ちぎりとられたダイバーシティ――大坂なおみ選手が可視化した人々

社会 2018.09.25 15:15

写真:田村翔/アフロスポーツ

 2018年9月13日のアディダスのメルマガは「大坂なおみ選手着用アイテムのご紹介」と題されていました。1度リンクに触れれば、「大坂なおみ着用モデル」のタンクトップやリストバンド、スコート、シューズの購入画面へとひとっ飛び。快挙を成し遂げるアスリートの身体が、商品の広告塔であることなど、とっくにわかっているつもりでした。スポンサー契約を結んでいるからこそ、より良い環境で練習に励めることも知っているし、そもそもオリンピックに限らず、さまざまなスポーツイベントが政治的・経済的・社会的な思惑がぶつかり合う舞台でもあることなんて、もはや常識とすらいえます。でも、9月13日のその広告が、僕にとってはいつもとは少し異なる意味合いをもっていました。

 言いようのない、不安。……なぜだろう。

 少し考えて、きっと前日に読んだ『日刊ゲンダイDEGITAL』の記事の内容が、頭の片隅で残像として残っているからだ、と思い当たりました。

 「大坂なおみ全米制覇で 黒人ハーフのジュニア育成急加速?」と題され、「外国人の血に頼らざるをえないということか」という一文から始まる記事によれば、将来のトップアスリートとして活躍が期待されるジュニア選手の育成にあたっている「関係者」が「黒人とのハーフを育成した方が五輪のメダルの可能性は高い」という理由から「早くもハーフの子供たちに目をつけている」そうです。その状況をリポートした上で、「今さらだが、国籍に肌の色は関係ない」という文言で締めくくられていました。

 表彰式で日の丸を掲げるためには、もはや「頼らざるをえない」状況だから「国籍に肌の色は関係ない」ということにしておこう、といったところでしょうか。生物学的に否定されている「人種」をイメージさせる「外国人の血」という表現にはじまり、まるで、「使えるモノなら使ってしまえ」とでもいうような、日々の練習で懸命にモノにした身体技法をもつ1人の人間を、あたかも使い勝手のいい、役に立つ「物(モノ)」かのように眺める視線について、記事のなかでは特に批判的に述べるパートはありません。

 おそらく、記者にとっては、話題になりそうな現状報告をスピーディに「客観的中立」に報じてみせただけ、というところでしょう。

 ですが、『日刊ゲンダイDEGITAL』だからこそ、記者の意図を越えて、意味をもってしまう部分があります。『日刊ゲンダイDEGITAL』が2016年7月22日に掲載した「甲子園地区予選を席巻 “ハーフ球児”スカウティングの裏側」と題した紙面を引用してみましょう。

「中でも父親が外国人のハーフ選手には、母親が女手ひとつで育てているケースが多い。経済的に恵まれない家庭は、喜々として子供を野球留学させますよ。母親にしてみれば子供を寮に入れてもらえるわ、学校にしつけもしてもらえるわ、子供が思う存分、好きな野球に打ち込めるわと、いいことずくめですからね」

 このように語る某「野球名門校の監督」の言葉をそのまま――つまり、「ハーフ」球児の経済状況・家庭状況を積極的に「利用」してスカウトに勧誘することへの批判的目線もなしに――紙面に載せたメディアこそ『日刊ゲンダイDEGITAL』でした。「今さらだが、国籍に肌の色は関係ない」というような締めの言葉は、2016年の記事にはありません。仮説的には、2年前よりはメディアとしての立場が「ハーフ」に熱いまなざしを送る「関係者」サイドに1歩ないし数歩、寄っているといえそうです。

 何が寄っているのでしょうか。

 「役に立つ存在としてハーフに目を向ける」という、その身振りです。

 この立場の変更から、誰にとっての「客観的」な記事なのか、どのような状況であれば「中立」であるといえるのか、というジャーナリズムのありように関わる論点が提出できるかもしれませんが、話を前に進めます。

 アディダスの広告を見た時のモヤモヤとした感覚は、おそらく上記の記事によってもたらされた部分もあるのかもしれません。しかし、それが全てだともいえなさそうです。おそらく、第2の理由は、ある人物のツイートにあります。

 与党の衛星政党となってしまったので「失敗だった」と、設立者の橋下徹氏に新しい書籍の中で烙印をおされた政党・維新の会に所属する、足立康史議員。彼のTwitter上での発言です。

「ノーベル賞、オリンピック等で快挙を成し遂げた日本国民には、二重国籍の特例を認めたらどうかな。こういうこと言うと、またTwitterのフォロアー激減しそうだけど、日本国民の皆さんはどう考えますか」(2018年9月10日12時35分)

 日本にルーツをもちながらも、国籍法によって日本国籍を奪われる状況にある人々。そのような人々がもし「快挙を成し遂げた」ならば、「特例」として「日本国民」の側にも迎え入れようではないか。そのように解釈可能な発言だと思われます。その代わり、快挙を成し遂げられない人物には恩恵としての日本国籍をプレゼントするわけにはいかないし、「日本人」の枠に入れるわけにはいかない、という言外のニュアンスも含まれているように思われます。

 どうやら、先ほどの記事の「関係者」と共振する視線はここにもありそうです。

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ケイン樹里安

2018.9.25 15:15

大阪市立大学都市文化研究センター研究員,文化社会学/文化研究。HAFU TALK共同代表。書籍『ふれる社会学』(北樹出版,2019,共編著),『アーバンカルチャーズ――誘惑する都市文化,記憶する都市文化』(晃洋書房,2019年,分担執筆),『いろいろあるコミュニケーションの社会学』(北樹出版,2018年,分担執筆),『ポスト情報メディア論』(ナカニシヤ出版,2018年,分担執筆).論文「共に都市を歩くーー『フィリピン・ハーフ』かつ『ゲイ』の若者のアイデンティティの軌跡」『都市問題』(後藤・安田記念東京都市研究所,2020年)「『日中ハーフ』とメディアの権力――『日中ハーフあるある』動画の多義性」『新社会学研究』4号(180-202,2019年),「『半歩』からの約束――WEBメディアHAFU TALK(ハーフトーク)実践を事例に」『現代思想特集 特集:新移民時代』(青土社,187-199,2019年),「ハーフの技芸と社会的身体――SNSを介した相互交流の場を事例に」『年報カルチュラル・スタディーズ』5号(2017年).*「ハーフ」に限らず海外ルーツと身の回りの人を繋ぐWEBサイトHAFU TALK(ハーフトークhttps://www.hafutalk.com)共同代表。

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