「日本人の給与平均が上昇」はウソ!? 統計水増しのトリック

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Thinkstock/Photo by gyro

 日本人の給料が上がっていると言われて、本当にその通りだと実感できている人はどれほどいるだろうか。しかし、厚生労働省が発表した「毎月勤労統計調査」によれば、今年(2018年)に入ってからの現金給与総額の前年比率が上がっており、6月には一般労働者が前年比3.3%に達している。

 いやぁ、めでたい。いよいよ給与が上昇を始めた!……と思っていたら、この数字はイカサマだというニュースが流れた。

 スクープしたのは西日本新聞で、なんと調査対象の事業所をごそっと入れ替えたことで数字が上昇したというのだ。

 それ、トリックではないか。

 このスクープを受けて、専門家たちからも批判が出ている。安倍政権が景気対策で成功しているという印象操作をしているのではないかということだ。

 はたして、事実なのだろうか。

給与が多めに上がって見えるカラクリとは?

 問題になった「毎月勤労統計調査」は、厚生労働省が全国3万3000の事業所から得たデータの結果を発表しているものだ。

 西日本新聞によれば、今年(2018年)に入ってからの「現金給与総額」の前年比増加率が1月から6月まで順に1.2%、1.0%、2.0%、0.6%、2.1%、3.3%と順調に上がっているように発表されている。しかし、この数値は調査対象事業所の半数弱を入れ替えたために高くなったのだという。それでは前年と比べる意味はない。

 そこで同紙が、入れ替えとならなかった(つまり前年と同じ)半数強の事業所だけで集計したところ、同じく1月から6月まで順に0.3%、0.9%、1.2%、0.4%、0.3%、1.3%でしかなかったという。6月に至っては約3倍の違いが出ている。

 この統計手法にはエコノミストたちからも、実際の給与の増加がほとんど見られなかったにもかかわらず多めの数値が公開されたことで、世論をミスリードしかねないと批判が出ている。

統計サンプルを変えるのは精度を上げるため?

 西日本新聞のスクープ通りに解釈すれば、調査対象を入れ替えたことで統計が水増しされたことになり、由々しき問題だ。

 ところが、「毎月勤労統計調査」はそもそも当てにならない統計だったことも指摘されている。

 実際、厚生労働省自身が『毎月勤労統計におけるローテーション・サンプリング(部分入替え方式)の導入に伴う対応について』で、もともと調査対象事業所は2~3年ごとに入れ替えをしてきており、今年(2018年)からは毎年1月分の調査で一部を入れ替える方式に変更したことを説明している。

 つまり、調査対象を変えたことを表明しているのだ。それが「ローテーション・サンプリング」という手法だ。この調査方法は、労働力調査や家計調査でも使われており、特に珍しい手法ではない。つまり、いつも同じ調査対象では、偏りが出てしまうことを避けることが目的になる。

 ただ、これまでのように、2~3年ごとにごっそりと総入れ替えをしていたのでは前年度との比較ができないため、今年から来年にかけて半分を入れ替え、それ以降は毎年3分の1を入れ替えていく方式にした。

 とはいえ、サンプルが入れ替わったことで前年との比較に意味がなくなるため、厚生労働省は変化しなかったサンプル分の統計も参考値として公開していたのだ。

 これは西日本新聞も把握しており、同社の記事中に掲載したグラフでもブルーの線として描かれている。簡単にいってしまえば、そもそも『毎月勤労統計調査』の数値など当てにしてはならないということになる。それでは、こんな当てにならないデータの不備を西日本新聞が指摘したこと自体が無意味だったのだろうか。そんなことはない。

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