の映像を消せば、今までどおり笹本が犯人だということでこの件は終わる」と諭す。そこへ笹本の死刑が執行されたという連絡が入った。

 真柴が、「今まで調べたこと、全部裁判所へ持っていったらどうなる」と問うと、坂本は「間違いなく黙殺されるだろう」と答える。

「法の番人である裁判所がとりかえしのつかない過ちを犯したなんていうストーリーは、一番避けたいものだろうからな」。

 結局、真犯人が誰だかわからないまま、ドラマは終わる。真柴が吐き捨てるように言った「すっげー気持ち悪い」というセリフが、後味の悪さを象徴している。

 笹本清一は死刑執行されたが、林真須美はまだ執行されていない。彼女は「証拠が偽造・変造されたものであった場合」という再審の要件を満たしている。「とりかえしのつかない」ことになる前に、裁判所は再審を認めるべきである。

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田中ひかる

1970年東京生まれ。著書に『月経と犯罪 女性犯罪論の真偽を問う』(批評社)、『「オバサン」はなぜ嫌われるか』(集英社新書)、『生理用品の社会史 タブーから一大ビジネスへ』(ミネルヴァ書房)、『「毒婦」 和歌山カレー事件20年目の真実』(ビジネス社)など。

田中ひかるのウェブサイト

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