政治・社会

台湾「慰安婦」像足蹴事件は、右派団体による「歴史戦」のひとつにすぎない

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国連での「歴史戦」

 日本の右派は、左翼が国連を牛耳ってきたという認識を持っている。国連こそが「慰安婦=性奴隷」説を広め、日本政府に対して不当な勧告を出し続けたと理解しており、こうした状況を変えるためには、右派が国連に出ていかねばならないという認識を持っている。

 2014年7月、「慰安婦の真実国民運動」はジュネーブ国連自由権規約委員会に初めて国連派遣団を送った。山本優美子団長、細谷清事務局長(家族の絆を守る会FAVS、日本近現代史研究会)のもと、藤井実彦、トニー・マラーノ、藤木俊一、関野通夫(つくる会)、エドワーズ博美、仙波晃、大坪明子(そよ風)、GAHTの目良浩一夫妻という総勢十一人が団員だった。派遣団が日本に戻ると報告会を開催した。これ以降、「慰安婦の真実国民運動」の国連派遣運動が現在に至るまで続いている。

 その後も「慰安婦の真実国民運動」は、2015年7月、女子差別撤廃委員会の会期前作業部会(プレセッション)に代表団を派遣した際には20名が参加、さらに2016年2月、CEDAW第63回セッション(本セッション)への参加などと、ジュネーブでの国連会議への参加を重ねていった。2015年以降は、落選中だった杉田水脈氏が派遣団の一員として参加し、スピーチをするなど目立つ役割を果たした。(藤岡信勝編著『国連が世界に広めた「慰安婦=性奴隷」の嘘--ジュネーブ国連派遣団報告』(自由社2016年))直近では2018年8月に、人種差別撤廃委員会への派遣団を送っており、杉田水脈衆議院議員も同委員会には参加している。

 また、毎年3月にニューヨークで開催される国連女性の地位委員会(CSW)にも、「慰安婦の真実国民運動」関係者が参加するようになった。2015年3月、国連女性の地位委員会を「見学」参加し、現地での「GAHT」による記者会見などを行ったのが最初だ。その際、 「テキサス★ナイト in NYC」と題するイベントを開催し、藤井氏のほか、マラーノ、藤木、高橋史朗、山本優美子、鈴木規正(ニューヨーク正論の会)、幸福の科学ニューヨーク支部代表の木村公宣の各氏らが登壇した。イベントのチラシには、ニューヨーク正論の会、日本まほろば支援局、正しい歴史認識を訴える会、論破プロジェクトの共同開催で、協賛がHappy Science USAと記載されている。

 この集会は、日系人会館での開催が予定されていたが、地元市民やCSW参加中の運動家らによる集会への抗議行動が行われ、会場が直前にイタリアンレストランに変更された。また、12日には藤井氏らが登壇して「ニューヨーク★ナイト」と題したイベントも開催されており、日系フリーペーパー『週刊NY生活』の同イベントの告知広告には「ハッピーサイエンス主催」と書かれていた。これらイベントの開催についても、幸福の科学の役割が大きなことがうかがえる。

 2016年には、「GAHT」や「なでしこアクション」が主催となり、NGOのパラレルイベントを二度CSWで開催した。このうち「慰安婦は性奴隷ではない」と題したイベントには杉田水脈氏、目良浩一氏、細谷清氏が登壇。細谷氏が「あなたたちには日本人と韓国人や中国人の区別は付かないだろうが、日本人は弱者をいたわる。韓国人は溝に落ちた犬を叩く文化」などという発言を行い、他の登壇者も「慰安婦」の性奴隷性を否定する発言などを相次いで行なった結果、会場から「恥をしれ!」という声が飛んだという。また、再びこの時期に「テキサス★ナイト in NYC実行委員会」と「慰安婦の真実国民運動」の共催による「テキサス★ナイト in NYC」も行われ、マラーノ、藤木、藤井、山本、目良、細谷の各氏らが登壇した。

 このほか、人種差別撤廃委員会など国連の委員会へのNGOレポートをたびたび提出したり、2017年の登録を目指して2016年にユネスコ「世界の記憶」への「通州事件・チベット侵略」「慰安婦」の登録申請活動を行うなど、「慰安婦の真実国民運動」およびその参加団体は、国連活動に非常に力を入れ、歴史修正主義やレイシズム、セクシズムに基づく主張を発信してきたのだ。そして日本に帰国すると、記者会見や報告会を開き、それが産経新聞などの右派メディアで報道されるというパターンを繰り返してきた。

 先月10月9日にも、「慰安婦の真実国民運動」主催で、参議院議員会館において「国連人種差別撤廃委員会(CERD)参加報告会」が行われた。だが、台湾での事件を起こした後だったにも関わらず、それへの言及はなかった。そして、集会での「慰安婦の真実国民運動」の主張を産経新聞が報道するということもまた繰り返された。

アメリカでの「慰安婦」像や碑への反対運動

 「慰安婦の真実国民運動」関係者らは北米での「慰安婦」の碑や像を巡る反対活動にも関わってきた。同会結成の直接のきっかけとなったのは2013年7月のグレンデール市での少女像設立だったが、2014年2月、GAHTの目良氏らがアメリカ連邦地裁にグレンデール市を提訴したことで右派は盛り上がり、裁判報告などの名目で、日米で何度も「慰安婦」否定論に基づく右派の集会を開催。アメリカでは、2014年7月、ロサンゼルス近郊で目良氏、藤岡氏によるGAHT裁判報告会が開かれ、同年12月にはサンフランシスコ、ロサンゼルスで山本氏、藤井氏らが講師を務め「慰安婦問題に終止符を!!」と題した講演会が開催されるなど、主にカリフォルニアやニューヨーク近郊で集会が行われてきた。

 2014年12月のカリフォルニアでの集会の主催はTrue History (Yoshi)と書かれていたが、これは幸福の科学サンフランシスコ支部(当時)の田口義明氏のことだ。サンフランシスコでは公共施設での開催だったこともあり、平和運動に関わる地元市民らが中心となって抗議行動を行った。こうした講演会の会場をおさえるなどの役割を幸福の科学支部が果たしていたことも確認されている(小山エミ「アメリカ『慰安婦』碑設置への攻撃」山口智美、能川元一、テッサ・モーリス–スズキ、小山エミ『海を渡る慰安婦問題』岩波書店2016年)。

  また在米日本人右派は、「慰安婦」像の設置に関して、市議会での公聴会やパブリックコメントの場にも登場してきた。グレンデール市議会のほか、2015年、サンフランシスコで「慰安婦」像の新設に関する公聴会があった際には、GAHTの目良氏らや、幸福の科学の関係者も登場。目良氏が元「慰安婦」を眼の前にして罵倒し、カンポス市議から「恥を知れ」と言われた事件はその後広くネットに拡散された。ジョージア州ブルックヘイヴン市でも、少女像の除幕式の前日に開かれた市議会で、市民によるパブリックコメントの際に、マラーノ氏や幸福の科学アトランタ支部関係者らが登場して、少女像に反対し「慰安婦」否定論を展開する発言を行った(https://www.youtube.com/watch?v=4mX5mMcQtaU&t=1221s)。 この際、在アトランタ日本総領事館の大山智子領事も日本政府の立場について発言したことから、地元ブルックヘイヴンの市議によれば、日本政府が右派の仲間のように見えたという。

 このような経緯から浮かび上がるのが、海外での「慰安婦」問題をめぐる「歴史戦」への幸福の科学の深い関わりだ。台湾の事件の後、幸福の科学は「「慰安婦の真実国民運動」と幸福の科学は一切無関係です」と9月11日づけで声明を出している。だが「論破プロジェクト」や藤井氏との関係は否定していない。また、幸福の科学関係者が、海外での「歴史戦」活動に深く関わってきたことも、その中で「慰安婦の真実国民運動」関係者と協力しつつ動いてきたことも明白だ。

政治家や日本政府との関係

 2013年の設立以来、「慰安婦の真実国民運動」の関係者らは、国内外の様々な場で「慰安婦」否定論を主張し続けてきた。しかも、その主張には歴史修正主義やレイシズム、セクシズムが色濃く反映されており、注目を集めるためにネットなどでの炎上狙いの方法を使ってきた。さらに、それが産経などの右派メディアにも報道され、拡散されるという連続だった。その積み重ねの行き着いた先が、台湾の「慰安婦」像足蹴事件だと言えるだろう。

 「慰安婦の真実国民運動」系の目立つ動きの背後で、日本政府や、日本の姉妹都市関係者、国会や地方議員らが、「慰安婦」像や碑への反対運動を展開していたことは見逃せない。むしろ、「慰安婦の真実国民運動」の激しい主張に比べたらまともな主張に見えてしまうという効果も発揮してしまっていたのではないか。

 維新の会や次世代の党選出の国会議員時代に、グレンデールを訪れ少女像撤去を要求し、国会でも「慰安婦」問題に関して質問するなどしていた杉田水脈衆議院議員は、2014年10月、「慰安婦問題とその根底にある報道の異常性」と題する「論文」で、アパグループの「真の現代史観」懸賞論文の大賞を受賞。朝日の「慰安婦」報道が大バッシングを受けていた時期だった。同年12月の衆院選で落選した後は、「慰安婦の真実国民運動」の派遣団の一員として国連に行くなどの活動を行い、産経などで連載を持ち、青林堂などから著書も出すなど、右派論壇でも活躍するようになる。対談書の中では、「慰安婦像を何個建ててもそこが爆破されるとなったら、もうそれ以上、建てようと思わない。建つたびに、一つ一つ爆破すればいい」と、テロを教唆するような発言をするなど、「慰安婦」問題に関して過激な問題発言を繰り返してきた(河添恵子・杉田水脈『歴史戦はオンナの闘い』PHP研究所 p.141)。LGBTに関する論考が問題になった『新潮45』にも「慰安婦」問題に関する論考を複数回掲載している。こうした活動の結果、杉田氏は衆議院選で自民党からの中国ブロック比例単独候補となり、当選し、衆議院議員になったのだ。

 また、現在地方創生大臣をつとめている片山さつき参議院議員も、アングレーム漫画祭に関して藤木俊一氏と連絡を取り、藤木氏らの記者会見について「大使館もバックアップするように、伝えます」とブログで記すなどしており、YouTubeの「さつきチャンネル」でも、アングレーム漫画祭やジュネーブ国連人権委員会など「慰安婦」問題関連のテーマに関して、複数回、藤井氏や藤木氏を呼んで共に出演しており、近い関係ぶりがうかがわれる。さらに和田政宗参議院議員も、藤井氏や藤岡信勝氏と共著 『村山談話20年目の真実』(和田政宗、藤井実彦、藤岡信勝、田沼隆志著 イースト・プレス2015年)を出すなど、自民党の一部議員らと「慰安婦の真実国民運動」の関係者は蜜月関係と言ってよい状況にある。

 2017年2月には、日本政府が米連邦最高裁にGAHT裁判を支援する意見書を提出。また、2015年に日本政府は一時期、ユネスコ「世界の記憶」への南京大虐殺文書の登録に反発し一時留保したが、2017年5月にも再度、審査方法の見直しを求めると共に、日本軍「慰安婦」問題の資料審査の推移を見守るとして再び一時留保した。さらに同年6月、ジョージア州ブルックヘイヴン市の「少女像」設置をめぐっては、在アトランタ総領事の篠塚隆氏が地元紙の取材に答え「慰安婦」否定論を展開したほか、地元議員によれば、在アトランタ日本総領事館は翌2018年3月、公園での桜祭りの際に像にカバーをしろと要求したという。サンフランシスコの「慰安婦」像に関しては、大阪市が前任の橋下、現在の吉村市長ともに、同じ主張の長文手紙を何度も出し続け、今年10月には姉妹都市関係を一方的に打ち切り、世界の著名メディアで報道されている。このように日本の政府や自治体の中には、右派運動と官民一体の動きを繰り広げたり、あるいは炎上狙いの右派の動きと区別がつかないような振る舞いをしているものもある状況なのだ

 もはや、台湾での事件を引き起こした「慰安婦の真実国民運動」系が突出しているとは言えず、もちろん藤井氏個人に限定された問題でもない。むしろそうしたものが日本社会の主流となってしまっているのでは、という気がしてならない。

山口智美(やまぐち・ともみ)
モンタナ州立大学社会学・人類学部教員。ミシガン大学大学院人類学部博士課程修了、Ph.D. 日本の社会運動を研究テーマとし、70年代から現在に至る日本のフェミニズム運動、2000年代の右派運動などを追いかけている。共著に、『社会運動の戸惑いーフェミニズムの「失われた時代」と草の根保守運動』(斉藤正美・荻上チキとの共著、勁草書房2012)、『海を渡る「慰安婦」問題ー右派の歴史戦を問う』(能川元一・テッサ・モーリスースズキ・小山エミとの共著、岩波書店2016)、共編に『行動する女たちの会資料集成 全8巻』(行動する会復刻版資料編集委員会編、六花出版2015, 2016)など。現在、『田嶋陽子論』(斉藤正美との共著)と、日本の草の根保守運動についての単著を執筆中。「24条変えさせないキャンペーン」呼びかけ人。

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