世界保健機関(WHO)の調査によれば、不妊の原因は女性単独(41%)、男性単独(24%)、男女両方(24%)で、約半分は男性にあることがわかった。ただ、株式会社リクルートライフスタイルの調査によると、不妊の原因の約半分は男性側にあることを知っている男性は46.4%、女性は56.7%と認知度はあまり高くない。さらに、医療機関で精液検査を受信した経験があるかを聞くと、13.0%しか「あり」と回答しなかった。精液検査を受けなかった理由の1位は「自分に問題があると思わないから」(38.0%)。次いで、「費用がかかるから」(20.8%)、「時間がないから」(14.8%)だった。不妊を“女性問題”としてのみ捉え、関心を持てないでいる男性は少なくないのが現状である。
しかし9月19日の『クローズアップ現代+』(NHK系)では、不妊が“男性問題”でもあることを突きつけた。「精子力クライシス」と題し、不妊治療の現場の問題点などを特集したのだ。
不妊治療で1000万円が飛んだ
番組ではまず、不妊治療を7年間続けてきた女性・ゆかりさん(仮名)へのインタビューを流した。ゆかりさんは夫婦で初めて訪れたクリニックで、夫の精子の数などが自然妊娠の基準に満たないことが判明。医師からは「不妊治療をすれば大丈夫」と言われ、母体から卵子を取り出し、その中に精子を一匹注入する“顕微授精”を勧められたという。
しかしなかなか妊娠には至らなかった。クリニックを変えても医者の方針は基本的に一緒で、1回数十万円もする顕微授精を7年間で14回も受けたため、「治療費だけでも1000万円は超えた」と語る。
その後、5軒目のクリニックで初めて、男性不妊を専門にする泌尿器科医を紹介してもらい、夫の精子改善の治療を受けることに。その結果、精子の状態が改善し、妊娠。しかし、ゆかりさんは「治療を始めた最初のうちに知識を知っていれば、という思いはすごくありました」と後悔を口にした。
泌尿器科を勧めないのはなぜか
そもそもなぜ精子の状態に問題があるのに、クリニックでは泌尿器科の受診を勧めなかったのだろうか。番組では横浜市立大学附属 市民総合医療センター・生殖医療センターの泌尿器科医である湯村寧氏が産婦人科医を対象に実施した調査を紹介した。
それによると、男性に不妊の原因が疑われる場合に、「泌尿器科を勧めない」、「患者の希望次第で泌尿器科を勧める」、「高額な治療を希望しない場合のみ泌尿器科を勧める」など、積極的に泌尿器科を勧めないという回答は4割にも上った。
なぜ泌尿器科を勧めないのか。この理由について、番組では産婦人科界の重鎮、慶應義塾大学名誉教授の吉村泰典氏が登場し、「不妊治療をするための商売といいますか、非常に経済的な側面が重視されているんじゃないかと。医療者側とすれば顕微授精、ようするに体外受精はある一定の数をこなしたいと思いますよね」と指摘していた。ただし、あくまで憶測でありその根拠は紹介されてはいない。
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