LGBTへの偏見が声高に叫ばれたいま振り返りたい、長谷川博己がゲイ男性を演じた名作「トーチソング・トリロジー」

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ハセヒロ、29歳のときの作品。

 劇場へ足を運んだ観客と演じ手だけが共有することができる、その場限りのエンターテインメント、舞台。まったく同じものは二度とはないからこそ、時に舞台では、ドラマや映画などの映像では踏み込めない大胆できわどい表現が可能です。

「同性愛者には生産性がない」という乱暴な言説への応酬が、世間を騒がせています。多様性の尊重がうたわれる現代において、性的指向で、他者を愛したい、愛されたいという普遍的な感情を傷つけることがどれほど悲しいことか。こうした同性愛者の生きづらさともに、ひとを愛するとはどういうことかという根源を描いた舞台「トーチソング・トリロジー」は、約40年前の作品にもかかわらず、まるで今の日本の社会を映しとったかのように鮮烈でリアルです。

 かつて上演された2006年、ナイトクラブで働く「女装のオカマ」と彼の同性の恋人たちをめぐるこの物語に、10月から始まるNHK朝の連続テレビ小説「まんぷく」、そして2020年の大河ドラマ「麒麟が来る」で主演予定の長谷川博己が出演していました。今は演技派として知られる長谷川がまだ、コアな演劇ファン以外にはそこまで知られていなかった20代の若手俳優だったころで、主人公の若い同性の恋人役への抜擢に大いに応え、以降の活躍への期待を高めた作品でもあります。

「トーチソング・トリロジー」は、自身もゲイであることを公言している俳優・劇作家で、同性愛者の権利向上を目指す作家としても知られるハーヴェイ・ファイアステインの半自伝的な先品です。1978年にハーヴェイ自身の主演でオフ・オフ・ブロードウェイで生まれ、ブロードウェイに進出し83年にトニー賞を受賞。日本では1986年に鹿賀丈史の主演で上演され、88年には作者自身の脚本・主演で同名の映画にもなっています。

恋人の元恋人に会いたがる青年

 日本での近年の上演は、2006年の鈴木勝秀演出版。ニューヨークのナイトクラブで女装して働く主人公アーノルドを篠井英介、彼の恋人でバイセクシャルのエド役を橋本さとし、そして長谷川は、アーノルドがエドと別れた後に付き合い彼にプロポーズする年下の恋人アランを演じていました。

 舞台は1972年、アメリカのなかではリベラルでゲイにも比較的寛容なニューヨークのブルックリン。ナイトクラブで女装して働くアーノルドは、保守的な田舎出身で教師をしているエドと出会います。ゆきずりの関係しか持てなかったエドは初めて、アーノルドを大切な相手だと感じますが、世間の常識にとらわれ、女性の恋人ローレル(奥貫薫)のもとへ去っていきます。1年後、アランと付き合い始めたアーノルドの下へ、ローレルからエドの農場で一緒に週末を過ごそうと誘いが届きます。

 その誘いの電話が初めてのローレルとの会話だったアーノルドは戸惑いますが、「俺、行きたい」と口をはさんできたのがアラン。この第一声から、長谷川は色気が全開でした。農場で執拗にアーノルドに「本当にエドを愛してた?」と問いかけるアランの行為は、アーノルドとの年齢差もあり子供のような駄々に見えてもおかしくないはずですが、オトナの男性の色っぽさそのもの。その根底にある、愛情への飢えを垣間見せるアランに対し、アーノルドの答えは「あたしが愛したから。あのひとがそうさせてくれたから」。

 アランのことを知らなかったエドは憤ってローレルにあたり、アーノルドにも「君はアランを愛してない」と詰め寄ります。エドと一緒に住んでいるローレルも、エドの中にはアーノルドが存在していることを感じ、彼との関係に確信を持てていません。

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