私たちは、ネット上で意思表示をしたり、さまざまな個人情報を登録することに慣れてしまっている。
たとえば何者かが、あなたがあちらこちらのサイトでクリックした「いいね」を集めて解析すれば、あなたがどんなものが好きで、どんな性格で、どんな政治的信条や宗教観を持っているのかまで分析されてしまうかもしれない。
さらに、あなたがネット上で買い物をしていれば、買った商品だけでなく、悩んで比較した商品の閲覧記録からも、あなたがどのような生活をしているのかが見えてくる。
また、配送先や連絡先、口座番号に至るまで、実にあらゆる情報をさまざまなサイトに提供しているあなたのデータは、すでに漏洩して誰かに売買されているかもしれない。もはや、ネット上に散乱している個人の痕跡を集めたビッグデータとAIを使えば、特定の個人の人間像を浮かび上がらせることは不可能ではないだろう。
それならば、いっそのこと自ら個人情報を提供して、何かしらの対価を得た方が得ではないだろうか? という考え方もある。
そこで、登場したのが「情報銀行」だ。すでに2018年9月10日に、日立製作所と日立コンサルティング、インフォメティス、東京海上日動火災保険、日本郵便、デジタル・アドバタイジング・コンソーシアムというそうそうたる企業が、「情報銀行」の実証実験を開始したことを発表した。
そして、それに先立つ6月には、総務省も「情報銀行」の認定基準などを取りまとめた「情報信託機能の認定に係る指針ver1.0」を公開している。
さまざまな情報から個人が浮かび上がる時代
繰り返すが、私たちはSNSで「いいね」やコメントを投稿することで、多くの場所に自分の好みや心情・考え方に関する痕跡を残している。また、ECサイトで商品を比較したり購入したりした際の痕跡は消えてはいない。
これらの痕跡を集めてAIで分析すれば、その人の趣味や嗜好性、思想、生活習慣、家族構成などの人間像が浮かび上がってくるのだ。たとえばおむつや子ども服を定期的に購入していれば子育て中だとわかるし、ペットフードを購入していれば犬や猫を飼っていることもわかる。つまり、私たちはネット上でスケスケの服を着て歩いているような状態にある。
さらにスマートフォンを持ち歩くようになった今、GPSによる位置情報から行動範囲や行動パターンも読み取られるし、スマートスピーカーに話しかけた声の調子から健康状態まで解析することが可能だという。
もはや、調査する側がその気になれば、ネットユーザーの行動を四六時中追跡し続けることができるのだ。こうして入手された個人情報を、すでにネット企業は相互売買しているという話もある。このような現実に対して、どうせ知られてしまうなら、自分から情報を提供して運用してもらい、何かしらの対価を得た方が良いと思う人も出てくるかもしれない。そこで「情報銀行」なるものが登場する。