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携帯電話料金は本当に4割も安くできるのか?

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Thinkstock/Photo by ipopba

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 菅官房長官が携帯電話料金の値下げについて発言したことをきっかけに、総務省が携帯料金の引き下げについて検討を開始した。携帯電話の料金は本当に下がるのか、また、できるだけ安く携帯電話を使うためにはどのような工夫をすればよいのかを探った。

日本だけが特別高いというワケではないけれど…

 菅氏は8月21日に行われた講演において、突如「携帯電話料金は4割程度下げる余地がある」と発言。通信業界に激震が走った。安倍首相は以前にも、携帯電話料金の高さについて言及したことがあり、総務省が料金引き下げを検討したものの、結局は実現しなかったという経緯がある。

 安倍政権は携帯電話の料金引き下げに並々ならぬ関心を寄せているわけだが、その理由は、通話やデータ通信に関する費用が家計を圧迫しているからである。9月20日に行われた自民党総裁選では安倍首相の圧勝となったが、長期政権になるにしたがって国民の不満も高まっており、批判をかわすための目玉となる政策を探している状況だ。

 「現代人はスマホ中毒」ともいわれるほど、多くの人がスマホを利用している。政治の力でこれにかかる費用を大幅に安くしたということになれば、国民からのウケは確実によくなるだろう。

 携帯電話市場は形式的には自由競争となっており、市場メカニズムで形成された価格に対して政府が介入するのは、本来、あまり望ましいことではない。だが安倍政権の主張が不当なのかというと、必ずしもそうではないところが何とも微妙である。

 諸外国と比較した場合、通信料金そのものは特別に高いという状況にはなっていない。

 総務省が行った通信料金(月あたり通話70分、データ通信5Gバイト)の比較調査では、東京が月額3760円、ニューヨークが6187円、ロンドンが2505円、デュッセルドルフが3937円だった。ニューヨークが突出して高いが、東京は真ん中くらいの位置付けということになる。

 携帯電話のビジネスというのは典型的なグローバルな設備産業であり、どの国の事業者であっても、同じようなインフラ投資が必要となる。ほぼ同一の機器を使って基地局や基幹通信回線を運用することになるので、必要となるコストも大きく変わらない。結果として顧客から徴収する料金も似たような水準となる。

 通信サービスは音声中心にするのか、データ中心にするのか、どのような頻度で通話や通信をするのかによって変わってくるが、日本の料金だけが突出して高いというわけではないと思ってよいだろう。

日本では通信契約と電話機はセットが当たり前だった

 では菅氏の指摘のどの部分に合理性があるのだろうか。それは、料金の不透明性と利用者における選択肢の少なさである。

 スマホの普及で状況はだいぶ変わってきたが、ガラケー時代までは、日本の通信市場は典型的なガラパゴス市場だった。日本では通信会社(NTTドコモやソフトバンクなど)との契約とスマホの購入がセットになっているのはごく自然なことだが、これはむしろ世界的に見れば珍しいパターンである。

 諸外国ではスマホ本体の購入と通信サービスの契約は別々という概念が強く、必ずしもスマホ本体と通信サービスが一体となっているわけではない。

 つまり、各自が好みのスマホを買い、複数の通信会社の中から、自分にもっとも合った契約形態を選び出し、そのSIMを自分のスマホに入れて使うというのが当たり前だ。別のスマホが欲しくなった場合には、新しいスマホを購入して、SIMを入れ替えるだけですぐに使うことができる。

 日本でも理屈上はこうしたサービスが可能だったが、通信会社経由で購入したスマホでなければサービスを受けられないようにする仕組みを通信会社が構築し、これを政府や利用者も容認していたため、スマホ本体と通信サービスが事実上、一体となっていた。

 業界ではこれをSIMロックと呼んでいるが、こうした閉鎖的な商習慣が利用者の選択肢を狭めていたのである。

 一部の利用者から反発の声が上がっていたことから、総務省は2015年5月からSIMロック解除を義務化。新品のスマホについてはどの通信会社のSIMでも使えるようになった。中古端末についても来年をメドにSIMロック解除が義務付けられる見通しとなっている。

格安SIMを使えば通信費半額も十分に可能

 SIMロック解除が義務付けられたことで、SIMを自由に入れ替えることが可能となったほか、より割安な通信料金を提示する、いわゆる格安SIM事業者が市場に多数参入し、これによって料金の大幅な低下が期待された。

 格安SIM事業者というのは、NTTドコモやソフトバンクのように自前で通信回線を保有するのではなく、回線保有事業者から回線を借り受け、より安い価格でサービスを提供する事業者(MVNO:仮想移動体通信事業者)のことを指す。具体的には、b-mobile(日本通信)やIIJmio(インターネットニシアティブ)といった企業である。

 格安SIM事業者の料金プランを見ると、もっとも安いタイプでは、月500メガバイトの通信までは無料、通話の基本料金が1000円以下というものまである。データ量などに大きな制約が生じてしまうが、従来、月額1万円程度かかっていた通信料金を半額程度にすることは十分に可能なサービスが並んでいる。

 ところが、日本では携帯電話は通信会社から買うものという意識が強く、こうした格安SIMの存在について、よくわからないという利用者も多い。また既存の通信会社は、格安SIMに顧客が流れないよう、一見するとかなり割安に見える複雑な料金プランを多数提示し、顧客をつなぎとめようとしていた。

 日本の携帯電話料金に対する不満の根源はおそらくこの部分にあり、菅氏の発言もここを視野に入れたものということになるだろう。

 つまり携帯電話料金がいきなり4割下がるのではなく、格安SIMなど、多種多様な契約形態を顧客が選べるようにし、その中で、平均的な通信料金も下がっていくという図式である。

楽天が参入する来年がプラン見直しのチャンス

 今後の携帯電話料金のカギを握るのは、2019年10月に新しく携帯電話サービスを開始する楽天の動向だろう。

 楽天が参入を表明したのは、日本では格安SIMが十分に普及していないことをチャンスと捉えたからである。NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクよりも安めのサービス価格を提示できれば、本来、格安SIMに流れるはずだった顧客を確保できると見込んだ可能性が高い。

 だが今回の料金見直し騒動によって状況は大きく変わってしまった。

 政府も料金引き下げを打ち出した以上、成果ゼロというわけにはいかない。NTTドコモなど大手3社もそれなりに安いプランを出してくるだろう。そうなってくると最後発の楽天はさらに思い切った料金プランを提示する必要に迫られる。格安SIM事業者から顧客を奪うくらいまで値下げができれば、顧客数は稼げるだろうが、収益は犠牲にする必要があるかもしれない。

 だが利用者にとっては、競争環境が整うことは好都合である。家計の通信費が高いと思っている人は、来年の楽天参入のタイミングを狙って、格安SIMも含めた通信会社の乗り換えを検討するのがよいだろう。

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社などを経て独立。経済、金融、ビジネスなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。

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